第39話 女子達の焼き餅




 俺が断言すると、アリシア達は「まぁ言いたいことはわかります」と冷めながらも同調はしてくれる。


 一応、クエスト参加について、みんなオッケーっという解釈を勝手にした。



「っと、いうわけで……レジーナ姉さん。こんな形だけど、俺達がクエスト引き受けていいかい?」


「そうね……内容から難易度を考慮してランクB相当な気もするけど、依頼者クライアント側もギルドランクはこだわってない点と、生還を優先させているなら問題ないかしら? 一応、皆さん全員がSR級の特殊スキルを持ちだからね……あっ、ごめんなさい。クロックくんはエラーで別だったわね」


「ん? おい受付嬢、我が主への侮蔑は許さんぞ! クロウ様の特殊スキルのどこがエラーなのだ!? このお方は立派なSR級スキルの持ち主だぞ!」


 アリシアに続き、他の女子達も「そーだ! 何も知らない癖に!」と息巻いている。

 擁護してくれるのは嬉しいが、未来で世話になったレジーナ姉さんと揉めてほしくない。


「まぁまぁ、みんな落ち着いてくれ! どうやらギルドの鑑定でも、俺の《タイム・アクシス時間軸》は反映されないみたいなんだ!」


「なんと……クロウ様、何故でありますか?」


「それがわからない……俺が聞きたいくらいさ」


「クロウ、ひょっとしてアンタの特殊スキルって、SR級じゃないんじゃないかい?」


「どういうことだ、セイラ?」


「昔、アタイの師匠から聞いた話だと、特殊スキルはSR級より更に上の段階があるらしいよ……確か、EXRエクストラって言ったかな? 案外、クロウの特殊スキルはそれに該当するかもしれないね」


 EXRエクストラ級だと?

 初めて聞くレアリティだ。


 つまり規格外のスキルってことか……。

 

 しかし、王都で鑑定してもらった『占い師』からSR級って言われているからな。

 俺的にはそっちの方が信憑性はあると思う。


 ……まぁ、いい。そう焦って考える必要もないだろう。


 今はクエスト優先だ。


「それじゃ、レジーナ姉さん。俺達がそのクエストを引き受けてもいいんだよね?」


「ええ、大丈夫よ……でも不思議ね、クロックくん」


「何が?」


「キミに『姉さん』と呼ばれても、少しも嫌な気分にならない……寧ろ自然体のように受け入れてしまうわ。いつの間にか私も普通の口調で喋ってしまっているしね」


「……ははは」


 俺は苦笑いを浮かべた。


 未来を変えているつもりが、気づけば未来で関わる連中と深い繋がりを持ってしまっている。

 目の前のパーティ女子達もそうだし、ウィルヴァやユエルに関してもそうだ。


 これが『縁』ってやつなのだろうか?



「ねぇ、クロウ!」


 ディネが声を弾ませ、服の袖口を引っ張ってくる。


「どうした?」


「あのね、ボク……ずっと、このクエストが気になって仕方ないの」


 笑顔で言いながら、クエスト依頼書を見せてくる。


「ん? 『ファンキィ爺さんの話し相手』だと? ギルドマスターが仕組んだ糞クエストじゃねーか? んなの気になってんじゃねぇよ~!」


「だってぇ、一時間で銀貨10枚(1.000G)だって~! ねぇ、やろうよ~!」


「やらねーよ! わざわざお前らを冒険者にした意味ないだろうが!?」


 そんな爺さんの相手より、『竜』を相手にしろっての!


「アタイ、このヘミエルっていう軟弱な男って嫌いだね~。クロウ、引き受けた振りして、こいつにヤキ入れながら、いっちょ根性を鍛えあげてやらないかい?」


 セイラは不快そうに指先で依頼書を摘まみヒラヒラと見せてくる。


 やめてくれ……それ、もろ侯爵の御曹司じゃねぇか?

