第42話 古代遺跡調査と戸惑う女子達




 次の日の早朝.



  俺達は『古代遺跡の洞窟』がある森に向けて歩いていた。


「良く寝れたよ~」


 ディネが一番先頭を歩き、満足気に両腕と背筋を伸ばしている。

 

「まったくだな。身も心もすっきりとはこのことだな」


 アリシアも機嫌がいい。


「アタイ、なんか人には言えない恥ずかしい夢を見ちまったよ……」


 セイラは臀部の尻尾を気にしながら、もじもじと体をくねらせていた。


「私、途中から金縛りにあったようで……あれはなんだったのでしょう?」


 何も覚えていない、メルフィ。


「はぁ……」


 俺は最後尾でそんな女子達を眺めながら、とぼとぼと歩いている。


 正直、ほとんど眠れていない。

 つーか、こいつらのせいでな。


 流石にあんだけ、密着されたらドキドキして眠れるわけがない。

 クソッ、間違いが起きなかっただけ感謝してもらいたいぜ。


 未来の冷遇と現代の厚遇の差が極端すぎてついて行けない。

 だが結局の所、この女子達に振り回されていることに違いはないのか?



「クロウさん、昨夜はありがとございます」


 ユエルは振り向き、ニコッと微笑む。

 その姿や顔を見ているだけで、穏やかな気持ちになっていく。


 聖女――その名に相応しい少女。


 やっぱ、彼女は俺にとって唯一のオアシスなのかもしれない……。




 そうこうしているうちに、いよいよクエストの目的地が見えてきた。


「――あれが古代遺跡の洞窟。種族の手が加わっているのは当然として、なんとも悪趣味だな?」


 石が削られ加工された『竜』らしき石像が大口を開けている。

 その中が空洞となっており、洞窟の入り口だと思われた。


「この地域では、古くから『竜』を祭る風習でもあったのでしょうか?」


 アリシアが聞いてくる。


「まぁ、伝承だと『神の使い』と呼ばれていたらしいからな。あり得なくもないが……」


 言いながら、俺は入り口付近を調べる。

 削られた断面を見ると微かだが黒色と緑色にくすんでいた。


 結構な年数が経っているのがわかる。

 少なくても最近造られた洞窟でないのは確かだ。


 アリシアの問い掛けに一瞬だけ、あの組織・ ・ ・ ・が浮かんでしまった。



 ――竜守護教団ドレイクウェルフェア。



 種族達の天敵である『竜』を保護しようとする謎の教団。


 噂だと、密かにミルロード王国に潜伏している可能性があるとか?


 未来の記憶上でも実際に潜入しており、それから何度かテロ行為に及んでいるからな……間違いないだろう。


 だからと言って、こんなわかりやすい洞窟にアジトとして潜むとも思えない。


 竜守護教団において一番の脅威と感じるのは、一般の庶民や兵士や騎士に紛れて暗躍することにある。

 また王族や貴族達を嫌う貧困層に守られている点だろうか。


 そんな連中が、いくら辺境の集落外れの森とはいえ、さも「竜を祭ってますよ」と言わんばかりの洞窟を根城にするとは考えにくい。

 第一、ここはミルロード王国の重鎮ランバーグ公爵が治める領地でもある。



「削って『竜』に模したのはドワーフ族だね。年数も1000年くらい経っていると思うよ」


 ディネがしれっと言ってきた。


「どうしてわかるんだ?」


「ん? ボクね『石の声』が聞こえるんだ……正確に言うと石に宿る精霊達の声なんだけどね」


 へ~え。


 ただの残念弓使いアーチャーのボクっ娘だと思ってたけど、精霊使いエレメンタラーとしての素質も兼ね備えていたんだな。

 

 都会育ちとはいえ、流石はエルフ族か……。


「1000年前にしては削り部分のくすみがそうでもないな……見た目は100年も経ってないように見える」


「そこはドワーフ族の腕の良さだよ。劣化しにくい程、丹精込めて削ったんでしょ」


 ディネは「ボクもよくわからないけどねぇ」と白い歯を見せて笑っている。


「そもそも何目的の遺跡なんだ?」


「嘗ては戦などに巻き込まれないための避難用施設の跡地みたいだね。後、神殿としても使われていたみたい。わざわざ『竜』を模しているのは魔除けのようだよ……野生のゴブリンとか低級の魔物モンスターが棲みつかないようにするためのね……ん? なんだって?」


