第44話 オブリビオン・アイルの罠




「――どこだ、ここは?」


 あの吸い込まれた異空間から、別の場所に飛ばされたようだ。

 気づけば、俺達はどこかの地下空間にいる。


 暗視スキルを駆使し周囲を確認する。

 さっきと違い不自然さはない。。


 ただ広い地下空洞の中に大きな建物がある。


「……神殿のようですが?」


 ユエルが耳元で呟く。


「わかるのかい?」


「ええ……あの建物内に多くの祈念を感じるわ。しかも相当な数です」


「祈念? 多くってことは、神殿に誰かが潜んでいるってのか?」


 俺は目を凝らして、古石で積み上げられた神殿の外観を凝視する。

 太くて大きな数本の石柱に支えられた建物。

 中央部に階段があり、その上には大きな扉が構えていた。


 無人にしては良く手入れされている感じもする。

 それに、よく見ると正面側の壁に何か紋章が飾られていることに気づいた。


 己の尾を噛み環となっている竜の姿……。


 あれは『ウロボロス』の紋章だ。


 待てよ?


「――ウロボロスだって!?」


 俺は声を張り上げた。


「どうしたの、兄さん?」


「まさか!? ってことは、ここは連中・ ・のアジトだったてのか!? この古代遺跡も実は奴らの所有物!?」


 メルフィに服を引っ張られながら、俺は憶測してしまう。


 いや確信に迫っていた。


 ウロボロスの紋章は連中・ ・のシンボルマークだからだ。



 ――竜守護教団ドレイクウェルフェア。



 その瞬間、


 ずっと張り巡らせた索敵スキルが反応する。


「――誰だ!?」


「……ガキの割には、随分と勘のいい冒険者だな」


 神殿の柱から、何者かが姿を見せる。

 どうやら、ずっと柱に陰に身を潜ませ、俺達を観察していたようだ。


 声から察するに男には違いない。

 暗視スキルを駆使しても、詳細な姿まではわからないが人族であると判別できる。


「誰だと聞いている!」


「……生意気なガキだな? まぁ確かに、ここは些か暗すぎる」


 男は指をパチンと鳴らす。


 すると、洞窟周囲が明るくなり視界が良くなった。

 神殿の壁に幾つか設置されている燭台しょくだいにも火が灯されている。

 

 どうやって着火させたのかわからない。


 だが男の姿も目視できるようになる。


 一見、痩せ型でどこにでもいるような一般人っぽい奴だ。

 年齢は30歳くらいだろうか?

 服装も普通であり、腰に短剣ダガーは装備しているようだ。


 そして胸元には、『ウロボロス』が刻印されたペンダントをぶら下げている。



「……お前、竜守護教団か?」


「察しがいいな……ああ、そうだ。俺の名は、ジーク。貴様が言うように、竜守護教団ドレイクウェルフェアに所属する『使徒』だ」


 使徒? つまり高弟の身分ってか?


 未来の記憶だと、使徒クラスの連中は全員レアリティの高い特殊スキルを兼ね備えている筈だ。


「俺はクロック、見ての通り冒険者だ。ランバーグ公爵の依頼で、古代遺跡調査のクエストに参加している。ここはどういう所なんだ?」


「さぁな……遠い昔は戦を逃れるための避難場所のようだがな。その後、女神フレイアを祭る神殿として建築されたようだが、見ての通り今では廃墟となっている。だから我々が改装して使わせてもらっているんだよ、来るべき日に備えるための待機と準備場所としてね」


 来るべき日――。


 おそらくミルロード王国へのテロと乗っ取りでも計画しているのだろう。

 俺が記憶している未来通りならな……。


「俺達が最初に入っていた空間は何だ? 洞窟の入り口でもある大口を空いた『竜』石像と関係があるのか?」


「入口の『竜』の石像は前々からあった物だ。女神フレイアは嘗て『竜を従える女神』として祭られていたからな、その名残だろう。そして、貴様らがさっきまでいた『空間』は俺が特殊スキルで創造した世界だ」


「特殊スキルで……やはり具現化型か?」


「そう――《オブリビオン・アイル忘却の通路》。トラップ型のスキルさ……一度、入り込んだら、俺の指示なしじゃ決して出ることはできない。永遠に彷徨うことになるだろう」


「何故、暗躍を得意とする『竜守護教団』が、こんな目立つ洞窟にアジトを構えているんだ!?」


「んなの知るか。あくまで上の判断だ。そもそも俺達は宗教団体だからな……信者を集めるのに世間に喧伝や広報するためにも、相応の場所が必要なんだろ? まぁ、俺の《オブリビオン・アイル忘却の通路》があれば、たとえ軍隊が攻めて来ようと問題ないがね」


 要するに信者を集めるための象徴的な拠点にしたかったのか?


