第55話 対竜撃科の教師




 一晩休み、俺は普段通りにスキル・カレッジに登校した。


 今日からまた学生に戻ったってところだ。

 ぶっちゃけ冒険者の方が気楽で、スローライフを目指す俺としてはハマっていると思う。

 何せ精神年齢は21歳だからな。


 したがって、今後も定期的にギルドに行ってクエストを受けたいと思っている。

 このまま順調に行けば学生のうちに間違いなくSランク、いやSSSランクになれるかもしれない。


 そうなりゃギルドにおいて、勇者パーティとほぼ同じ立場で同等の報酬額だし国の援助がない分、自由度も高い筈だ。


 おまけに、ギルドで高難度のクエストを達成することで、スキル・カレッジの成績にも反映されるからな。

 元々、『竜狩り』ができる強い生徒を育てるのが学院の方針だからである。


 勿論、ウィルヴァのようにスキル・カレッジの授業で好成績を残すのがベストのやり方だろう。


 だけど俺はギルドのクエストをあえて積極的にこなしていきたい。

 どうも、あの学院のカースト制度やヒエラルキー構造が好きになれないからだ。


 あくまで垣根なく、実戦と実力でウィルヴァと勝負して超えたいと思っている。


 その為にはスキル・カレッジで頑張るよりも、実績で認められるギルドのクエストを着々とこなしていた方が、俺には合っているのかもしれない。




「――クロウ様、おはようございます!」


 アリシアが堂々とEクラスに入ってくる。


「ああ、おはよう。昨日は眠れたか?」


「え、ええ……そりゃもう」


 何故か嬉しそうに頬を染める、アリシア。

 さぞいい夢でも見ていたようだ。


「また連休でギルドのクエストに参加したいと思っている……その時は、またアリシアも付き合ってくれるかい?」


「ええ、勿論です。その際は是非に」


 本当に忠誠心が高い奴……いや女の子だな。

 今じゃすっかり信頼できる仲間だ。


 仲間……か。


 俺は元々アリシアをどう思ってたんだろうな……。


 五年後の未来じゃ、とにかく苦手な女だった。

 高圧的だし命令口調だし、俺を無能者呼ばわりしていた女。

 おまけに俺がサボってたり、ユエルと仲良く話していると手を出すこともある凶暴な一面もあった。

 自分はウィルヴァを『主』と呼んで、俺に見せつけるように慕っていやがった癖によぉ……。


 ――おっ。


 やばいぞ、この思考の流れ……。


 またトラウマ・スイッチが入る前兆じゃね?


 危ねぇ……ブレーキしておかないと、またアリシアに当たり散らしてしまう。


 あの糞未来で唯一良かったのは、こいつは何かと俺の傍にいて本当に命が危うくなるピンチの時は必ず駆けつけて助けてくれたことだ。

 もっと早く助けてろよっと、愚痴を漏らしながら感謝して同時にその強さに憧れを抱いた。


 …………待てよ。


 今思えば、あの未来でも俺はアリシアに守られていたのか?



「――クロウ様、如何されました?」


「いや、なんでもない……アリシアは変わらず今のままでいてほしいと思ってね」


「勿論です。以前お約束した通り、このアリシア・フェアテール、ずっとクロウ様のお傍におります」


「え? あ、ありがとう……」


 何だ、これ?

 まるで告白を受けたように胸がきゅんとしてしまうじゃないか。

 思わず勘違いしてしまいそうだ。


 それにクラス中から注がれる視線も痛い。


 何せ、Aクラスのエリートで特に女子から人気の高い女騎士、アリシア様から大衆の面前で熱烈な忠誠を誓われているんだからな。


 見方によっては愛を囁かれているようにも聞こえてしまう。


 しかも公然の場で堂々と……。


 クラスの連中が、俺とアリシアに対して異物を見る目で凝視しているのがわかる。

 

 それじゃなくても劣等生扱いされ、ネガティブなクラスなのに、より空気が重く感じてしまう。



 そんな中、担任のリーゼ先生が教室に入ってきた。


 ん? 朝のホームルームには、まだ少し早いようだが?


