第43話 罠と異空間への誘い
ギィィィン!
突如、後ろから甲高い金属音が鳴り響いた。
「うおっ、危ないねぇ! 何するんだい、ディネ!?」
一番後方側で歩いていたセイラが叫んでいる。
「どうした?」
「ディネがアタイに向けて矢を射ってきたんだ! 気の合う仲間だと思ってたのに!」
「ち、違うよ、セイラ! ボクはクロウの指示で前方向けてに矢を射ったんだよ! みんなだって見てたでしょ!?」
「ディネの言う通りだ。彼女は俺の前に立ち、奥側に向けて真っすぐ矢を放ったんだ。最後尾にいるセイラに矢が飛んでくるわけがない……しかし、金属音がはっきりと聞こえたな?」
「アタイが
「ディネが射った矢だという根拠は?」
「ただの矢なら、弾いたなら今頃その辺に転がっているだろ? けど、どこにも矢は見当たらない。それにヒットした時、アタイの目の前で確かに矢は消滅したんだ。魔法かスキルで構成されていると思うのは当然だろ!?」
セイラの言う通りだな。
「なら、ディネよ。もう一度、矢を射ってみればどうだ? 今度は100本くらい増やしても良いだろう」
「アリシア! んなことしたら、またアタイが攻撃をくらうじゃないか!? だったらアンタが後ろで待機してなッ!」
「「ああ!?」」
「こら、二人共、揉めている場合か!? 奇妙なことが起きているんだ! 緊張感を持て!」
俺は犬猿の仲であるアリシアとセイラを窘めた。
二人は「は~い」と反省を見せている。
「……兄さん、どういうことでしょう?」
「ああ、メルフィ……ひょっとすれば、すでにもう何者かから『攻撃』を受けているかもしれない」
俺の言葉で、パーティの全員が「ええ!?」と驚く。
「た、確かにクロウの言う通りだよ! これだけ古い遺跡なのに精霊達が宿らないなんて可笑しいもん!」
「……ん? アタイが石床に触れても、《
ディネの言葉で、セイラはしゃがみ込み手を触れて何かを確かめている。
「どういうことだ、セイラ?」
「この石床は不自然ってことさ……あるいはディネの『矢』と同様、特殊スキルで作られた領域なのかもしれないねぇ……」
どうやら、入り口の門に潜った時点で、何者かの術中に陥れられたようだ。
「問題はどういう意図で俺達を『攻撃』しているかだな……ただの侵入者除けなら、まだ可愛らしんだが……」
「どういう意味でありますか、クロウ様?」
「ああ、アリシア……ここを閉じ込めた奴は、俺達をキルするつもり満々ってやつさ。きっと、ランバーグ公爵が事前に差し向けて戻ってこない調査団の兵士達のようにな」
「永遠に我らを彷徨わせ、衰弱死させると?」
「その可能性は高い。現にディネが放った攻撃がループしているのがいい例だ。それこそ永遠に俺達を解放するつもりはないんだろうぜ」
「クソッ! こんなことなら、入り口付近に『磁力』を施しておけば良かった!」
「アリシア、お前の磁力で
「やってみます――」
アリシアは胸ポケットからペンを取り出し、人差し指の先端に置いた。
「……反応はありません。やはり造られた空間に間違いはないようです」
「メルフィ、お前の
「幻術や幻影でなく実在している時点で魔法の類ではないと思います。おそらく特殊スキル……具現化型でしょうか?」
「なるほど……それで、セイラのスキルでも痕跡が読み取れないってわけか? おそらく俺やアリシアの効果型スキルじゃ『上書き』はできないってことだろう」
「ボクの『矢』でも、さっきみたいに一周しちゃうだけかな? 天井か床でも射ってみる?」
「う~ん……待て、ディネ。まず俺が試してみよう――」
ザッ
俺は右手で
すると。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ――……
床を突き刺した音が、一帯に反響してくる。
そして――
ザッ!
