第47話 バーサーク・レクイエム
~メルフィside
信仰騎士達が、私とスパルちゃんの周りを遠巻きで円陣を組む。
射程距離を考慮して取り囲んだ様子だ。
ジークは騎士たちの背後へと周り、リーダー格とされる水色の髪少女の傍に立った。
「フン! どんなに攻撃力が高かろうと所詮は一体の
嘲笑した口調でジークは言い放つ。
どうやら頭数の多さで物を言わせる気のようだ。
特に信仰騎士は神に命を捧げるため、死を恐れぬと聞いたことがある。
それを知ってか、水色髪の少女も見下したような笑みを零していた。
奴らの態度が、より私の心を漆黒の闇色に染めていく……。
私はゆらりと立ち上がり――顔を上げる。
「ひぃ!?」
信仰騎士の一人が、私の表情を見て喉を鳴らした。
おそらく敵が戦慄を覚えるほどの表情をしているのでしょう。
でも構わない……関係ない――。
クロック兄さんさえ傍にいてくれれば、この世界がどうなろうと知ったことではない。
幼い頃から私は兄さんを一人の男性として、ずっと愛してきたのだから……。
だから、兄さんに仇名す者、私から兄さんを奪う者。
それら全てをこの世から……。
「私とスパルちゃんで一掃して消し去ります!」
――あれは私が11歳。
特殊スキルに覚醒して間もなくの頃だ。
「メルフィ、早くおいで」
薄暗い建物内にて、中等部の制服を着たクロック兄さんが私の手を引っ張る。
「兄さん……こんな夜中に王都の図書館に忍び込んでいいの? 誰かに知られたら厳罰処分じゃすみませんよ」
「構うことはないさ。このままじゃメルフィ……お前の特殊スキルが役員連中に封じられちまう。それだけ、お前のスキルはレア中のレアらしいんだ。そうならないためにも、お前の能力が如何に必要であり万能なのか知らしめる必要がある」
当時のクロック兄さんは、王都図書館の地下に封印されている『魔道書』を私が覚醒したばかりの特殊スキル能力で模写させようと考えていたのだ。
「でも返って怖がられるのではないですか?」
「恐れる奴らの中に、必ず興味を示す奴らも出てくる。そいつらを味方につければ、条件付けで有耶無耶に出来るかもしれない。どの道、やるしかないんだよ」
「でも、それでは兄さんまでも……」
「俺はなんとでもなる。それにいいのか? せっかく覚醒した特殊スキルが封じられちまったら、お前は一般庶民に格下げになる……適性のある俺と同じ学校には行けなくなるぞ」
「そんなの嫌! 私、兄さんと一緒がいいです! すっと一緒です……」
「だったら尚更だ……メルフィ。お前には大切な妹として幸せな道を歩んでほしい」
兄さん……ありがとう。
私のこと、そこまで考えてくれてとても嬉しいです。
でも、私にとって一番の幸せは貴方と共にいることなのですよ。
愛しています――クロック・ロウ。
初めてお会いした頃から……ずっと……。
そう、それが一番の理由。
私は力をつける必要があった。
兄さんと一緒にいるために。
たとえ禁忌に触れるとしても、私は力が欲しかった。
兄さんと私の間を誰にも邪魔されない力――。
絶対的なる力。
そして、私達は王都図書館の地下に入り、封印された魔導書を《
後日、スキル・カレッジの役員達にその事がバレてしまう。
クロック兄さんは酷く怒られたが当時は未成年であったこと、特殊スキルの適正者であったため厳重注意のみで処分を受けることがなかった。
今思えば、この辺を計算して兄さんは事を起こしたと思う。
私も怒られつつ役員会議に審問にかけられ、特殊スキルの封印を唱える者と惜しむ者の二つに分かれた。
審問の場にて、クロック兄さんから「身内の自分が責任を持って妹の面倒を見る」と言ってくれたこと、私が
私にとって、それで十分だった。
これで、ずっとクロック兄さんの傍にいられるのだから……。
今は義理の妹でもいい――あるいは一生、妹でもいいです。
兄さんの傍にいられるのなら、ずっと……
けど、私と兄さんの間に無断に入り、あまつさえ引き裂く者は……。
――容赦なく
その為に、スパルちゃんを生成したのだ。
嘗て、『竜』も従える強大な古代魔法王国時代の中で、最も凶悪とされた
最凶の
「ガァルゥァァァァァァッ!!!」
スパルちゃんは叫び、前方にいる信仰騎士を殴りつける。
拳にはめ込まれた漆黒色の水晶球が怪しく発光し、拳撃の与えた箇所から『
ボォゴン!