 んなことした日には、冒険者資格剥奪じゃ済まないからな。


 どうして、みんな戦闘時以外はポンコツ女子が多いんだろう。



「クロックさん、あのう……」


 ユエルが祈るように両手を組んで見つめてくる。

 その純潔な雰囲気に、俺は懐かしくもあり再び胸が高鳴ってしまう。


「なんだい?」


「わたしも一緒に同行させて頂いてよろしいですか?」


「ユエルも?」


 聞き返すと彼女はこくりと頷く。


「クロックさんのパーティ……失礼ながら回復系ヒーラーがいらっしゃらない様子なので、わたしで良ければと……それに引き受けてくれて嬉しかったから」


「俺的には凄く助かるよ。でも、ギルドに登録しないとクエストには参加できないけど……ユエルは登録しているのかい?」


「いいえ、まだ……ですが修練のため以前からやってみたいと思ってました。今から登録してもいいですか?」


 ニコッと優しい微笑を見せてくれる。

 相変わらずの天使ぶり、いや女神と言っても過言じゃない。


 再び俺の記憶に『素敵な思い出ハッピー』スィッチが入る――。


「勿論だよ。こっちに来てくれ、手続きの仕方を教えるから」


 俺はレジーナ姉さんに頼んで、ユエルの冒険者登録を手引きする。

 懇切丁寧に教える中、背中から他の女子達から冷たい視線を感じた。


「……なんか、クロウ。ボク達の時と対応違うよね?」


「うむ、まるで雲泥の差でありますな……」


「私の時も、あんなに優しい言葉掛けはなったと思います」


「ひいきはいけないねぇ……男らしくないよ」


 あーっ、聞こえません。


 んなの糞未来で、お前らが俺にやらかしてきた差だろうが!?

 ユエルとは甘酸っぱい素敵な思い出しかないんですぅ!



 ……いや待て。


 それじゃ、俺が悪いのか?


 糞未来の教訓を活かすのは大切だが、何も知らない今の時代の彼女達になすりつけるのは筋が違うよな?


 トラウマという負の感情が強いばかりに思わず混合しちまう。

 まぁ、毎度のことなんだが……。


 そういや、ユエルって神官プリースト目指しているんだよな?

 未来じゃ『精神鑑定』の技能スキルを持っている筈だ。


 クエスト中、一度相談してみるべきか……。


 

 ユエルの登録が終わり、彼女はギルドカードを手にしている。

 勿論、初心者なのでランクE扱いだ。


 俺はユエルと二人で、不貞腐れた女子達に近づく。


「みんなごめん……俺、別にそういうつもりじゃないからな。俺はみんなと今を大切したいと思っている。これからも最良のベスト仲間達パーティとして……」


 正直な気持ちを言いながら軽く頭を下げてみる。


「えへへへ、クロウ~♪」


「……私もです、クロウ様」


「兄さん、ずっと一緒です」


「やっぱ、アタイの見込んだ男だよ、アンタは……」


 一変して気を良くする女子達。

 みんな現金といえばそれまでだが、今の俺にそれを言う資格はない。


「皆さん、どうかよろしくお願いいたします」


 ユエルは微笑みながら丁寧に頭を下げて見せる。

 実はこの子が一番マイペースなのかもしれない。



 こうしてメンバーも揃い、『古代遺跡洞窟の調査』クエストに出発することになった。




 ゼーガ領はミルロード王国から辺境にあるため、馬車でも半日以上はかかってしまう。


 あれから装備を整えた俺達は昼頃に出発することになった。


「任務期間は2日間だが、週明けにまでは間に合わないな……丸一日は学院を休まなければならない……確か学則だと、クエスト中なら何日か休んでも単位に影響ないんだよな?」


 馬車に揺られながら隣に座るメルフィに聞いてみる。


「そうですね。私が『伝達魔法』でスキル・カレッジに報告しているので問題ないと思います。きっと今頃は学院から冒険者ギルドに確認を取っていることでしょう」


 手続き関係は、レジーナ姉さんが上手くやってくれるってところか。


「それじゃ、パーナ村に着いたら宿を探すか……次の日の早朝から、クエスト開始としよう」


 俺がさらりと言うと、ユエル以外の女子達の目つきが変わる。


「ん? どうしたみんな?」


「いえ、クロウ様……当然、クロウ様も宿にお泊りされるのですな?」


「当たり前だろ、アリシア……流石に村に来て野宿する奴がいるか?」


「ねえねえ、泊まる部屋とかどうするの?」


「ディネ、悪いがみんな同じ部屋に泊まってもらう。なるべく経費は節約したいからな。その代わり、できるだけ大きい部屋を探すよ」


「「「「問題ありませーん!」」」」


 ユエル以外の女子達が揃って声を弾ませる。


 やたら物分かりがいいが、どの娘も目が血走っていて怖い。


 なんだろう……幸先から悪い予感がするのだが。






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