第40話 過剰で過激な女子達




 今、俺は猛列に感じている……。


 あの糞未来でさえ感じたことのない戦慄を……。


 仲間である筈の彼女達から――


 何だろ?


 さっきから身の危険を感じずにいられないのだが……。



 っと考えているうちに、パーナ村に着いたぞ。



 案の定、辺りは真っ暗だ。

 まずは宿屋を探して、それから食事だな。


 すぐ宿屋を探し当てる。

 と言っても、この村には一軒しかないらしい。

 流石、辺境ってところか。



 宿屋に行き、部屋を一室借りる。


 店の主人に事情を説明し、ベットを片づけてもらう。

 敷布団と布団を床に敷いてもらうと、丁度六人分の寝床が埋まる形となった。


「一晩、寝るだけからな。まぁ、一人一人のスペースが確保できただけでも良いだろう」


 俺は言いながら荷物を置き、チラッっと女子達を見つめる。


 ユエルだけ隅っこでちょこんと座り、他は真ん中で輪になって何か話し込んでいる。


「ここは公平にいこうじゃないか、ええ?」


 セイラが拳の骨をバキバキ鳴らしている。


「じゃあ、またジャンケンでどう?」


「拒否する。私は前回の『花々亭』でジャンケンとやらが弱いことが判明している」


 ディネの提案をアリシアが胸を張って嫌がっている。

 どうでもいいけど、ジャンケンが弱いのを威張って言うことじゃないと思う。


「ではくじ引きはどうでしょう? 私が即興で作りますので……」


「待て、妹殿。その手のモノは細工されやすい……特に魔道師ウィザードの其方はな」


「アリシアさん、まさか私を疑っているのですか?」


「……すまない。クロウ様のご身内とはいえ、こればっかりは絶対に譲れん」


 一体、何の話をしているんだ、この子達は?


 いや、既に察しはついている……。

 だが一応、聞くだけ聞いてみるか。


「何を話しているんだ、みんな? とっとと寝る場所決めて食事に行こうぜ。明日、早いんだからな」


「我が主よ、だからこそ決めねばなりませぬ……誰がクロウ様のお傍で休み、その身を守って差し上げるのかを――」


 何、真面目な顔して言ってんのアリシアさん。


 要は誰が俺の隣で寝るのか配置を決めているだけだろ?

 やっぱ、そんなしょーもない話し合いじゃねぇか……。


 まぁ、男としては、こんな美少女達と選り取り見取りで一緒に寝れるってことは喜ぶべきことなのだろう。


 あるいは、「ええ!? そんなの困るよ~!」って童貞っぽく焦るシチュエーションなのだろうが、俺は極めてドライだ。


 何せ、糞未来でしょっちゅう目の当たりにされたノリだからな。


 ――ウィルヴァに対してな。


 それがこの時代になって、俺へとポジが移っているだけのことだ。


 そう思えばなんてことはない。


 流石にユエルが隣となったら、ドキドキして色々と大変だが、このノリからしてそれはないようだ。

 彼女はこういう話には乗っからない子だからな。


「……誰でもいいじゃないか。決められないなら、俺がスパンと決めてやる。それでいいか?」


 俺の提案に、女子達は渋々「うん」と首を縦に振るう。


「じゃあ、アリシア」


「よぉぉぉぉぉし!」


「んで、ディネ」


「キャッホーッ、クロウ、だ~い好き!」


「ちょい、クロウ! なんでアリシアとディネが良くて、アタイが駄目なのさぁ!」


「そうです、兄さん! 妹の私が除外される理由がわかりません!」


 思った通り、セイラとメルフィが猛反発してくる。


 誤解すんなよ。

 別にひいきしたわけじゃないからな。


 あくまで冷静な根拠に基づく理由だからだ。


「なら説明するぞ。まず、セイラお前は寝相が悪い。時折、戦っている夢を見て隣で寝ている奴を殴ってしまった経験があるだろ?」


「――うっ! どうしてそれを!?」


 糞未来で、主にその犠牲者が俺だったからだ。


「それにメルフィは俺の布団に入り込んで、添い寝してきたり甘噛みしてくるだろ? もういい歳なんだから兄離れしないと駄目だ」


「……だって寂しいんですもの」


 義理の妹ながら、なんとも可愛いらしい……。


 しかし、実はそれだけじゃないぞ。


 あの『竜牙兵スパルトイ』のスパルが決まって、俺の睡眠の妨害をしてくるんだ。

 どうせ今回も連れてきているんだろう。

 メルフィを第一に守ってくれる『守護衛兵ガーディアン』なのは良いが一番厄介な奴でもある。

 


 いや――最も恐ろしい奴か……。




 それから飲食店に行き、遅めの夕食を取った。


 店の主人に、付近の森にある『古代遺跡洞窟』の件を聞いてみる。


「――何か潜んでいるのは確かで、調査団の兵士達が失踪してから誰も近づいていない」


 と話していた。


 やっぱり魔物モンスターが棲みついているのだろうか?