騎士の上半身が円状に削られ抉り取られる。
「ヒィィィィ、バケモノ!?」
その後も、スパルちゃんは狂ったように縦横無尽に拳を振るい、信仰騎士達の身体を鎧ごと消し飛ばしている。
隙を見て反撃に転じようとも、強靭な骨格と重装甲の鎧もあり剣がまともに通らない。
おまけにあの姿だと
――まさに無敵の存在と言える。
私はというと特殊スキルで具現化した魔導書、《
こうすることで信仰騎士どころか虫一匹さえ侵入することを許すことはなかった。
「何やっている!? ビビッてんじゃねぇ! 相手はたった一体の竜牙兵じゃねぇか!? 『竜聖女』様のために命を惜しむな!」
ジークめ。
使徒として最もらしいこと言いっているが、自分が一番の安全圏にいるんじゃありませんか?
あの水色髪の少女もそう……。
結局、あの連中にとって騎士達は口先方便で利用されるだけの捨て駒に過ぎない。
ならば――。
「貴方達に最後のチャンスを与えます! 私の目的はあくまでジークのみ! 他の者は対象外、だからその男を見捨てて直ちに逃げなさい! 一切の追撃はいたしません!」
私の言葉に信仰騎士達の動きは止まる。
あからさまに躊躇しているように見えた。
本当の信者なら、こういう反応は見せない。
特に信仰騎士ならば平然と神の名において命を惜しむことなく捧げていくだろう。
だが目の前の騎士達にそれはない。
きっと、クロック兄さんの情報通り、『竜』にかこつけて反社会的行動を取っているだけの
当然、命を惜しめばこのような無惨な末路は辿りたくないのが心情である。
「ええい! 恐れるなァ! 汝らは主に選ばれた信仰騎士たるぞ! 見よ、目の前の禍々しい存在を! あれを邪教と言わずなんと言う!? 恐怖から目を醒ませ、そして剣を取れ! 我らが主の導くまま、『竜』の奇跡を信じるのだ!」
水色髪の少女は槍を掲げ鼓舞する。
すると怯えて躊躇していた信仰騎士達の様子が一変した。
「我らの『竜聖女』様……万歳。邪教徒共には死を……その血を大地に染めよ……」
フルフェイスの鉄兜越しの双眸から紅く怪しい光を放ち、おぼつかない足取りで歩きながら、じりじりと距離と縮めてくる。
全員がぶつぶつと何かを唱えていた。
「なんです? あのリーダー格の娘……
集団を意のままに操る蠱惑系のスキル!?
だとしたら、この場にいる信仰騎士達は死をも恐れない戦士へと豹変したというのか!?
「――《
「ククク……流石、最高幹部の一人、シェイマ様だ。まさに『竜聖女』の名に相応しい」
ジークは勝ち誇った嘲笑を浮かべる。
それより、あの水色髪の少女……シェイマという名前らしい。
竜聖女と呼ばれることから、『竜守護教団ドレイクウェルフェア』の最高幹部の一人のようですが……。
――どうでもいい。
「貴方達こそ、後悔する間もなく殲滅します!」
私の感情に応えるかのように、スパルちゃんの瞳孔が青白く発光した。
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《特殊スキル紹介》
スキル名:
能力者:竜聖女シェイマ
タイプ:???(魅了系と思われる)
レアリティ:SR
【能力解説】※現段階で判明している情報に限る。
・竜聖女シェイマの呼びかけに応じた信者(仲間)達を死を恐れぬ
・
・暴走することなく竜聖女シェイマの言葉には忠実に従う。
・声が届く範囲なら何人でも
・特定の者に対して効果を除外させることもできる。
【応用技】
・声が届ば遠隔でも
・遠隔魔法で声のみを飛ばしても効果を与えることができる。
【弱点】
・
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