第50話 神殿内探索終了
竜守護教団ドレイクウェルフェアの使徒、ジークを斃した。
他の連中も結局、糞骸骨……じゃなく、スパルの無双で殲滅してしまったようだ。
本来は探索だけで戦う必要がなかったが、状況が状況だから仕方ないことだろう。
まぁ、こうしてみんなが無事に生還できただけでも良しとしなければな。
にしても唯一、心残りがある。
「――メルフィの話だと、あの水色髪のネェちゃんは『シェイマ』という教団の幹部らしい。『竜聖女』と呼ばれていたとか?」
「はい、兄さん。その通りです」
「クロウ様、その者に心当たりはあるのですか?」
アリシアが聞いてくる。
「いや、ない。何せ、スキル・カレッジに在籍していた頃は、竜守護教団との接触はなかったからな……」
「カレッジに在籍?」
俺の言動に、女子達が揃って首を傾げる。
慌てて口を押さえた。
「あ、いや……んな奴、知らないって意味さ」
やべぇ……うっかり五年後の未来である21歳の気分で話してたぜ。
今は15歳、もうじき16歳の高等部の学生なんだ。
「ユエルは聖職者を目指す者として聞いたことないかい?」
誤魔化しつつ片想いだった少女に尋ねてみる。
「……わからないわ。案外、ウィルお兄様なら知っているかも」
「ウィルヴァが? どうして?」
「お兄様は中等部から『竜』を研究している『竜学士』でもあるわ。その歴史や研究の中に、きっと竜守護教団のことも触れている筈です」
ふ~ん、そいつは初耳だな。
しかし、ウィルヴァが『竜』の生態にやたら詳しかったのは覚えている。
俺の知識も割と奴から学んだ受け売りの部分もあるからな。
だから、糞未来でよく
いつも「大丈夫、大丈夫~、ボクの指示通りに動けば食べられないから」って胡散臭い笑顔で軽く言っていたのを思い出したぜ。
確かに食われなかったが、その代わり炎を吐かれそうになったり、あと踏みつけられそうになったよな?
あれは竜学士としてどーよ?
「クロウ様、どうされました?」
俺がトラウマにトリップしている中、アリシアが顔を覗き込んでくる。
まずい……あんまり浸っていると、そのうちまたアリシアとのトラウマが蘇ってきそうだ。
「……何でもない。そのシェイマっていう竜聖女を逃がしてしまったのは心残りだが、クエスト失敗では決してないだろう……わざわざウィルヴァに聞くまでもないさ」
どっちにしても、ウィルヴァと話すのも色々な意味で気が引けるしな……。
こうして事が落ち着き、クエスト達成を目指すため神殿内を探索することにした。
神殿内は意外とよく清掃されており、とてもガラの悪い竜守護教団のアジトだったとは思えない。
あの連中は物騒なことばかり考えていた分、神事に対しては意外と真面目に取り組んでいたということだろう。
まぁ、民達の暮らしを脅かすテロリストには変わりないんだがな……。
「――クロウ、例のシェイマって女が何処へ向かったかわかったよ」
セイラはしゃがみ込み、石畳の一部をじっと見つめている。
「本当か?」
「これを見なよ」
彼女の足元に、とても小さな人形が走っている。
っといっても、人形は回し車の上で走っているかのように一ミリもその場から動いていない。
その姿は、よく見ると俺が覚えている水色髪の少女、シェイマだった。
セイラの特殊スキル、《
なんでも足跡などでの痕跡から、そいつの姿や形を再現させることができるらしい。
シェイマの顔から司祭服、手に持った歪な槍まで実に細かく作り込まれている。
「まちがいない、竜聖女シェイマだ……向かっている方向に抜け道があるようだな」
「そうだね。もう少し頑張れば追跡できるよ、どうする?」
「……いや、そこは俺達冒険者のクエストじゃない。この国の衛兵団に任せるべきだろう。但し情報提供はしないとな……。セイラ、その模型、また後で復元できるのか?」
「一度記憶しちまえば大丈夫さ。大きさも自在に変えられるよ」
