第45話 フォービドゥン・ナレッジ
竜守護教団ドレイクウェルフェア。
やっていることは暗躍でありテロ行為も辞さない過激思想集団の癖に、自分達の活動を世間に知らしめるため、あえて目立つ『古代遺跡の洞窟』に拠点を置いたらしい。
おそらくは貧困層や国に不満を持つ住民達を信者として勧誘することが狙いか?
確かに世の中には、世襲制度や貴族社会を嫌う輩は沢山いる。
実力はあっても特殊スキルがなきゃ這い上がれない時代だからだ。
俺だってそんな社会に不満はあるさ。
だからって普通に暮らしている連中の平和を犯してもいいって話にはならない。
ましてや、俺の両親を食い殺した種族達の宿敵である『竜』を祀り尊重し、あまつさえ擁護するこいつらの主張は……。
――むせ返るほどに反吐が出る!
「メルフィ! お前のスキルで、奴の能力を鑑定してくれ!」
「わかりました――《
メルフィの小さな掌から、一冊の魔導書が出現する。
十文字で鎖に縛られた漆黒色の不気味な雰囲気を醸し出す書物だ。
「何だ、あれは!? 特殊スキル、具現化型か!?」
ジークはその光景に戦慄する。
そう、これがメルフィの特殊スキルで具現化された能力。
――《
魔道書を縛っていた鎖が解かれ、封印が解除される。
メルフィの手元で魔導書が開かれる。
パラパラと自動的にページが捲られていく。
あるページに達し、ピタッと止まった。
「禁忌魔法発動――《
魔法が完成し、メルフィの黒瞳が深紅に染まり縦割れの瞳孔となる。
「鑑定結果終了。直ちに目の前に出します」
メルフィは片腕を前方に掲げた。
すると目の前に透明色で長方形板の物体が浮上する。
そこには詳細な内容が書き込まれていた。
◆鑑定結果
《特殊スキル》
スキル名:
能力者:ジーク・ハマルト
タイプ:具現化型
レアリティ:R
【能力解説】
異空間を創造し対象者を侵入させ、同じ場所を延々と彷徨わせる
一度入出したら能力者の許可がない限り出口が開くことはなく、能力者の意志で強制に追い出すことが可能。
但し異空間に放り込むには対象者を入口まで誘き寄せる必要がある。
(予め、入り口に覆い被せる形で設置するなど)
入口は能力者の任意で好きな場所と大きさにして移動し設置させることができる。
空間内では現実世界と同様の時間が流れており、生理現象も通常通りとなる。
したがって長時間放置していれば餓死させる。
また空間内に存在する物質を攻撃し破壊や傷つければ、その要因を
【応用】
・相手を閉じ込めるだけでなく、能力者自身も入ることが出来る。
・隠れ蓑としての活用が可能。
【弱点】
・異空間は一ヵ所しか創造できない。
・必ず『入口』と『出口』を作らなければならない。一ヵ所しか設置できない。
・大きい入口の穴を創る場合、それだけ時間と精神力を必要とする。
・反射攻撃は必ずしも負わせた人物とは限らず、『要因』つまり『きっかけ』を作った者へと跳ね返って行く。
・能力者が死亡すると異空間は消滅し対象者は解放される。
以上
「レアリティRか……そこそこのスキルだが、
俺は鑑定結果を眺め呟く。
「ば、ばかな鑑定祭器もないのに、どうしてここまで詳細にわかるんだ!?」
「貴方は二つミスを犯しています。私に名前と特殊スキル名を喋ったことです。それだけあれば、《
メルフィは冷静な口調で言い切る。
「だとしても小娘、貴様は
「それが、私の特殊スキル《
そう――。
たとえ回復魔法だろうと精霊魔法だろうと、自分に適さない属性の魔法だろうと、メルフィが目にした魔法や呪文書は全て《
――禁忌と呼ばれる魔法だろうと、一度記録さえされてしまえば使用可能となるのだ。
但し、メルフィ自身の魔力レベルに見合った魔法に限られる弱点も持つ。
また高レベルの魔法ほど連続使用ができない。
今、発動させた《
ちなみにスキル・カレッジの聖堂にある鑑定祭器よりも精度は高いだろう。
きっと俺の《
このように必要な魔力さえあれば、わざわざ時間を掛けて修練することなく高難度の魔法が使えるのだから末恐ろしい能力だと言える。