 兵士達が全滅しているのなら、相当凶暴な奴なのかもしれない。

 依頼では戦うことは指示されてないも、それなりの覚悟が必要だろう。




 その後、宿屋に戻る。


 明日に備えて就寝した。



 筈なのだが――。



「しくったな……この状況」


 俺は甘く見ていた。


 女子達の執着というか執念と言うものを……。


 俺は布団の上で仰向けになっている。

 両腕と両足を広げられないまま、直線に背筋を伸ばしたまま。


 寝返りをうとうとすると、右にアリシアが左にディネの二人が俺に顔を向けてスヤスヤと寝息を立てている。


 しかもやたら近い――。


 その寝息が両方から、俺の耳と首筋に当たってしまい、ぞくぞくっと身震いしてしまう。


 頭上にはセイラが垂直で寝ており、彼女が寝返りをうつ度にその真っ白な尻尾が顔に乗っかってくる。

 モフモフっとして、これまた気持ちいい。


 ぴちゃぴちゃ……。


「うおっ! くすぐってぇ!?」


 足の親指が誰かに舐められたような感触。


 メルフィだ。

 彼女もセイラ同様に足元で垂直に寝ており、母乳を吸う赤ちゃんのように足の親指を咥えては舐めていた。

 おまけに軽く噛まれているのだが……。


「メルフィ、やめろ! 俺の足の指はおしゃぶりじゃないぞ!」


「……兄さん」


 俺の声に反応し、メルフィは瞳を潤ませながら這い上がり、俺に覆い被さろうとする。


 こ、こらぁ! なんちゅう妹だ!?


 ただでさえ左右に動けないのに、お前まで乗っかったら完全に身動き取れないだろうが!?


「アリシア、起きてくれ! お前の《マグネティック・リッター磁極騎士》でメルフィを来させないよう、どっかにくっつけてくれ!」


「う……ん? おや、妹殿か……仕方ない。ほら、おいたがすぎると兄上様に怒られますぞ」


 アリシアは優しく諭すように寝ぼけているメルフィを誘導し、本人と布団に磁力を宿らせて固定してくれる。


「では、おやすみなさいませ、クロウ様……」


 艶っぽい声をだして、スヤスヤと寝だした。

 しかも、さっきより顔が近い。


 とにかく危機は回避された……いや、あんまり変わってなくね?


 ぶわっ


 今度は、セイラの尻尾が俺の顔を覆い被さってくる。

 いい加減、頭にきたので尻尾を枕にして頭の下に置いてやった。


「おっ? フカフカのモフモフで気持ちいい~」


「う、うう~ん♡」


 セイラは何故かやたら色っぽく妙声に近い声を出している。

 ひょっとして尻尾は敏感な箇所なのだろうか?


 っと、考えたらドキドキしてきたんだけど……。


 もう寝れねぇじゃん!



「クロックさん、大丈夫ですか?」


 ユエルが声を掛けてくる。

 彼女はディネの隣で寝ており、むくりと起き上がっていた。

 色々な意味でハーレム状態である俺の姿を眺めてくる。


 ああ~……。


 嘗て好きだった子に、こんな痴態を晒しているって、凄く情けなくて恥ずかしい。


「ユエル、起こしたかい? ごめん……」


「いいえ。なんだか楽しそうで」


 楽しい?


 言われてみればそうかもしれない。

 しかし慕ってくれるのは嬉しいが、どの子も場をわきまえてほしいものだ。


 みんな過剰というか過激というか……。


 けど悪くはない。

 これだけ魅力的で素敵な女子達に囲まれてだ。

 寧ろ男として光栄なのかもな……。


 特に俺のような劣等生の雑用係ポイントマンが――。


 あの未来でのウィルヴァも、こういう思いをしていたのかな?


 そう考えると、メラっとした嫌な気持ちも湧いてくる


 嫉妬、羨望、渇望……。


 俺は男として、ウィルヴァという男にずっとそういう思いを抱いている。


 あの未来じゃ、いくら手を伸ばしても高く遠すぎて届かない圧倒的な存在――。


 ――絶対者。


 けど、今の俺なら――……



「クロックさん、少しわたしとお話しません?」


 ユエルは慈愛を込めた微笑みを俺に見せた。






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