第四章 並び立つ両雄

第51話 騎士団長と少年騎士




 古代遺跡の地下神殿から抜け出し、半日かけて冒険者ギルドに戻ってくる。


 事前にメルフィから「言霊の魔法」で事情を伝えたからか、俺達の凱旋にギルドの建物内は騒然となっていた。



「クロックくん達、大丈夫!? 怪我ない!?」


 受付嬢のレジーナが駆けつけ、俺達の安否を気遣ってくれる。


「ああレジーナ姉さん、見ての通りさ。聞いていると思うけど、期間内にクエストを終わらせたよ」


「……ええ。でも報告を聞いて驚いたわ……よりによって、あの巷で話題となっている『竜守護教団』が潜伏していたなんて……しかも、このミルロード王国の領土内でしょ?」


「そのようだな。連中の話だと結構前から潜伏していたらしいよ。少なくても地下神殿を手入れして改装する時間があったくらいだからね」


「きっと数年に一度しか立ち入らないのを知っていたんだわ……辺境故に、そこまで軍隊の手が伸びないのを察した上かもね。まぁ、どっちにしても、この件は衛兵隊に移行させるから安心して、クロックくん」


「わかったよ。あとレジーナ姉さん、俺のことは『クロウ』って呼んでくれ」


「ん? わかったわ、クロウくん……本当に不思議な男の子ね。まるで実の弟か旧知の仲みたいにキミとは気が合うわ」


「うん、そうだね……ははは」


 照れながら話すレジーナ姉さんを前に、俺は愛想笑いを浮かべる。

 未来で世話になり、彼女の人柄を知っているからこそ、思わずフレンドリーな話し方になってしまう。


「弟か……」


 アリシアは俺の背中越しで呟く。

 何か溜息交じりで思い詰めた言い方に聞こえなくもない。


「とにかく、クロウくん達、クエスト達成おめでとう! これは今回の報酬よ。一人、金貨10枚で計60枚、それとギルドランクが1ランク上がるから確認してね」


 レジーナは受付カウンターに戻り、報酬の金貨が入った袋を置いた。

 よし、これで『花々亭』からの金欠から解放されたぞ。


 さらにギルドランクもDからランクCに上がったのは嬉しい。

 今後はより高いクエストが受けられるだろう。


 この面子なら、ランクSのクエストも狙えるかも……。


 そうなりゃ、スキル・カレッジに在籍しながら冒険者としてクエストに没頭してもいいかもな。

 卒業してから何をするのも資金が必要だ。


 何をするのも……か。


 少し前までは、卒業したら一人でスローライフを目指すことを願っていた。


 しかし最近、心境が変わりつつある。


 俺は何を目指せばいいのか……ふと考えてしまう。


 特にみんなとの関係についてだ――。

 彼女達が望むなら卒業しても、この関係を続けてもいいと思っている。


 前日の宿屋で考えていた通り、みんなで面白おかしくスローライフを目指すのも良し。

 もっと高みを目指して、ランクSSSの冒険者を目指してもいい。


 未来じゃ勇者パーティに選抜されていた女子達だ。

 決して絵空事ではない。


 俺も流石に「勇者」は目指してないが、もっと男として成長しなければならないとは思っている。

 まずは、未来のトラウマを克服することからだな……。



 ギィィィ。



 扉が開けられ軋む音。


 途端、辺りが静まり返り沈黙する。


 その一行が入室した瞬間からだ。


 純白の鎧に身を包む騎士団の姿。


 特に先頭を歩く長身で初老の騎士の存在感が半端なかった。

 ブラウン色の髪を全て後ろで束ね、口元に綺麗に整った髭を蓄えている。

 切れ長の双眸だがどこか深みがあり奥行さえ感じられる。


 凛とし動作や佇まいから「できる男」、つまり優秀な人格者だと悟った。


 その騎士の隣に、随分と若い小柄な少年が同じ鎧をまとってドヤ顔で立っている。

 鎧だけでなく、髪の色や顔つきも同じであり、まだそばかすが目立つ丸みを帯びた顔立ち。

 きっと、メルフィよりも年下っぽい……ぱっと見は12歳くらいか?

 

 この二人以外にも後方に五名ほどの騎士達が立っており全員がフルフェイスの兜を被っっていた。


 しかし全員の左胸に、ミルロード王国の象徴である女神フレイアの紋章が刻まれている。



「……父上、それにアウネスト?」


 アリシアは、ぽつりと呟いた。


 その言葉に、俺は疎かパーティの全員が彼女に注目した。


「父上? アリシアの父親なのか、あの騎士が?」


「――姉さん、公共の場で閣下をそう呼ばないでください」


「う、うむ……すまない」


 少年騎士に窘められ、アリシアはあっさりと身を引く。


 姉さん?