メルフィはわずか11歳でこの特殊スキルに覚醒し、適正検査した担当者達を驚かせると同時に畏怖された。
当初、担当者達から特殊スキルを強制的に封印する声も上がったが、彼女の才能を惜しむ声もあり、義理にせよ唯一身内である俺が監視することで容認された経由がある。
それ以外にも定期的な報告と特別講習を受け、今でも外部からの監視体制が強化されていた。
有り余り過ぎる才能故に難儀な部分もあるわけだ。
だから余計、メルフィは信頼のおける俺に依存してべったりなのかもしれない。
「クソッ! 俺の能力を知ったからって何んだというのだ! その程度で斃されると思っているのか!?」
「ジーク、テメェは俺より年上なのにわかってないな」
「何だと!?」
「驚異や恐怖ってのは、そいつに謎があるからだ。こうして全てを晒されたテメェの特殊スキルなんざ、最早驚異でもなんでもねぇんだよ!」
俺は両手ずつ握るブロード・ソードを翳し、ジークへ突進した。
こいつの特殊スキルは攻撃型じゃない。
なら、このまま斬り込み斃せると踏んだ。
ちなみに俺は同族だろうと敵には容赦しないぜ。
こう見ても精神年齢21歳だ。
伊達にあの未来でトラウマと修羅場を潜っちゃいねぇ!
「フン! お前こそわかってないんじゃないか、クロック!」
「ああ!?」
瞬間――俺の目の前に暗黒に渦巻く穴が出現する。
丁度、俺独りを覆えるほどの大きさで、明らかに異空間へと繋がっているようだ。
「こ、これは!?」
「――《
ジークが顔を歪ませ喜悦を発する。
俺は足を止め回避を試みるも間に合わない。
片腕が穴に触れ、吸い込まれるように異空間へと入って行く。
「兄さん!?」
「クロウさん!?
メルフィとユエルが駆けつけてくる。
俺は片手に握っていたブロード・ソードを落とし、二人に向けて手を伸ばした。
真っ先にユエルが俺の片手を握ってくる。
「兄さん、私も――」
「いや、これはこれで都合がいい――メルフィ! お前がこいつを斃してくれ! 悪党だから思いっ切り手加減しなくていいかなッ!」
「え?」
「頼むぞ――!」
俺はユエルの腕を引っ張り、彼女ごと異空間へ呑み込まれて行った。
「兄さん! クロック兄さぁぁぁぁん!?」
メルフィがいくら叫んでも異空間の穴は縮小され、フッと消えた。
「ああぁぁぁっ! そんな嫌ぁ、嫌ぁぁぁぁぁぁっ!!!」
絶望したかのように、メルフィはその場で両膝をつく。
「フン、苦し紛れに神官見習いの小娘まで巻き込むとはな……威勢の良かった割には、とんだクズ野郎だな」
ジークは口角を吊り上げ鼻を鳴らす。
「うるさい、黙れぇぇぇっ!!!」
「あん?」
「誰にも、クロック兄さんを悪く言わせない! 兄さんを侮辱させない!」
メルフィは四つん這いのまま俯き、声だけを張り上げている。
「はっ!
「――違います」
嘲笑する言葉に、メルフィは真っ向から否定した。
ジークはピタッと笑うのを止め、四つん這で俯く少女を凝視する。
「何だと?」
「この場で消し去るのは、貴方達全員です!」
メルフィは顔を上げ断言する。
その表情は虚ろであり、神秘的な黒瞳は光のない深淵の闇色に染まっていた――
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《特殊スキル紹介》
スキル名:
能力者:メルフィ・ロウ
タイプ:具現化系(魔道書型)
レアリティ:SR
【能力解説】
・一度でも見た魔法、あるいは魔導書の内容をスキルで構成された『魔道書』に記憶させることで、あらゆる魔法を無条件で発動させることが可能。
・職種、階級、属性を問わず『魔法』であれば使用することができる。
・一度、書き込まれた魔法は永続的に使用できる。
【応用技】
・他の魔法と組み合わせて使用することが可能。
・錬金術で予め高レベルの
【弱点】
・但し自分の魔力レベルに応じて使えない魔法や使用頻度の制限がある。
・スキルの魔導書を出現させ、ページを開かなければ魔法が使用できない。
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