第52話 超えるべき勇者
「――クロック君及びパーティの諸君。今回の働きで、我ら騎士団からもお礼させてほしい。アウネスト、例の物を」
「はい、閣下」
カストロフ伯爵の指示で、アウネストは大きな袋をテーブルに置いた。
ジャリと硬貨が擦れ合う音が聞こえる。
「カストロフ様、これは?」
俺は低姿勢で聞いてみる。
ちなみに俺が、このような場で誰かを「様」呼ばわりすることは王族でない限り滅多にない。
このカストロフ伯爵の人柄に敬意を持ちそう呼ぶようにした。
「ささやかな気持ちだ。冒険者流に言わせてもらえば追加報酬と思ってくれても良い。諸君らは、ある意味ミルロード王国の危険を事前に救ってくれたのだ。本来なら、王城の謁見で陛下直々に褒美を受け取っても可笑しくない手柄だと思っている。ランバーグ公爵殿からも、そう評価されているのだ」
「まぁ、たかが冒険者風情と高等部の学生が、そう簡単に陛下に謁見などできないので、閣下がお情けで褒美を取らせると言っているんだ。感謝しろよ、庶民」
謙虚にベタ褒めしてくれるカストロフ伯爵の隣で、アウネストは高圧的な態度で嫌味くさいことを言ってkる。
何、この飴と鞭みたいな感じ。なんかイラつくわ~。
アリシアと閣下の手前、あの糞ガキをブン殴ってやれないんだけど。
だが、カストロフ伯爵は咳払いをすると、アウネストは「失礼……」と後ろに下がった。
やっぱり親父さんはいい人だ。
けど、さっきから気になるが、アリシアが妙に大人しく他人行儀なのが気になる。
俺達の前だからか遠慮しているのだろうか?
とりあえず追加報酬はありがたく受け取ることにした。
カストロフ伯爵が椅子から立ち上がり、俺達全員も行儀よく立ち上がる。
「それでは我らは退出する。手間を取らせて済まなかった。また何かわかったら情報提供をお願いしたい」
「はい、俺達に協力できることがあれば何でも仰ってください」
「ありがとう、クロック君……どうやら、アリシアの目に狂いはないようだ」
「え?」
「いや……では娘のことを頼む」
「は、はい」
何だろう……俺、まさかアリシアの親父さんに認められたのか?
よくわからないけど……。
カストロフ伯爵が悠然と退出する後ろで、アウネストは俺とアリシアを交互に一瞥し鼻を鳴らした。
「まぁ、姉さんがどこの馬の骨を選ぼうと自由です。ですが、フェアテール家に泥を塗るような真似事だけは控えていただきたい」
「わかっている……アウネスト」
とても姉弟のやり取りには聞こえない。
まるで他人同士……しかも、あのアリシアが負い目を感じているように見える。
何なんだ? この家族関係……。
家族の温もりを知らない俺でさえ違和感を抱いてしまっていた。
騎士団が退出し、俺達だけが会議部屋に残されている。
俺は気持ちを切り替え、追加報酬で受け取った袋の中身を確認してみた。
「おお、金貨がこんなに……100枚とは凄くね?」
けど六人で山分けとなると面倒だな。
レジーナ姉さんに頼んで、銀貨と銅貨に両替してもらわないと……。
「クロウ様、私の取り分は不要なので、どうか皆でどうぞ」
アリシアは明るい口調で遠慮する。
笑顔は見せても瞳は笑ってない。どこか暗い影を落とした雰囲気。
やっぱりさっきから様子が可笑しい。こんな彼女は初めてだ。
それに、アリシアがフェアテール家で、俺のことをどう話しているのか気になる。
考えてみりゃ、大事な娘が認めてしまった『主』だからな……。
つーか俺、もろ庶民だし。
さっきの反応だと、親父さんは割と好印象で生意気な弟はドライに見えた。
ただ家名だけは汚すな……そう言いたげだな。
アリシアも実の弟いや父親に対して、どこか距離を置いている雰囲気が漂っていた。。
まるで五年後の未来――俺と女子達の関係性のようだ。
けど、いちいち家族間のことを聞くのも野暮だしな……。
それから、ギルド本部に戻ると意外な人物が待っていた。
――ウィルヴァ・ウェストだ。
「ユエル!」
「ウィルお兄様!」
ウィルは駆け寄り、ユエルの姿を見て安堵している。
銀髪の美しい双子なだけあり、互いの身を案じるその光景が絵になる。
