第53話 フェアテール家の事情
ギルドを出た俺達。
ユエルは実家に戻って義理父のランバーグ公爵に直接報告する必要があるらしく、ウィルヴァと共に先に帰ることになった。
「――クロウさん、今回の冒険とても勉強になりました。また機会があれば是非、声を掛けてください」
「俺も一緒に行動できて良かったよ……それじゃ、また学院でな」
名残惜しく手を振りながら、去って行く二人の兄妹の背中を見送った。
お約束通り背後から女子達の視線が突き刺さる。
俺はチッと軽く舌打ちするも、腹も空いているってことで、どっかで食事をしてから学生寮に帰ること提案した。
但し、今回は「あくまで割り勘だからな!」っと、強い口調で女子達に言い切る。
じゃないとまた奢らされ、どえらい出費を支払うハメになるからだ。
せっかく思った以上に稼げたのに意味ねぇじゃん。
飲食店にて、俺の隣に座っているアリシアが小声で話しかけてきた。
「クロウ様……そのぅ、先程は申し訳ございませんでした」
「先程?」
いきなり謝罪してくるので、俺は眉を顰め聞き返す。
「いえ父と弟の件です……特にアウネストはクロウ様に対して無礼の数々……」
まぁ、確かにムカついたけどな。
「別に構わないさ。弟さんもまだ子供なんだし、いちいちカッとしてられないよ(嘘)。でも親父さんは凄い人だな……身分の高い貴族なのに高圧的じゃなく、とても優れた人格者だと思ったよ」
「はい、父は偏見を持たない人です。実力があれば平民でも自分の配下に加えて重要なポストに配置するなど部下からも慕われております。私も女でありながら剣の腕を見込まれ目をかけてくださっておりました」
なるほど、アリシアの剣才は父親譲りか……どうりで強い筈だ。
それに彼女も父親とは仲が良さそうだし、話を聞くだけでも凄く敬っている気持ちが伝わってくる。
きっと関係性が可笑しいのは、あの糞生意気な弟アウネストだけなんだろう。
「そっか……アリシアは、お袋さん似なのかい?」
「え――?」
俺の何気ない問いかけに、アリシアの表情は強張る。
何か聞いてはいけない事を聞いたような感じ。
まさか既に他界している……?
いや待てよ……俺の記憶だと、彼女の母親は五年後の未来においても健在の筈だ。
「別に深い意味はなかったんだけど……親父さんと弟さんは髪がブラウン色だったろ? お袋さんはきっと、アリシアのような綺麗な
「そ、そうですか……はい、顔立ちは似ているかもしれません」
アリシアにしては随分と歯切れの悪い返答だ。
実は母親とも折り合いが悪いのか?
どうやら親父さんのこと以外は、あまり語りなくないのだろう。
「……そっか、わかったよ」
俺はこれ以上、踏み込まないよう軽く返事をして話を終わらせた。
――以前から、アリシアは俺に言えない『何か』を抱えているのは理解している。
だけど、アリシアから語らない限り、俺は詮索せず見守って行こうと決めたんだ。
きっとその方が、アリシアも自由に振舞ってくれるだろうと思ったから……。
彼女の『主』として、ずっとこの大切な関係を続けるためにも――。
~アリシアside
学生寮にもどった私は自分の部屋に入り、ベッドに倒れこんだ。
疲労ではない。
自分の不甲斐なさについての自己嫌悪だ。
本来なら身内であろうと、我が『主』への無礼は窘めるのが騎士たる者。
しかし、どうも家族のことになると引け目を感じてしまう。
――特に弟のアウネスト。
私がいくら特殊スキルを持ち剣の腕を磨こうとも、彼に対してまともに意見できる筈はない。
何故なら、アウネストこそ「フェアテール家」の正当な後継者であるからだ。
別に
そもそも私は継承権すらない存在なのだ。
フェアテール家の『養女』である私などが――。
私は5歳くらいまで孤児院にいた。
本当の両親はわからない……きっと『竜』に襲われ他界したのだろう。
孤児院出身者の大概は、そのような理由が多い。
したがって、孤児院も国で設立され『王立施設』で成り立っている。
将来、国を支える児童保護の目的は勿論、『竜狩り』の担い手を選出する待機施設でもあった。
クロウ様や妹殿の生い立ちが、その例に挙げられるだろう。
私はある日を境に、フェアテール家に養女として引き取られた。
理由は幼くして亡くなった実娘と瓜二つであるという理由からだ。
髪の色以外らしいがな……。
フェアテール家に招かれたと同時に、私は実娘の「アリシア」という名前を与えられる。
既に義理弟のアウネストも生まれており当時二歳くらいだ。
義理父であるカストロフは実の娘のようじ愛情を注いでくれ、義理母のブリットもその頃までは同様だった。
今思えば、私が12歳くらいまでは幸せな日々を送っていたのかもしれない。
そう、義務付けられた『特殊スキルの適正検査』を行うまでは――。
私は特殊スキルの適正があるとされ、中等部の鑑定検査こと『スキル降臨』の儀式にてレアリティSRの特殊スキル《
義父であるカストロフは喜び、これまで以上に私に剣術を指南してくれる。
だが義母のブリットは難色を表していた。
――理由は義弟のアウネストにある。
彼は長男であるが生まれながら体が弱く、専属の医師より「自発的に特殊スキルに覚醒することはあり得ない」と言われ続けていたからだ。
代々フェアテール家は王家に仕える
しかもアウネストは将来フェアテール家を継ぐ者。
この時代、特殊スキルは継承する上で必須であった。
だが術がないわけではない。
アウネストが成長して身体が丈夫になった年齢で、特殊スキルを身につけさせる方法がある。
――特殊スキルを人為的に移植させることだ。
裏技だが、スキル・カレッジにその制度がある。
なんでも学則違反で退学して奪った生徒の特殊スキルをわけありの王族や貴族階級から大金で譲渡する風習があるらしい。
学院の『教頭先生』が国の指示で取り仕切っていると聞いたことがある。
アウネストが日頃から父上の傍にいるのも、フェアテール家の跡継ぎとして
きっと、高等部に入る頃に何者かの特殊スキルが移植されるのだろう。
貴族階級であればよくある話らしく、世間体ではそれで丸く収まる筈だ。
しかし、それでも家族感情は芽生えてしまうものである。
私のような養女が普通にレアリティの高い特殊スキルに芽生えているのに、正当な後継者である息子が無能力者……当然、面白い筈がない。
特に義母であるブリットの嫉妬は酷く、それまで仲が良い姉弟だった私とアウネストを引き裂き、差別するようになった。
アウネストだけを溺愛し、私のことを歯牙にもかけなくなる。
そういう環境が、素直だったアウネストの性格を捻じ曲げ、あのような他者を見下す態度へと変貌してしまったのだろう。
義父のカストロフはそのようなことはない。
寧ろ才のある私の方を認め庇ってくれてさえいた。
「アリシアは将来、私の下で騎士団に入ればいい。他国では女とて
父上は冗談交じりで、そう言ってくれる。
素直に嬉しかった……彼の娘になって本当に良かったと思える。
だが、フェアテール家にとって私は厄介者であるには違いない。
養女である私は政略結婚にも使えず、手に余る娘となっていたのも事実だ。
これ以上、義父に甘えすがるわけにはいかない。
スキル・カレッジの入学が決まった私は、家族に向けて学院を卒業するまで指針を打ち出す必要があった。
そして私はクロウ様を持ち出した。
あの方を仕えるべき『主』と認め、卒業後もずっと彼のお傍にいる誓いを立てることを――
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