第48話 ドゥームズデイ・ゼロ
~メルフィside
「スパルちゃん、
私の指示で、
背部の鎧部分に亀裂のような筋が入り、浮き出ていく。
太い
まるで両翼のように肩甲骨部から追加された二本の腕のように見える。
拳部分には同様の漆黒の水晶球が取り付けられ禍々しい光を発していた。
「くっ、腕が増えたからって、何だというのだ!? たかだか一体の竜牙兵に変わりないじゃないか!? その程度の変化で、これだけの狂戦士と化した騎士達に勝てるものか、アハハハハハッ!!!」
どこまでも侮り嘲笑う、ジーク。
「笑っていられるのも今うちです。何故、スパルちゃんがミルロード王国において一体しか作られるのを許可されなかったのか思い知るでしょう!」
「グゥルヴァァァァァァ――ッ!!!」
私が言い放った瞬間、スパルちゃんは悲鳴のような叫び声を発し背中の拳を振るった。
ボォン! ボォン! ボォン! ボォン――!
背中の拳にはめ込まれた水晶から、紫の渦を巻き発光する高速弾が発射される。
発光弾は近づいてくる信仰騎士達に接触し、その部分を中心に鮮やかな円を描き身体を削り取った。
騎士達の凄惨な残骸は飛び散り石畳に落ちていく。
他の信仰騎士達は、シェイマの特殊スキル能力 《
「何だと!? あの腕は射出もできるのか!?」
敵陣で唯一正気である、ジークとシェイマだけは驚愕し戦慄しているようだ。
私は「フン!」と鼻を鳴らす。
「その通り、
「ええい! 勇猛なる騎士達よ! 直ちにその邪教徒達に死の罰を与えよ! 我らが主の名において直ちに抹殺するのだァ!!!」
「ぐぉぉぉぉっ! 竜聖女様のために魂を捧げよぉぉぉぉっ!!!」
シェイマの指示で信仰騎士達が一斉に
剣を掲げ、攻撃距離まで到達すると各自飛び跳ねて襲ってきた。
「スパルゥ! くらわせなさい――《
「ウォォォォガァァァァッァァァァ――ッ!!!」
スパルは私の感情にリンクする。上半身を仰け反り野獣の如く吠えた。
発せられた雄叫びは洞窟内に響き渡る。
スパルは歪な口から唾液をまき散らし、縦横無尽に四つの拳を振るい突撃した。
決してそれは、クエストだの聖戦など、大義名分を語るべき戦いではなかった。
――獰猛にひたすら大量虐殺する
しかし確実に騎士達が数を減らしていく。
殴るだけでなく
この
――それは増殖能力である。
ただ対象物を円型に抉り取るだけでなく、その黒い切断面に漂う淡く発光する『紫光の渦』が他の『紫光の渦』と融合し、更に巨大な『紫光の渦』を発生させる。
さらに攻撃を受けてない騎士がその渦に触れることで同様の現象、つまり触れた部分が抉り取られ『紫光の渦』の拡張現象が起こっているのだ。
まるでウィルスのように浸食し増殖していく――。
騎士達は最終的に残骸すら残らず、最初からその場に存在しなかったように跡形もなく消滅した。
これこそが――《
四本の腕から放たれる
背中の両腕から繰り出されていた
そして互いに重なり交わることで、
――即ち完全なる『消滅』を意味する。
残骸は疎か魂ですら消滅し、この世に生を受けた事実さえ無くなってしまう。
ある意味、『死』ではなく『無』に変換される能力なのかもしれない。
唯一残るのは他人の中にある記憶と、その者が生きてきた痕跡くらいだろうか。
クロック兄さんが、スパルの性能で一番恐れているのが、まさにこの能力だ。
一度、生ある者が
敵味方関係なく消滅させてしまう諸刃の牙――
勿論、スキル・カレッジの役員達には、この能力の存在を隠している。
知られてしまえば間違いなく危険視され、私の特殊スキルは永久に封印されてしまうから……。
だから本来は悪戯に見せてはいけない力なのだ。
と言っても、知的種族しかも人族相手に使ったのは、これが初めてだけど……。
――既に雌雄は決していた。
100名近くはいたであろう、信仰騎士達は全員消滅している。
「グルゥ、ルルゥゥゥ……」
空虚感が漂う神殿前で、スパルは四本の腕を掲げながら息荒そうに身体を上下に揺らしている。
前方に、ジークとシェイマが呆然と佇んでいる。
その表情はあからさまに恐怖で青ざめているようだ。
私は
《
こうして、すぐ魔力切れを起こしてしまうのが弱点でもあった。
「嘘だろ……あれだけの数を……たった一体の竜牙兵が……」
「な、何だ……こいつは……ま、魔神なのか?」
ジークとシェイマの表情に最早余裕の笑みはない。
二人して狼狽し、全身に冷たい汗を掻いているようだ。
特にシェイマは自慢の特殊スキル、《
スパルが一歩近づくと、シェイマは「ひぃ……!」と恐怖で喉を鳴らしている。
所詮、手駒とする仲間がいなければ何も出来ない。
最早、大した脅威もなく、敵でもなんでもないただの小娘。
だけど――。
「貴方のせいで奪わなくても良い命をより多く奪う事になってしまったのは事実……聖職者なら聖職者らしく、その償いをするべきです――やりなさい、スパル!」
「グガァァァブッシャァァァァ――!!!」
私の指示に、スパルは
「ひぃぃぃぃっ! 嫌だぁ、来ないでぇぇぇぇっ!!!」
いくらシェイマが拒み泣き叫ぼうと、もう遅い。
スパルの右腕の拳が容赦なく、彼女の顔を捉えていた。
しかし――
「この時を待っていたぞぉ! 出て来い――《
ジークが喜悦の声と共に特殊スキルを発動させる。
突如、シェイマの眼前こと、スパルの攻撃方向に暗黒に渦巻く穴が出現する。
随分と大きな穴であり、巨漢であるスパルの身体を覆うほどの余裕があった。
「い、いつの間に!?」
「ハハハ―ッ! 万一の保険の為に、騎士達が全滅させられる前に入り口を移動させてより大きい入口を創っていたんだよぉ! その後、必ず俺かあるいはシェイマ様のどちらかを攻撃してくると踏んでなぁ! 入口さえ完成すりゃ移動は容易にできるんだよぉ!」
くっ! どうやらジークの特殊スキルを甘く見すぎていたようです!
奴は、スパルを自分が造った異空間へと誘うつもりだ!
「その竜牙兵さえいなくなれば、残るは魔力切れを起こしている小娘お前だけだ! 魔法さえ使えなきゃ煮るなり焼くなり好き放題だぜぇ! だが貴重な信者達が全滅させられ任務失敗には変わりねぇ! シェイマ様、ここは俺に任せて、まず貴方だけでも逃げてください!」
「わ、わかった! ジーク、汝に我らが主の加護を――!」
シェイマは叫びながら、躊躇することなく神殿の中へと駆け込み姿を消して行った。
きっと神殿内に脱出用の抜け道があるようだ。
「――さぁ、吸い込まれちまいな! この糞骸骨がァァァッ!!!」
ジークの叫び声と共に、スパルはクロック兄さんと同様に異空間へと呑み込まれてしまった。
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6月20日、@lain73k様より素敵なレビューを頂きました。
ありがとうございます(#^^#)
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