第57話 問われる勇者職




「――クロウ様が勇者パラディンになるかもしれない……」


 アリシアが呟きながら瞳を輝かせる。

 何期待してんの、お前?


 誰もやるなんて言ってないよね?


 エドアール教頭も「保留」ってはっきり言ってんじゃん!

 ウィルヴァはどうすんのよ!?


 確かに『勇者パラディン』になれば色々と特権がつくと聞いている。

 歴史上でも庶民から国王になったという伝承もあるくらいだ。


 だが所詮は狭き門。


 五年後の記憶と技能スキル、それに《タイム・アクシス時間軸》があるから有利とはいえ、雑用係ポイントマンの俺なんかが簡単に得られる職種じゃないんだ。



 そもそも、勇者パラディンとは一国を代表する象徴であり英雄である――。


 王立恩寵ギフト学院スキル・カレッジで好成績を収め、有力者達の推薦とフレイア大神殿の厳しい審査試験を通った者が初めて『勇者パラディンの称号』が得られた。


  しかも運も必要であり、先代の勇者パラディンの枠が空かなければ権利は発生しない。

 つまり入れ替わりという形となる。


 但し『竜狩り』を主とし、常に前線に立たなければならない勇者パラディン職は引退時期が早いとされていた。


 例えば勇者が戦死するか。失態続きで資格を取り消されるか。

 自ら引退して別の高役職に就くか。

 さらに『竜殺しドラゴンスレイヤー』の称号を得るか等が挙げられる。


 したがって若いうちが適任だと言われているが、上記のような厳しい条件もあり、過去において5~6年は空席であった時期もあった。

 


 現時点でまだ勇者パラディンは健在だが、俺らが卒業する頃に丁度権利が発生する筈だ。


 未来では、ウィルヴァが教頭の推薦枠でフレイア神殿の試験を受けてすんなりと称号を得ている。

 特にエドアール教頭のような王家に属する者の推薦は下手な貴族から推奨されるより、さぞ大きなプラスとして働いたことだろう。


 そして今現在。


 勇者パラディンになれるチャンスが優秀なウィルヴァだけじゃなく、この俺にも巡ってくるかもしれないって話なのだが……。



「――しかし、クロック君には一つだけ問題がある」


 エドアール教頭は両腕を組み難色を示す。


「俺に問題……ですか?」


「そうだ。キミは未だEクラスに在籍していることだよ」


 何だと?

 またその話か……。


 つーか、やっぱりエドアール教頭の差し金だったんだな?

 きっと前にスコット先生から、俺がAクラスに移動することを拒んだことを根に持って渋っているのだろう。


「俺がEクラスにいることが、そんなにいけないですか?」


「スコット先生から聞いている筈だよ。だが誤解をしないでほしい……別に私はEクラスが悪いと言っているわけじゃない。ただ『勇者』を目指すなら、それ相応の立場に在籍している必要がある。考えてもみたまえ、一般の兵士が他の役職を飛び越えて、いきなり騎士団長になれるわけないだろ? 周囲の示しだってある。クロック君、キミは『対竜撃科』に移るべきだ。その為に、こうして先生達にも立ち会ってもらっているんだ」


 エドアール教頭に言われ、彼の後ろに立っている先生達の顔を見据える。


「イザヨイ先生のクラスじゃなく、ニノス先生やシャロ先生のクラスも移動対象になるのですか?」


「そうだ。キミの特殊スキル能力……《タイム・アクシス時間軸》だったね? 効果系のようだが未知数な部分が多い。近接戦闘が得意のAクラスなのか、遠距離や隠密が得意のBクラスか? それとも後方支援型のCクラスなのか、いまいちわからないからね。勇者パラディン職も必ずしもAクラスである必要もないと思っている。但し『対竜撃科』に限るがね」


