第36話 冒険者ギルドでアルバイト
花々亭で全財産を失ってしまった、俺。
調子に乗って、女子達に好き放題食べさせたのが悪かった。
奢るなんて言わなきゃよかった……。
未来で後悔し、過去の世界でも後悔してしまうとはな。
ループした意味ないじゃん……。
まぁ、愚痴ってもしょうがない。
失った財産は働いて取り戻すしかないだろう。
週末。
俺とメルフィは王都にある冒険者ギルドに訪れた。
周囲の建物よりも一際大きい建造物だ。
レンガ造りで一見して堅牢な出で立ちだが、王国中に置かれたギルド支部の総本山であり、選りすぐりの冒険者が多く集う根拠地としている。
本部というだけあって、そこで働く職員の数も出入りする冒険者の数もかなり多い。
その規模だけでも王都に配置された衛兵隊と軍隊に匹敵する大所帯と思えた。
「メルフィは王都のギルドに来るのは初めてだよな?」
「はい、クロック兄さん。私は兄さんと一緒の時しかクエストに参加したことがありませんので……兄さんもでしょ?」
「ん? ああ、そうだったな……」
メルフィに言われ、今の俺は高等部の学生だったってことを再認識する。
今もギルドから様々な防具で固めた冒険者達が絶え間なく出入りしており、その盛況さが窺い知れる。
五年後と変わらない風景。
久々に見るギルドに懐かしさを感じながらしばらく眺めたあと、俺はメルフィの手を引き内部へと足を踏み入れた。
「これだけ混雑していたら迷うだろ? しっかり手を握って行こう」
「はい、兄さん」
ぱっと見は黒髪の
メルフィにとって俺と一緒にいることが何より嬉しく楽しいらしい。
正真正銘のお兄ちゃん大好きっ子だ。
糞未来では何が間違って、あんな冷淡な奴になっちまったんだろう……。
俺が不甲斐ないから?
いや違う――メルフィはそんな理由で気持ちが変わる妹じゃない。
寧ろ、俺が誰かと争い揉め事を起こすのを嫌っていた子だ。
だから魔法を学び、
俺よりも早く特殊スキルに覚醒したのも関わらず、同じ学年を選んだのもそれが理由だったんだ。
ずっと傍にいて、俺を守るため――
兄としては情けないかもしれないがとても嬉しかった。
今も、こうしてべったりくっついてくれる事が何より嬉しい。
願わくはこのまま変わらないでいて欲しい……。
「兄さん、どうしたの?」
メルフィは黒瞳を丸くし、きょとんと俺を見つめている。
どうやら気持ちが入り過ぎて手を強く握ってしまったようだ。
「……なんでもない。クエスト、頑張ろうな」
「はい」
未来のトラウマがあるからこそ、今を大切にしたい。
素直にそう思えた。
ギルドの1階はクエストの受注および達成報告をする受付と酒場が併設されており、早朝にもかかわらず辺りは香ばしい肉の焼けた香りや酒の匂いで満ちている。
ちなみに、ここの収益構造はクエストの依頼主から受け取る手数料と冒険者が持ち込む様々な素材の買い取りおよび転売、2階~3階にある宿屋と飲食スペースでの収益によって成り立っていた。
まだ朝早いこともあり受付場は比較的に空いている。
すぐに自分の番になり、俺とメルフィは並んでカウンターの前に立った。
「おはようございます。クエストの受注でしょうか?
「やぁ、レジーナ姉さん、お久しぶり」
「はい? どこかでお会いしましたか? どうして私の名前を……?」
「あっ、そうか……すみません。周りの冒険者の方達から聞いたんです」
懐かしさのあまり、うっかり口を滑らしてしまった。
苦笑いを浮かべなんとか誤魔化す。
彼女は受付嬢のレジーナ・フォルン。
レモン色の美しい髪にゆるいウェーブをかけて後ろに纏めた超絶と言っていいほどの美人さんだ。
おまけにスタイルも抜群で綺麗ながらも可愛さも兼ね備えた美貌である。
あらゆる男性冒険者達を虜にする人気ナンバーワンの受付嬢だ。
確か今頃は、18歳くらいか?
