第54話 アリシアの秘密




~アリシアside



 私がクロウ様をお慕いする理由がそこにある。


 何故ならずっと以前から、あの方を知っているからだ。


 そう、孤児院で過ごしていた時から――。




 私はクロウ様が過ごされた孤児院とは別地区で暮らしていた。


 クロウ様は覚えてないようだが、あの方とは孤児院時代に何度かお会いしたことがある。

 

 年に数回ほど開催される別地区同士の孤児院交流会の日、その移動中に私はみんなからはぐれて山中で迷子になってしまった。


 心細く泣きながら蹲っている中、私は同じ歳くらいの子供と出会う。


 これまでの交流会で見覚えのある黒髪の男子。


 それが当時の『主』こと、クロック・ロウ様になる。


 どうやら、クロウ様も集団からはぐれてしまい同じ迷子だったらしい。

 だがあの方は泣き崩れることなく、寧ろ毅然とした振る舞いだった。



「――泣いて誰かが助けに来るわけじゃないし、見つけてもらえる方法を二人で考えようよ。幸いお弁当はあるから二人で分けりゃ一日~二日はしのげるだろ?」


 ハンカチで私の涙を拭きながら、優しく諭すようにクロウ様は自分の食糧を分けてくれる。


 あの方の気持ちの強さ優しさと行動が、不安だった私の心をどんなに和ませてくれたことか……。


 翌日の朝、職員の大人達が私達を見つけて無事に保護してくれる。


 何でも所々の木に『印』が彫り込まれ、それを辿って来てくれたらしい。


 実はクロウ様が所持していたナイフで移動しながらつけた目印であり、その痕跡を辿って早期に探し出していたのだ。


 保護された私達は離れ離れになってしまったが、お互いに名前を教え合っており、あの綺麗で特徴的な黒髪も私は鮮明に覚えている。



 そして、互いに交わした約束も――。



 遭難した満月の夜。


 大木の下で私達は互いに身を寄せ合いながら、寒さを凌いでいた。


「ねぇ、クロック……」


「なんだい?」


「無事に戻れて、大人になったら私を……お嫁さんにもらってくれる?」


「うん、いいよ~(軽)」


 そう、クロウ様は確かに了承してくださった。



 ――私達の出会いは紛れもない運命だと確信する。



 だが肝心のクロウ様は、今の私と再会しても気づかないようだ。


 無理もないかもしれん。

 私の名前は変わっているし、養女とはいえ今では伯爵家の令嬢だ。


 きっと真実を伝えねば想像すらつかないだろう。



 王立恩寵ギフト学院、スキル・カレッジの入学式。

 

 私は、クロウ様を見かけ心が舞い踊った。

 変わらずの神秘的で艶やかな黒髪、そして精悍な雰囲気。


 きっと事情を説明すれば、嘗て婚約を結んだ私だと思い出してくださるだろう。


 しかし一つだけ気掛かりはあった。


 あの方が何故か『Eクラス』に在籍していたことだ。

 確かあのクラスは覚醒の儀式で、名もつかないレアリティエラーの特殊スキルを持つ者ばかりの筈……。


 ふと義弟のアウネストが過る。

 まぁ、だがこの学院に在籍するということは、少なくても「無能力者」ではない。

 

 そう思いながらも、私はクロウ様のことが気掛かりとなった。

 目であの方を追いつつ、入学式後お一人で『聖堂』に向かっていたのを知る。


 私がこっそりと覗き込んだ時、既にクロウ様の姿はなかった。


 その代わり、あの方が自分を調べたとされる『スキル鑑定祭器』の結果が保存されており、それを観覧することができた。


 見た瞬間、


「――なんだ……これは?」


 全体レベルこそ私の方が上だったが、修得した技能スキルの数とLv値が尋常ではなかった。


 まるで歴戦の暗殺者アサシン……いや雑用係ポイントマンか?