 評判通りだな、この教頭先生は……。


 普段から実力主義を謳うからか生徒を区別したがる傾向があるようだ。

 だから生徒同士から妙なヒエラルキーやカースト思考が生まれるのだろう。


 しかし、エドアール教頭が言わんとしていることはわからなくもない。


 少なくても俺をきちんと評価してくれた上での助言に聞こえる。

 わざわざ1学年の先生達を集めているのも、その誠意と受け止めてもいいと思う。


 何か他に裏がありそうな吸血鬼ヴァンパイア教頭だが、話を聞く限り悪い印象はない。


 だけど……。


「――お断りします。俺はEクラスのままでいいです」


「何故、そこまでそのクラスにこだわる? スコット先生から報告を受けた、この『学院の体制』に対する不満からかね? 確かにキミのスキル鑑定ができなかったのは学院側の落ち度だ。クロック君には大変失礼なことをしまったと思っているよ……だからこそ、こうして話し合いの場を設けているつもりなのだが?」


「その事もありますし、これは俺自身の挑戦でもあります。劣等生の集まりとされた、Eクラスで雑用係ポイントマンとしてどれだけ這い上がれるのか……それに俺はリーゼ先生のクラスで学びたいと思っています。そもそも俺は勇者パラディン職を目指しているわけじゃありませんので……」


 俺の返答に、エドアール教頭だけでなく、リーゼ先生も複雑な顔を浮かべている。


 彼女の中で自分の下で学びたいと言い切った嬉しさと、勇者パラディンになることを結婚条件と決めている失望感が入り混じってしまったようだ。


 悪りぃ、リーゼ先生……決して嫌いじゃないけど、流石に15歳で結婚意識は芽生えない(精神年齢21歳)。


 だけど安心してくれ。卒業までに必ず無難な男を紹介してやるからな!

 娼婦館ルートだけは絶対に回避してやるよ!


「うむ……担任のリーゼ先生はどう思われます?」


「えっと~、はい……クロックくんが勇者パラディンを目指さないのは、先生として凄く残念ですぅ。でも他の道を歩むのであれば、先生はそれについて行きたいと思ってますぅ!」


 おい、リーゼ先生、何言ってんの!?

 どさくさに紛れて結婚条件変える気だ!

 

 つーか、エドアール教頭が聞いた内容はそこじゃないよね!?

 この先生、どんだけ俺との結婚に本気なんだ!?


「クロック君とパーティを組んでいる、女子生徒諸君にも伺いたい」


 エドアール教頭は隣に座るアリシア達に意見を求めてきた。


「私はクロウ様が望まれる道を共に歩む、それだけです」


「アリシアさんと同じです。兄さんが思うままでいいと思っています」


「ボクもだよ~。クロウと一緒にいることに意味があるからね~」


「アタイもクロウの好きなようにしていいと思うよ」


「そもそも私達がクロウさんのやりたい事に意見を申すのは筋が違うと思います」


 みんな俺のことを考えてくれた返答をしてくれる。

 ユエルは元々として、本当にみんないい子ばかりだ。


 だから余計、あの糞未来で勇者パーティを組んだメンバーと同一人物とは思えない……。

 人格が入れ変わっているような気がしてならない。


 あるいは誰かに操られていたとか?

 数年間、四六時中ってか?

 流石にそれはないか……。

 


 女子達の返答を聞き、エドアール教頭は深く溜息を吐く。


「まぁ、今はそれでいいだろう……クロック君の成績次第で二年生か三年生で移動させることもできる。何せ生徒のクラス移動自体が稀なのだからな。それにキミの才能に気づけなかったのは、あくまでスキル・カレッジ学院側の落ち度でもある……そこは深く反省し、クロック君の要件を受け入れようじゃないか」


 教頭がそう言い切ると、後ろに立つ先生からも「はぁ~」っと安堵した溜息が漏れる。


 先生達の間で、俺達生徒側と違う緊迫感があったのだろうか?


 どちらにせよ、俺はEクラスにいられることになった。

 同時に『勇者パラディン』を推薦する話も保留になっちまったがな。


 エドアール教頭の話からすると、俺の今後の成績次第だそうだ。



 コンコン――。



 遠くの扉から微かにノックする音が聞こえる。


「入りまたえ」


 エドアール教頭が言うと扉が開けられ、誰かが入室してくる。


 そして俺達の前に姿を見せた。


 ほんのりと燭台しょくだいの灯りに照らされる銀髪の男子生徒――。


「お前は……ウィルヴァ!?」


 もう一人、勇者パラディンの推薦候補とされ、俺にとっては宿命のライバル。



 ――ウィルヴァ・ウェストの姿だ。






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