「痛ゥッ!?」
俺の右腕部に激痛が走った。
血が滴り落ちる。
「クロウさん!?」
異変に気づいたユエルが駆け寄り、俺の右袖を捲った。
「斬られてるわ……まるで剣が突き刺さったような損傷」
「思った通りだ。この
俺はダメージを受けたにも関わらず冷静に分析し思考を凝らす。
未来で
「クロウさん! 今、傷の手当をします! 待っててください!」
ユエルは甲斐甲斐しく俺の右腕の傷に
おかげで、あっという間に傷口が塞がった。
本当は《
またこうして彼女に触れてもらえるだけでも嬉しい。
っと、惚気ている場合でもないか。
「クロウ……ボクのこと守ってくれたんだね、ありがとう」
「ディネ、罠を見抜く鑑定や斥候も
「しかし、クロウ様は我らにとって大切な身……このような無茶、今後は控えて頂きたい!」
「ああ、アリシア……すまない」
なんか怒られてしまった。
けど、アリシアさん。
糞未来で俺にそう冷たく言い放ったのは、当時のお前だからね。
いかん……また勝手にトラウマ・スイッチが入っちまった。
「でもクロウ、どうするんだい? アタイら、このまま閉じ込められるわけにはいかないよ……食料だってろくな物持ってきてないしさ」
セイラが問い質してくる。
「そうだな。依頼主への報告期間もあるから、こんな所早々に抜け出す必要がある――メルフィ」
「はい、兄さん」
「スパルは連れて来ているんだろ?」
「ええ、ここに――」
メルフィは微笑みながら言うと、彼女の肩下げ鞄から三頭身のぬいぐるみのようなの骸骨戦士が顔を覗かせる。
――
彼女の特殊スキルで生成した化け物だ。
「なら話が早い。そいつを起動させて、この
「え? 兄さん……確かどれかに攻撃すると、攻撃した相手に降りかかってくるんですよね?」
「ああ、そうだ。だが、そいつは所詮作り物だ。仮にどうなろうと、また生成すりゃいいだろ? 竜の牙が必要なら、俺が買ってきてやるから……」
そう言うと、メルフィはスパルを抱きしめてキッと俺を睨みつけた。
普段の甘えん坊の義妹から、
「兄さん! お言葉ですけど、スパルちゃんは私の大切な家族です! 簡単に生成するなんて言わないでください!」
「しかし、ここから抜け出すには、そいつの力が必要だ。案外、物理的な力だけ跳ね返ってきて、そいつが持つ『能力』は対象外かもしれない……いや、それ以前に桁外れの破壊力で跳ね返る暇もないかもしれない」
「かもしれないであれば尚更嫌です! いくら大好きな兄さんの言葉でも従えません!」
出た、メルフィの悪い所だ。
こいつは普段は俺の言う事にはなんでもイエス妹だが、スパルのことになると頑固として譲らない。
それこそ実弟のように溺愛してしまうんだ。
本当は使い捨てのように何体も生成できる癖に、
まぁ、その背景には事前に交わされたスキル・カレッジとの
――仕方ない。
ぎゅっ
俺はメルフィを抱きしめる。
「に、兄さん……?」
「頼む、メルフィ……みんなを助けるためだ」
「…………はい」
メルフィは身を縮こませ頷いた。
暗いので頬を染めているかまではわかないが、彼女から鼓動が早くなっていることは伝わる。
だが何故だろう?
やたらと後の方で、女子達から鋭い視線が背中に突き刺さってくる。
キミ達……メルフィとは義理だが一応妹だぞ。
だが、その時――。
目の前の石柱が歪に形を変える。
大口を開けたバケモノの如く上下に割れ、物凄い勢いで吸引していく。
その中は暗黒の渦に包まれており異空間へと繋がっているようだ。
「なんだ、これは――!?」
俺とメルフィ、傍に立っていたユエルの三人は、その中へと呑み込まれてしまった。
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