「何故、俺達三人だけ外に出したんだ?」


「お前は尋問目的だ。どうやら、パーティのリーダーらしいからな……黒髪の娘は魔道師ウィザードのようだから利用価値がある。最後に銀髪の娘は見た所、女神フレイアを信仰する見習い神官だろ? 『竜』を従えたって点じゃ、俺達に近い宗派でもある……俺が仕えるリーダーも興味があるって話だから退出を許可させた」


 仕えるリーダーだと?

 このジークって奴以外に使徒がいるってのか?


「まだ異空間にいる他の仲間達をどうするつもりだ!?」


「これまで侵入してきたミルロード王国の兵士達も同じ末路を歩んでもらう。一週間とちょっとくらいで餓死して死ぬだろうぜ」


 ぐっ、この野郎……アリシア達を放置させて始末するつもりだ。


 そして、俺も情報だけを聞き出してからキルする算段なのだろう。

 つーか、大した情報なんてないけどな。

 せいぜい五年後の記憶とトラウマがあるくらいだぜ……。


「ジークとかいったな! 俺達に危害を加えている時点で、お前を『敵』だと認識するぜ! このまま黙ってやられるわけねぇだろうが! しかも、三対一の状況で勝てると思っているのか!?」


「それも想定内だよ。だから戦闘力の低そうな、お前ら三人だけ退出を許可したんだろうが。言っとくが、この神殿の中に、俺のリーダーと小隊規模(100人)の信仰騎士団が祈りを捧げながら待機している。俺の合図でいつでも一斉に飛び出してくるぜ」


「だがテメェを真っ先に斃せば、スキル能力が解除され、俺の仲間も解放されるんだよな!? あいつら全員、SRの特殊スキルを持っているんだ! 小隊規模程度なら余裕で殲滅だぜ!」


「だから、させねーって言ってんだろ! もういいわ! 生意気な黒髪の糞ガキ、まずお前から始末して、他の二人から情報聞き出すわ!」


 ジークはニヤつき叫びながら、再び指を鳴らした。



 ギィィィ……。



 軋む音と共に、神殿の扉が開かる。


 その奥には、全身に鎧をまとい武装している信仰騎士達の姿。


 さらに中央を陣取り、長く歪な形をした槍を持ち、一際目立つ美麗な少女がいた。


 長い水色の髪を後ろに縛り、真っ白な法衣をまとった清楚感ある出で立ちから、一見すると司祭に見えなくもない。

 俺達と同年代っぽく、また年端のいかない顔立ちにも関わらず、強い意志を宿した瞳を持つ。


 この少女がジークの言っていたリーダーなのか?


「我ら『竜神』の信仰を害する輩は全て大罪であり敵ッ! 邪教者は今すぐ抹殺するのです! その身を切り刻み、『竜神』への供物として浄化させるのです!」


 やべぇ、この女。

 まるで常軌を逸したように堂々とキル宣告をしてきやがった。


 しかしだ。


「俺を舐めるんじゃねぇぜ!」


 俺は胸元からナイフを二本抜き出した。

 左手に持ち、そのまま投げつける。


 ナイフは開閉している左右の扉に同時に刺さった。


 刹那。



 バタン!



 扉は自動的に閉まる。


 さらに、もう二本のナイフを抜く。

 今度は両手に一本ずつ持って、扉に向けて投げつけた。



 ザッ!



 二本とも左右の扉に刺さり――全く開かなくなる。


「――《タイム・アクシス時間軸》で扉の時間を奪った。開かれる前の時間に戻し、その上で停止して固定させたんだ。一分くらいは開かないぜ」


「な、なんだと!? お前もスキル能力者か!? それに何だ、その能力は!?」


 恐慌するジーク、その背後にある扉がドンドンと激しく叩く音が響かせている。


『開けなさーい! この邪教者めぇぇぇっ!!!』


 扉の向こう側で、さっきの少女が思いっきり恨み節を叫んでいる。

 まぁ、無視しておこう。

 扉の時間その物を停止させているから破壊することも不可能だぞ。


 早いところジークを斃して、アリシア達が連れ戻してやる。

 そうなりゃ、他の教団連中なんぞ、烏合の衆ってもんよ。


 俺はジークに向けて、両手でブロード・ソードを抜き構える。


「おい、使徒野郎! 一分もあれば、テメェなんぞ余裕で斃せるぜぇ! ここからが俺達のターンだからな! 覚悟しろよ、コラァ!!!」






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