第35話 打ち上げ会と拭えぬトラウマ(後編)




 ――竜守護教団ドレイクウェルフェア。


 いつの頃からか世界各地に蔓延る宗教団体であり、自ら「竜の守護者」と名乗り『竜』を保護しようとする謎の教団だ。


 何でも竜を「神の使い」として崇め、『竜狩り』する冒険者達を武力行使で弾圧し断罪させようとする過激思想を持っている。

 


「――全ての知的種族は竜神様を尊い礎となるべき、我ら竜に仕える者のみが地上に福音と楽園をもたらすであろう――」


 っと、いうプロパガンダを掲げていた。


 つまり竜を崇める自分達だけが生き残って地上を支配するという信仰である。


 教団に信仰する教徒達は『ウロボロスの紋章』を何かしら身に着けており、普段は一般庶民として各国内で潜み、ある国では王族に仕える士官として身を置く者もいるとか。


 しかし、教団の中には『竜』にかこつけた反社会的テロ思想や王族や貴族など富裕層や貧困層との差に不満を持ち教団に加担する者も多く、入団者が後を絶たないようだ。




「そういや、ちょうど今頃だったな……『竜守護教団』の連中が、この国に出没して来た時期は……」


 五年後の記憶を持つ俺も、流石に学生の頃は関りがないも、卒業して勇者パーティに入らされてから何度か討伐任務を任されたことがあった。


 っと言っても、あの頃の俺は雑用係ポイントマンとして連中の情報を集めたりアジトを突き止めて、勇者パラディンのウィルヴァに報告するだけだ。


 後は、ウィルヴァとパーティの女達が美味しい所をかっさらって手柄を立てるって寸法さ。

 こんなことばかりさせられていたから、尚のこと国内の地理に詳しくなったんだろうな……。

 

 どいつも、俺が裏方で危険な目にあって必死で情報集めた結果だってのに労いもせず、当然だろって顔をしていたのをよく覚えている。


 唯一、「クロウさん、頑張りましたね」って言ってくれたのは、ユエルだけだった。


 特にアリシアから発せられた、「フン、貴様のような無能者でも役に立つことはあったか?」って言われた冷たい言葉は、今も心の中で鮮明に刻まれているからな!



「クロウ様、何になさいます?」


「ああ!?」


「い、いえ……申し訳ございません……しゅん」


 俺に凄まれ、アリシアは俯き肩を縮こませる。


 ――はっ!? またやっちまった!


 気付けば、ついトラウマ・スイッチが入っちまう……。


「ご、ごめん、アリシア! そうじゃないんだ……今、向こう側にいる冒険者達の会話が耳に入って、ちょっと思う所があったから、そのぅ……俺が悪かったよ、どうか許してくれ!」


「いえ……大丈夫です、クロウ様。どうか気になさらないでください」


 俺の謝罪に、アリシアは気を良くしてニッコリと微笑んでくれる。

 彼女の藍色の瞳が潤んでいることに気付く。


 危ねぇ……あのまま放置してたら、下手をすれば泣かれていたのか?


 つーか、この時代のアリシアって案外繊細だったんだな……。


 未来の記憶じゃ、いつも不機嫌そうな仏頂面か、俺を見下して不敵に微笑んでいる光景しか浮かんでこない。


 うわっ、またトラウマが……やっぱり一度、精神鑑定してもらおう。



「クロウ、ボクも聞こえたけど『竜守護教団』ってなぁに~」


 隣に座るディネが長い両耳をピンと立てながら、俺に愛らしい小顔を近づけてくる。

 エルフ族は聴力が抜群だからな。

 これぞ「聞く耳を立てた」ってやつか?


 ……どうでもいいが、ディネの奴、なんか顔近くないか?


「このミルロード王国じゃ、まだそれほど名が知られている集団じゃないから仕方ないか――」



 俺は食事の注文をして、待っている間に知っている内容を説明する。



「……種族達の天敵である『竜』を守る教団って……正気かい、そいつらは?」


「自分達だけ食べられないって確証でもあるのかなぁ?」


 セイラとディネが聞いてくる。


「信者を集めるための方便もあると思うけどな。実際、必死で崇めていた筈のエルダー・ドラゴンに教徒達全員が食い殺されたという実例もある」


「では、兄さん。『竜』を崇めた所で教徒達が安全だっていう確証はないではありませんか?」


「メルフィ、そこも方便さ。『竜』様に身を捧げ、魂を清めて貰ったとか……結局、生きている奴が適当なこと言って組織を盛り上げ拡大させようとする。後は『竜』にかこつけて、今の王族や貴族社会に反発して内乱を目論んでいるのさ。結局やっていることは、ただの過激なテロ行為だ」


「よりによって我らの天敵である『竜』を盾に自分の思惑で民の平和を脅かすとは、許せん! そのような輩とは断固として戦いましょう、クロウ様!」


 アリシアは意気揚々と立ち上がり、拳を握りしめて断言する。


 同時に頼んでいた料理の数々が運ばれ、円卓に乗せられた。


「落ち着けよ、アリシア。俺達は所詮学生だ……いくら特殊スキルがあろうと、種族間同士の争いに首を突っ込むべきじゃない。その『竜守護教団』に関しては、この国から給料を貰っている衛兵隊に任せるべきだろ?」


「そ、そうですね……流石は我が主たるお方、実に冷静で聡明な判断ですな」


 いや、お前が猪突猛進すぎるんだよ。


 とは言うものの――。


 結局は教団の組織力が増長して衛兵隊の手に負えなくなり、冒険者や勇者パーティの討伐対象となる未来が待っているんだがな……。


 俺はそこまで、この国や世界の未来に関与するつもりはない。


 あくまで自分の未来と人生、そしてスローライフだ。


 まずは無事にスキル・カレッジを卒業すること。


 それが最優先だ。


 ……けど。


 卒業しても、彼女達はこうして俺の傍にいてくれるのだろうか?