「それじゃ、その姿をギルドを通して依頼主のランバーグ公爵に見せてやろう。きっと速攻で王国中から指名手配されるだろうぜ」
「流石、クロウ、頭いいね。そうなれば賞金も掛かって討伐クエストに挙げられるね。いざって時はアタイらが引き受けるのもありってわけだ」
「そういうことだ。まぁ、一番はシェイマに対しての嫌がらせだけどな」
「いいね。アタイ、そういうアンタのネチっこい所、好きだよ。本当に飽きないねぇ……クロウと一緒にいると」
俺とセイラが笑みを浮かべる中、アリシアが「んん!」とわざとらしい咳払いをしながら近づいてきた。
「何気に我が主を口説くことは控えてもらおう、セイラよ」
「はぁ!? アタイは思ったことを言っているだけだよ。アンタこそ、いちいちクロウを所有物扱いすんのやめてくれるかい!?」
「無礼な! 所有物ではない! 私が忠誠を誓い仕えるべき大切な『主』だと言っている! したがって悪い『虫』を排除するのが仕える者として当然の道理、違うか!?」
「ああ!? アタイが悪い虫だってのかい!?」
アリシアとセイラの奴、また始まったぞ……。
五年後の未来でも、こんなによく揉め事を起こすような二人じゃなかったのに……。
「やめろ、二人共! まだクエスト中だぞ! それに、アリシアも何か用があって来たんだろ?」
「は、はい申し訳ございません。クロウ様、神殿内は
「……にしては、メルフィの様子が変だぞ?」
俺は少し離れた場所で蹲り何かに没頭する、義妹の背中に向けて指を差した。
「はぁ……妹殿は聖堂で何か魔道書を見つけたようで、ご自分の魔道書に複写している様子です」
自分の魔道書?
ああ、メルフィの特殊スキル、《
具現化型のスキル能力だからな。
ぱっと見は禍々しいが本物の魔道書と変わらない。
「メルフィ! そろそろここから出るぞ! まだ終わらないか?」
「待って、兄さん! もう少しで複写が完成します! 流石、竜守護教団……実に面白い秘術が書き記されています~ぅ♪」
まるで新しい玩具にはしゃぐ幼女のように、黒瞳をキラキラ輝かせるメルフィ。
う~ん。
俺としてはメルフィのスキル能力がそれ以上強化されても、管理しなければならない立場上困るんだが……。
「ねぇ、クロウ! ボクぅ、お腹すいたよ~! あと、本堂にある祭壇裏の天井に抜け道を見つけたよ。きっとそこから地上に上がれると思う。だからこんな所、早くでよぉ、ね!?」
こちらのエルフっ娘のディネさんは、もう飽きてしまったらしい。
おそらく一番年上なのに一番おこちゃまっぽく見えるぞ。
「わかった、もう出よう……メルフィ、その魔道書は持って移動しながら複写してくれ。必要なくなったら、ギルドに頼んで王都図書館で引き取ってもらおう」
「わかりました、兄さん……フフフ」
うっ……恍惚に微笑んでなんか怖いぞ、妹よ。
おそらく熱中しているからか……ちょっぴり病んだように見えるけど、兄さんの気のせいか?
「それじゃ、クエスト終了だ――ユエルもいいな?」
俺は、本堂で祈りを捧げている正真正銘の聖女に向けて声を掛ける。
元々ここは彼女が信仰する女神フレイアを祭っていた神殿だったらしく、信者として竜守護教団にいいように改装され、複雑な胸中らしい。
それでも、ジークを含めて戦って消滅してしまった者に対して祈りを捧げる辺りは、本物の聖職者であり聖女様だ。
「――わかったわ、クロウさん。それに皆さんも……本当にお疲れ様でした」
ユエルは振り向き、にっこりと優しい微笑みを浮かべる。
その綺麗な笑顔に、ずっと封じ込めていた大切な気持ちが溢れていることに気づく。
今回の一番の収穫は、ユエルと一緒に過ごせたことなのかもしれない。
ふと、そう思えてしまった。
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