「どうしたディネ?」


「ここ最近、複数の知的種族が頻繁に出入りしているみたいだって……村人じゃないようだけど……精霊達もそこまで区別できないから……わからないや、ごめん」


「いや十分だ。少なくても昨日、食事亭で聞いた内容と一致しているってことだろ? 何者かが洞窟内に潜んでいるらしい。用心する必要があるな」


 後はどんな連中が見極めて、ギルドへ報告するだけだ。


 だが戦闘も想定に入れとかなければならない。

 用心に越したことはないだろう。




 俺達は各々装備を確認し、洞窟へ続く『竜』の口の中、石像の門を潜って行く。


 ドワーフ族が関与しているだけあり、綺麗に敷き詰めた石床や石柱がぎっしりと並ぶ一見して清潔感漂う造りの通路だ。

 神殿として使われていたという、ディネルースを介した精霊達の情報に間違いはないようだ。



「索敵スキル発動――敵らしき反応はない。探索スキルでも特に罠らしき気配はない」


 俺は先頭を歩き辺りを確認する。

 暗視スキルもLv.10とカンストしているので、たとえ暗かろうと明かりを照らす必要はない。


「はぁ……兄さん、素敵です」


「やるねぇ、クロウ」


「クロウ……カッコイイ~」


「流石は我が主」


「凄いです、クロウさん」


 俺の後ろで女子達が感嘆と溜息を漏らしている。


 何だ? 手際の良さに褒められているのか?


 いつもの台詞を言わせてもらうが、これも糞未来でみんながオーガの如く鍛えて上げてくれたおかげだぞ。

 ユエルがいるから、今回はそう簡単にトラウマ・スィッチは入らないがな。


「みんな不安だったら迷わず明かりを燭台しょくだいを灯して視界を確保してくれ。それぞれの職種に見合った行動を取ってくれよ」


「は、はい……クロウ様」


 俺の声掛けに、後ろで歩くアリシアが声を強張らせる。


「どうした、アリシア? 様子が変だぞ?」


「い、いえ……別に私は……」


「ん? 体調でも悪いか?」


 俺は彼女の肩に軽く手を添えた。


 ――震えている?


「こ、これは、そのぅ……気持ちが高揚しているだけですぞ!」


「なんだ、お前? まさか緊張しているのか?」


 あの決闘好きのアリシアが?

 嘘だろ?


 俺の問いに、アリシアはこくりと頷く。


「も、申し訳ございません。『竜』や魔物モンスターなら戦う決意も漲るのですが……入口前での話上、知的種族同士の戦いを想定すると、どうも……特に真剣では……」


 そうなのか?


 ああ、そうか……この時代の彼女は、まだ真剣で誰かと斬り合ったことがないんだ。


「みんなもそうか?」


 俺は他の女子達にも聞いた。

 みんな、恐る恐る頷いて見せる。


 なるほどね……なんか初めて女子達のか弱さを垣間見たような気がする。


 ――可愛いじゃないか。


 思わず、ニヤついてしまう。



「……例の出入りしている奴らと遭遇しても無理して戦闘する必要はない。だが覚悟は持たなければならないだろう。クエストには危険が付き物だ……中には山賊退治とか、それこそ前に話した『竜守護教団』と戦うことも視野に入れなければならない。でなければ自分の命は疎か守れる者も守れないからだ。酷な言い方をするが、それがこの世界の現実なんだ……俺も可能な限りみんなの支援をする。だが、みんなも自分の身は守れるようになってほしい」


 俺は言い切ると、アリシアの震えがぴたっと治まる。


「わかりました、我が主よ。おかげで目が覚めました……このアリシア・フェアテール、命に代えてクロウ様をお守りするため、どのような相手でも迷わず剣を振るいましょう!」


「ありがとう、アリシア……けど、お前自身も守ってくれよ」


 冗談っぽく言うと、アリシアは和らいだ微笑みを浮かべている。

 他の女子達も「くすくす」と声を漏らして笑っていた。


 少しだけ場が和んだようだ。



 石床の通路はしばらく続いた。



「――妙だ」


 俺はある異変気づく。


「兄さん……妙って何がです?」


 メルフィは恐る恐る聞いてくる。


「こうして真っすぐ進んでから、かれこれ経つのに一向に行き止まりのなければ曲道もない……ずっと同じ場所を延々と歩かされているような気がする」


「まさか……」


「ディネ、入り口前の要領で精霊達の言葉は聞けないのか?」


「うん……ここ一帯に精霊はいないみたい。金属物質以外は大抵宿している筈なのに……」


「じゃあ、お前の弓矢でここから真っすぐ先に射ってくれないか?」


「うん、いいよ――《ハンドレット・アロー百式の矢》ッ!」


 ディネは弓を構えて、特殊スキルで生成された矢を放つ。


 スキルの矢は、ヒュンと空を切って真っすぐ飛んで行った。



 すると――






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