 ってことは、このアウネストって呼ばれた生意気そうなガキは、アリシアの弟なのか?


 そして初老の騎士はミルロード王国の側近であり騎士団長、また衛兵隊を取りまとめている治安部隊の最高責任者。


 名は、カストロフ・フォン・フェアテール伯爵、その人である。


 俺もこうして直接会うのは初めてだ。


 にしては二人共、まるでアリシアと似てないな……。


 髪の色も、アリシアは綺麗な金髪だしな。

 きっと母親似なのだろう。


「アリシアよ。その者達が、ランバーグ公爵殿の依頼を達成した者達かな?」


 カストロフ伯爵は威厳を込めた口調で聞いてくる。

 渋みがあって良い声だ。

 相当偉い立場な割に、そう偉そうには聞こえない。

 温和で安心できる話し方だ。


 まぁ、親子だし娘相手ならそんなもんなんだろう。


「はっ、閣下。ご察しの通りでございます」


 アリシアは深々と頭を下げて見せる。

 見習って、俺達も軽く会釈をした。

 庶民とはいえ、別に仕えている騎士でもないので国王でもない限り跪く必要もない。


 特に、ここは冒険者ギルド。

 本来は貴族社会から疎外された奔放不羈ほんぽうふきな場所でもある。


 カストロフ伯爵は、ふと俺に視線を向ける。


「そこの黒髪の少年が……アリシア、お前が話していた『あの者』か?」


「はい……名は、クロック・ロウ様。私が仕える『主』です」


 アリシアは包み隠さず言い切っている。

 なんか父親に紹介された彼氏のような奇妙な気分だ。


「ぷっ、みすぼらしい……正気ですか、姉さん?」


 アウネストが俺を見ながら鼻で笑う。


 おい、糞ガキ。もういっぺん言ってみろよ。


 一方で、カストロフ伯爵は咳払いをする。


「アウネスト、今のは失礼だぞ。訂正しろ」


「はっ、閣下……申し訳ございません」


 ほう……父親は随分と物分かりのいい人柄だな。

 おかげでイラっとした気持ちが緩和された。


「キミのことは娘から話は聞いているぞ、クロック君。だが今はそれよりも、キミ達が入手した『竜守護教団ドレイクウェルフェア』の情報を教えてほしい。その為に、こうして馳せ参じたのだ」


「わかりました。俺達が知っていることを全部お話しいたします。メルフィ、セイラも協力してくれ」


「わかりました」


「あいよ」


 それから、俺達パーティ達とカストロフ伯爵率いる騎士団は、ギルドマスターの配慮で別室の会議室へと案内される。

 

 俺達が知る情報を包み隠さず説明した。



 カストロフ伯爵は用意された椅子に腰を降ろし、真摯に耳を傾けている。

 アリシアの親父さんだけあり、その人柄といい中々の人格者だと思った。


 弟のアウネストは糞生意気だけどな。



「――最高幹部である竜聖女シェイマか……きっと、まだ国内に潜んでいるだろう」


 カストロフ伯爵は渋みのある声で予想を立てる。


「父上……いえ閣下、どうしてそのようなことがおわかりになられるのです?」


「うむ、アリシアよ、至極簡単な話だ。小娘一人ではそう簡単に国境は超えられないからだよ。『竜』がうろついているからな。特殊スキルもレアリティSR級だが、あくまで『魅了系』だ。部下がいて初めて効果を発揮する能力……クロック君の報告通りなら単独で身を潜めている筈だ。あるいは、どこかの伝手を頼っているかの二択だろう」


「それはあり得ますね。『竜守護教団』って言っても『竜』にとっては、ただの『餌』ですからね。それなら国内で社会に不満を持つ者を信者として集めた方がいいかもしれない……何せ、シェイマの特殊スキル《バーサーク・レクイエム狂戦士の鎮魂歌》は信者達を死ぬことも恐れさせない屈強の戦士に作り変えてしまうのですから……」


「クロック君の言う通りだ。しかし、キミ達の仲間がこうして、シェイマの顔や姿を鮮明に記憶してくれたことで捜索が容易となった。本当に感謝の念に堪えない」


 カストロフ伯爵の敬う言葉に、俺達は誇らしく胸を躍らせる。


 アリシアの親父さん……伯爵の貴族なのにめちゃくちゃいい人じゃないか。


 なのに何故、娘は決闘好きの凶暴女子で、息子は口が悪く生意気な糞ガキなんだ?


 人柄が良い分、子供の教育が苦手なのだろうか?






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