 おまけに剣術や盾術の技能スキルも持っている。

 Lv値は中間よりちょい上くらいだが、まだ高等部の学生と考えると冒険者として十分に通じる範囲だ。


 なるほど、そういうことか……。


 私は推論に達する。

 おそらく特殊スキルが低い分、技能スキルで補おうと努力されていたのだな。

 この鑑定内容を見る限り、相当な苦労をされた筈――だと。

 

 流石は我が婚約者だが、果たしてどれくらいの力量なのか?


 ――ここは探ってみる必要がある。

 

 無礼と思いつつも、私はクロウ様に決闘を挑んだ。


 そして完膚なきまで敗北する。


 しかも、まさか「相手の時間を奪う」っという特殊スキルまで持っていたなんて……。

 これまで何故スキル鑑定されなかったのか、ご本人もよくわからないとか?


 しかし、これで私は迷うことなく、この方を『主』として仕える覚悟ができた。

 敗北した当日に家族にその旨を伝える。


 元々あまされ者の私は特に反対されることなく、「フェアテールを名乗る限り家名に傷だけはつけるな」とだけ、母上とアウネストに言われた。


 唯一、父上だけは心配してくれたが、今回初めてクロウ様にお会いして納得されたご様子も伺える。

 今の所は至って順調の筈だ。


 しかし、ふと思うこともある。


 クロウ様は私のことをどう思っているのだろう?


 忠誠を誓った当初は拒まれた。

 そこは決闘をふっかけた私が悪いので仕方ない。


 だが、その後も何か気持ちにムラを感じる。

 普段はお優しいのに、ふと思い出したかのように激昂され怒鳴ったりされる。


 特に私に対し厳しいお言葉が多いのは気のせいだろうか……?


 ――林間実習で野営した時、クロウ様は私にだけ事情を説明してくれた。


 なんでも中等部で複数の女子達に酷い目に合わされ、それで心を病んでしまったようだ。


 私の大切な『主』に対してなんと忌々しい……。


 クロウ様はお優しいから彼奴らの存在を口外せぬが、知った暁には必ず首を刎ねてやろう!

 いや、それでは生温い!!

 クロウ様が味わった苦しみを何十倍にして返してやらねばな!!!



 …………少し落ち着こうか。


 そのような経過もあり、これからどうするべきか考えてしまう。



 卒業までには、クロウ様に告白したい。

 

 幼き日に私が婚約を交わした相手であることを――。


 だが拒まれたらどうする?

 所詮は子供の頃に交わした戯言だと……。


 それにクロウ様……どうやらウィルヴァ殿の妹ぎみであるユエルに好意を持たれているような気がしてならない。


 クロウ様が別な女性と――駄目だ、想像したくない。


 ……ならば学院に在籍している間は、今の主従関係がベストなのか?


 それを探るためにも、もう少し時間が必要なのかもしれぬ。




 ちなみに、あの『決闘』で私が勝った場合、あの方を『下僕』や『従者』と称しつつ、お傍に置くつもりだった。

 一人前の冒険者として、私が鍛え上げ成長して頂こうと考えていたのだ。


 この世界は特殊スキルを持つか否かで人生の大半が左右されてしまう。

 フェアテール家の養女として迎えられ、私はそれを嫌という程理解した。


 しかし本心では、特殊スキルなど無くてもいい。


 ただクロウ様が自信を持てる生き方を望み、私は生涯を懸けてそれについて行こうと思った。

 

 その為には何でもしよう……時には心を鋼に変え非情にも徹しよう。


 たとえ、クロウ様に疎まれ嫌われようと……。


 いつか私の想いに気づいてくださるだろうと信じて――。




 まぁ、しかしあれだ。


 結局は、その必要はなかったんだがな。


 ――クロウ様は強かった。


 豊富な知識といい、先々を見据えた判断力といい、巧みな戦術といい、何と言ってもあの特殊スキルだ。


 私など到底及ばぬお方だった。


 おそらく『銀の神童』と言われた、あのウィルヴァ殿と互角。


 いや、それ以上の力を秘めていると私は信じている。




 私は着替えを済ませ、明日に備えて休むことにした。


 明日から、またクロウ様にお会いできる。


 その時まで夢を見よう――


 あの方と添い遂げる夢を……うむ、自分で言っていて恥ずかしい。



「おやすみなさいませ、クロウ様――」






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