「みんな~、おはようサンキュ~!? 今日も一日ハッスルしちゃうぞ~って、あれ? 貴方はAクラスのフェアテールさん?」


「ああ、先生殿すまない……それではクロウ様、また後ほど」


「ああ、またな、アリシア」


 アリシアは足早に教室から出ようとする。


「フェアテールさん」


「先生殿、何か?」


「担任のイザヨイ先生からも言われると思うけど、ホームルームが終わったら、教員室に来てね」


「……あい、わかった」


 アリシアが返事だけして教室から出て行った。


 教師に呼ばれるなんて、あいつ何かやらかしたのか?

 まさか、また誰かに決闘を申し込んだのか?


「クロックくんもだよ~」


「え? 俺も?」


「そっ、先生も一緒に同行するからね」


 何だろ?


 教員室に呼ばれるなんて、スコット先生にAクラスへ移動するように誘われた時以来だ。




 ホームルーム後。


 俺はリーゼ先生と教員室へと向かった。


 案の定、1学年の主任教師のスコット先生と、Aクラスの担任のイザヨイ先生が待っていた。

 それにBクラスの担任ニノス先生と、Cクラスの担任シャロ先生までいる。


 ニノス先生は、不健康そうな色白で全体的に細身で長い茶髪を鶏冠とさかのように立ててキメている随分と派手な男性教師だ。

 吊り上がたような切れ長の双眸でいつも不敵に微笑んでいる。どこか爬虫類っぽい印象を持つ。

 俺の記憶だと元盗賊シーフの首領であり、または伝説の暗殺者アサシンだったという、どれが本当なのか経歴不明の謎めいた部分が多い人だ。


 シャロ先生は、ホビット族の女性であり見た目は、足元まで長い深緑色のおさげ髪をした可愛らしい幼女の姿をしている。

 実年齢は34歳くらいで人族より寿命が長いホビット族の中では成人にあたる女性だ。

 なんでも『竜』に滅ぼされた王国の王族だったようで、白魔法と黒魔法から神官魔法まで多才に使い分ける魔法のスペシャリストらしい。



 俺は先生達に向けて「どうも……」と頭を下げていると、他の生徒達が教員室へ入ってきた。


 アリシアを先頭に、セイラとディネ、メルフィとユエルの五人の女子である。

 

 何だ……この錚々そうそうたる顔ぶれは?


 A・B・Cクラスの『対竜撃科』の生徒と教師が揃っている状況じゃないか。


 ディネはともかく、優等生のメルフィやユエルがいるのだから、怒られるために呼び出されたとかではなさそうだ。


 つーか、俺何もしてねーし。


 スコット先生が最初に口を開く。


「生徒及び、先生方まで急遽集まってくれて申し訳ない。一限目の授業は自習扱いにしたから、どうか安心してほしい」


「教頭に呼び出されているんしょ~? ここじゃしゃーないじゃん」


 ニノス先生は教師とは思えないフランクな口調で言った。


「末端とはいえ王家の血を引く方でしゅからね。実際、学院長より権限があるかもしれないでしゅ。いや間違いなくあるでしゅ」


 シャロ先生は可愛らしい本当の幼女のような喋り方だ。本人曰く、語尾の「でしゅ」は口癖らしい。

 

「ニノス先生にシャロ先生……そういう事は生徒の前で言うものじゃありませんよ。ねぇ、リーゼ先生?」


「えっと~、イザヨイ先生、私も教頭先生は苦手ですぅ~」


 うん、リーゼ先生も相変わらず期待を裏切らない返答だな。


 どうやら、教頭は学院長以上の発言力はあるけど、他の先生達にはよく思われてないようだ。

 未来で劣等生扱いだった俺は、まるっきり相手にされてない生徒だったので印象は薄いけどな。

 つーか、一度も会ったことすらない。


「うむ。先生たちの言いたい気持ちは、私も理解している。だが、イザヨイ先生の言うことが最もだ。我ら教師は生徒の見本となる立場……学院内での言動は慎みましょう」


 スコット先生は軽く咳払いをしながら場を宥める。


 なんだか大人の世界って大変だなぁっと思った(精神年齢21歳)。


 それに、どうやら俺達が集められたのは『教頭先生』の指示があったからのようだ。


 こうして呼び出されたってことは、教頭が俺達に会いたがっているってことだよな?






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