「怪我がなくて何よりだ……でも、いきなり冒険者になったって聞いたからびっくりしたよ」
「ごめんなさい、お兄様……どうしても、お義父様からの依頼を成就させたかったの」
「父のことは気にするなっと言っているだろ? でも僕が不甲斐ないばかりに、いつもユエルに肩身の狭い思いをさせてしまっているんだけど……」
ウィルヴァが自分を卑下するのは珍しい。
つーか初めて見たぜ。
普段から謙虚な奴だが、それはこいつの処世術であり自信があってのことだ。
実力じゃ誰にも負けないという絶対的な余裕――。
だが身内の事なると、そうでなくなる。
心配のあまり自分を責めてしまう……。
けどウィルヴァにとって、ユエルはそれくらい大切な存在であり、これが本来の兄妹の姿ってやつかもな。
さっきのアリシアとアウネストとは、まるで異なった温度差だ。
そう思うと、常に完璧なウィルヴァとて普通の人族と変わらない。
――俺達と同じなのだ。
これも初めてだな……俺にとって因縁の深いウィルヴァという男をこんなに身近に感じているのは。
「クロックくん……妹が迷惑を掛けなかったかい?」
ウィルヴァをユエルの手を握りながら、俺に向けて微笑みかけてくる。
「ああ勿論だ。一緒にクエストに参加してくれて心強かったよ……流石、
「そうか……それなら安心したよ」
「こっちも無断で妹さんを借りて悪かったな。俺にも妹がいるから、ウィルヴァが心配する気持ちは、よくわかるよ」
「いや、謝らなくていいよ。ユエルはまだ見習いの神官とはいえ、スキル・カレッジに在籍している以上、いずれは『竜狩り』に出向くことになるだろう。遅かれ早かれって所さ……ただ過保護な兄として、まだ時期が早いと思っていたけど……」
「けど、なんだ?」
「クロックくん達が一緒だと聞いてね。実は安心もしていたんだ。しかし僕の予想を上回る事態になっていたのは正直驚いたけどね」
確かにな。
何せ、義理のランバーグ公爵が管理する古代遺跡の洞窟神殿が『竜守護教団』がアジトとして改装して潜伏していたんだからな。
普通なら義理父の管理責任を問われても可笑しくない事柄だ。
幸い俺達が『竜守護教団』を壊滅させ、義理の娘であるユエルが参加していたことで、ランバーグ公爵の面子も保たれたことだろう。
主犯格の竜聖女シェイマは逃がしてしまったが、騎士団長のカストロフ伯爵に情報提供したことで指名手配され、今後は討伐対象にも挙げられる筈だ。
ランバーグ公爵もユエルを冷遇しているが、今回の件で少しは態度が変わればいいな……。
にしても、ウィルヴァの奴。
随分と俺のことを信頼してくれているようだ。
一応、ライバル視してくれているからか?
しかしウィルヴァの場合、どこまで本気で思っているかわからない。
未来でも、その場のノリとか社交辞令で心にもないことを平然と言っていたからな。
おかげでよく、パーティ女子やそれ以外の女達が真に受けてややこしいことになっていたんだ。
俗に言う「天然たらし」ってやつだな。
だが俺は『男』として、こいつを超えたいと本気で思っている。
正々堂々と実力でな……。
今の俺にとってウィルヴァを超えることで、きっと自分の中で何かが変わると信じている。
そういう意味ではライバルであり目標だ。
「……クロックくん、どうしたんだい?」
ウィルヴァが不思議そうに首を傾げている。
俺は微笑みながら、軽く頭を横に振るった。
「いや別に……何はともあれ無事にクエストが達成できて良かったと思ってね。ウィルヴァも実力はあるんだから、いっそ冒険者になってみたらどうだい?」
「ありがとう。でも僕はまだ遠慮しておくよ……『
ウィルヴァらしい返答だな。
そう言うと思ったぜ。わかっていて振ったのは、俺なりの社交辞令さ。
少しだけ未来の仕返しをしてみた。
ウィルヴァなら未来通り、
俺はそこまでは目指していない。
やっぱり、スローライフの夢は捨てきれないからな。
流石にそこは譲るわ(笑)。
こうして、みんなで挑んだ初クエストは無事に終わりを告げた――。
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