その明朗快活の性格は俺も好感を持っており、よく「レジーナ姉さん」と呼んで慕っていた。
未来での彼女は、俺がパーティ達から冷遇を受けていることを心配し、別の進路を探してくれるなど最後まで身を案じてくれていたんだ。
俺にとっては恩人のような姉さんだ。
とりあえず、俺とメルフィは互いの
「お名前は、クロック・ロウくんにメルフィ・ロウさんですね……ランクDと確認しました。しばらくクエストに参加されておられない様子なので、ステータスを最新に更新いたしますね」
「はい、お願いします」
ギルドカードは謎の合成樹脂で加工された紙よりも丈夫な素材で作られた掌サイズの板だ。
その名の通りギルドに登録している冒険者の身分証明書であり、ギルドランクとステータスなどの個人情報が書き記されている。
ギルドランクは、E・D・C・B・A・S・SS・SSSの8ランクがあり、ランクDまでが初級扱い、ランクAまでが中級、それ以上が熟練の冒険者となる。
特にランクSSSは勇者パーティに匹敵するレベルを持つ屈強パーティ扱いだ。
このギルドランクによって請け負えるクエストが決められ、当然ながらより高いクエストほど報酬も上がる仕組みである。
俺達のギルドカードを更新しているレジーナさんの表情が強張る。
「ん? んん!?」
どうしたんだ?
俺達の特殊スキルが表示されてびびってんのか?
無理もないか……。
「あっ、レジーナさん。俺とメルフィはスキル・カレッジの学生だから、あんまり驚かないでほしいんだけど……」
「え、ええ……確かにメルフィさんの特殊スキルは凄いわ……レアリティSRとはいえ、よく『法』に触れないのかってくらい……」
「大丈夫です。メルフィも公的機関で散々指導を受けてますし、クエストの際は身内である俺の監視下でいるようルールが設けられてますから……」
「そう、でも違うの――」
「違う?」
「私が一番驚いているのはクロックくん、キミのことよ!」
「お、俺ぇ……?」
何だ? 特殊スキル、《
へ~え……鑑定祭器じゃ判定されなかったのに、ギルドカードでは反映されるようだ。
やっぱスキル・カレッジの祭器が壊れてんじゃねぇの?
「俺の特殊スキルも色々ありましてね……」
「違う、違う! キミのはレアリティEの名無しスキルです!」
「なんだって!?」
じゃあ、スキル・カレッジの祭器は壊れてないのか!?
だったら俺の特殊スキルって一体なんだっていうんだ!?
「私が驚いているのはクロウくん、キミの技能スキルですよ!」
「技能スキル? 俺の……あっ!?」
「そう、まだレベル15程度なのに
あっ……そっち。
うん、そっちね。
まぁ、五年後の未来で修得した技能スキルが何故か引き継がれた形で、この時代に戻ったからな。
きっと、記憶もそのまま保持されていることが要因だと思うぜ。
ついでにトラウマもしっかり覚えているけどな。
「でも、レジーナさん。それって何か問題あります?」
「い、いえ……特には……あまりにも稀な例だったのでつい、申し訳ございません」
レジーナさんは落ち着きを見せて謝罪する。
更新されたギルドカードを俺達に渡した。
……なるほど。
確かに特殊スキル項目欄で、《
スキル・カレッジの鑑定祭器通りの内容だ。
「……兄さんの特殊スキルって一体?」
メルフィも俺が手にするギルドカードを眺めながら首を傾げている。
「わからない……もう一度、あの『占い師』に会いたい気分だよ」
きっと二度と会える機会はないだろうと予期しながらも、そう愚痴を零さずにはいられない。
しかし仮に会えたとして、どうなるわけでもない。
今の俺は特に困っていないからだ。
それよりも、これまでになく充実しているのかもしれない。
まぁ、会ったらお礼くらいは言いたいかもな……。
俺は深く溜息を吐き、気を取り直す。
請け負うことができそうな、クエスト依頼書に目を通した。
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