 今の彼女達なら受け入れても――



「クロウ! 早く食べよ~、ボクお腹空いたよ~!」


 ディネが我慢できず、俺の腕を揺さぶってくる。


「あ、ああ……そうだな。んじゃ、林間実習を無事に終了し、優勝したことを祝して。そして、みんなこうして出会えたことを記念して――乾杯ッ!」


 俺はみんな一人ずつ瞳を合わせながら、グラスを持ち上げて口をつける。

 彼女達も応じて軽く会釈をしてから、グラスに口をつけた。

 ちなみに未成年なのでグラスの中身は水だ。


「みんな、どうか沢山食べてくれ。ここは俺が全部奢るから」


「え? いいのかい、クロウ?」


「ああ、セイラ勿論だ。みんなにはこれからも迷惑を掛けてしまうかもしれないからな」


 特に俺のトラウマに関してな――。


 さっき、アリシアにきつく当たってしまったことを密かに反省している。

 糞未来はどうあれ、この時代のアリシアはこんなに一生懸命で尽くしてくれているのに……俺って奴は。


 これは、せめての詫びだと思った。


「やった~、クロウ! ボク、何を追加しょうかな~?」


「遠慮なく食べてくれよ、ディネ」


「本当、アンタは気前のいい男だねぇ!」


「ありがとう、セイラもじゃんじゃん頼んでくれ」


「わ、私はデザートなど甘い物に目がなくて……宜しいですかな、クロウ様?」


「勿論だよ、アリシア(お前に一番、詫びたい気持ちだからな)」


「兄さん、お財布は大丈夫ですか?」


「大丈夫だよ、メルフィ。俺が中等部から冒険者して小銭稼いでいたこと知っているだろ?」


「ん? クロウ様が冒険者ですと?」


 アリシアが首を傾げる。


「ああ、メルフィと二人でな。一応、12歳からギルド登録できるからな。っと、言っても、Dランクのアルバイト程度だぞ」


「私達のような孤児院出身は中等部に行くと、孤児院から出なければいけないので、そうやって生活資金を得る必要があるのです」


「んで、適正検査で特殊スキルの才能があるってことで援助金が出るようになったんだ。メルフィも丁度、その頃にスキル能力が覚醒したからな。本当は高等部にも入れたんだが、この子の希望で俺と同じ学年で飛び級入りしたってわけだ」


「私はいつでもどこでも兄さんと一緒がいいです……それが私の全てですから」


 メルフィは頬を染め上目遣いで、俺をじっと見つめてくる。

 相変わらず可愛いことを言ってくれる。

 後で頭を撫でてやろう。


「冒険者ギルドか……なるほど」


 アリシアは意味ありげに呟いている。

 何か一人で納得したように頷いていた。



 それから他愛のない談笑をしながら、打ち上げ会は楽しく幕を閉じた。



 会計にて。


「げぇっ!? 金銀貨5枚って嘘だろ!? どんだけ食ってんだよ、あいつら~!」

 ※金銀貨1枚で1万円の価値。この世界だと¥50.000G。


 いくらなんでも、遠慮ってものを知らな過ぎるんじゃね?



 ――すっかり忘れてたぜ。



 セイラとディネって恐ろしいくらい大食漢だったんだ……。


 おまけにアリシアの甘い物好きは異常なレベルだった。



 クソォ……おかげで密かに貯めていた、へそくりが全てパァになってしまった。


 やっぱり、そう簡単にこのトラウマは消えそうにないようだ。



 こうして、俺は再びギルドでアルバイトを余儀なくされた。






───────────────────

【うんちくメモ】

※本編と重複した内容です。


◆竜守護教団『ドレイクウェルフェア』


 世界各地に潜んでいるとされる「竜を守護者」として保護しようとする過激思想を持つ謎の教団。

 竜を「神の使い」とし、「竜狩り」をする者(冒険者)を武力を持って弾圧し断罪にする。

 教徒達はウロボロスの紋章を身に着けており、普段は一般庶民として潜み生活に溶け込んでおり、スキル・カレッジの生徒の振りをして潜入していたり、王族に仕える者もいる。

 中には『使徒(高弟)』と呼ばれる階級を持つ者は、レアリティの高い特殊スキルを持っていると言われている。


「全ての知的種族は竜神様の尊い礎となるべき、我ら竜に仕える者のみが地上に福音と楽園をもたらすであろう」


 つまり竜を崇める自分達だけが生き残って地上を支配するという信仰である。


 中には竜にかこつけたテロ思想や貧困社会や国(王族・貴族社会)に対しての不満を持ち加担する者もおり入団者が後を絶たない。






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