第34話 打ち上げ会と拭えぬトラウマ(前編)




 ――俺がウィルヴァから女子達を奪った?


 つまり寝取りってやつ?


 自分で思っていて凄く滑稽だ……。



 そもそもこの時代じゃ、女子達とウィルヴァはなんの接点もない。

 せいぜい同級生、またクラスメイト、中等部からの友達。

 そんなポジだろ?


 だから、ウィルヴァもパーティ仲間のセイラが俺と仲良く喋っていても、しれっと平和そうにニコニコしているわけだ。


 何せ、こいつは五年後の未来の自分と女子達の関係を知るわけがないんだからな。


 そうは言うものの、あの未来でも実際じゃ男女の関係だったのかもわからない。

 当時はどうでもいいと思って確認したことはなかった。


 ただ俺が雑用係ポイントマンとして作業に没頭している時に限って、みんなでちょくちょくいなくなっていたのは確かだ。

 そして、それを匂わすような話を俺の前で嫌味ったらしく話していたことくらいか……。


 もう今じゃ確認のしようもないし掘り下げるつもりもない。

 するだけトラウマが蘇ってしまうだけだからな。


 せっかく前回の林間実習で心境が変わることができたんだ。


 ――俺は彼女達を仲間とし信頼することができたってこと。


 おかげで、より前向きになれたし、こうして一緒にいることが楽しく思えている。


 後は結局、俺自身の問題なのだと悟った。



 これからの課題は、トラウマを克服して自分自身を変えることだろう。


 いや、必ず変えてみせるぞ!


 そう俺は心に誓いを立てた。



「「ああっ!!!?」」


 アリシアとセイラが、まだ睨み合いを続けている。


「おい、二人共……そろそろやめてくれよ。仲良くしようぜ、なぁ?」


「……我が主、クロウ様がそう仰るのであれば」


「……アタイはいいよ、別に……クロウの言うことだからね」


 未来じゃあり得ない従順さを見せる、アリシアとセイラ。


 そういや、あの未来ではそんなに女子同士が揉めるってことはなかったな……。

 自分らの特殊スキルを知られないよう、どこか一線を引いた関係性だった気がする。


 けど大方、俺を嬲ることでストレスを発散していたんだろうぜ。


 ――いかん!


 早速、トラウマに陥っているじゃん!


 駄目だろ、俺ッ! 今さっき、自分を変えるって誓ったばっかだろ!?


 何、速攻で誓い破ってんの!?



「ねぇ、クロウ」


 ディネが制服の袖を引っ張ってくる。


「どうした?」


「今夜、王都で食事に行こうよ~。約束したっしょ?」


「約束? ああ……野営している時な。勿論、覚えてるぞ。そうだな、まだ打ち上げしてなかったよな……みんなのおかげで優勝したことだし、わかった。行こう」


「やった~! 流石、ボクのクロウ!」


「ん? ディネさん、今どさくさに紛れて何か言いましたね? 言っときますけど、私の兄さんですからね!」


 メルフィが腕にしがみつき威嚇している。

 

 なんだろ?

 また別のトラブルの予感がするぞ……。


「当然、みんなも一緒に行こうぜ! そういう約束だろ?」


「クロウ様……私もご一緒でよろしいですか?」


「勿論だよ、アリシア」


「兄さん、私も?」


「当然だろ、メルフィ」


「…………」


 喜ぶ彼女達を他所に、セイラは羨ましそうに立っている。


 俺は、そんないじらしい拳闘士グラップラーを優しく見据える。


「セイラも来てくれるだろ?」


「アタイも……いいのかい?」


「ああ、勿論。セイラは命の恩人だからな。それに優勝できたのも、セイラが『ドラグジュエル』を取って来てくれたからだろ?」


 ソイルドラゴンの毒に侵された俺を彼女が抱きかかえて洞窟を脱出しなければ、今頃あの世に行っていたかもしれないんだ。


 そう思えば、倒れるまで生命力を与えて回復してくれた、ユエルも誘ってあげたいんだが……。

 ウィルヴァの手前、何だか声がかけにくい。

 俺がそう勝手に思い込んでいるだけかもしれないんだけど……。



「クロウ! アンタって、やっぱりいい男だよ~!」


 突然、セイラが両腕を広げ飛びついてきた。

 そのまま俺の顔に自分の豊満すぎる胸を押し付けて強く抱きしめてくる。


「ぐぅ、苦しい! セイラ、やめ……」


 柔らかくて張りがあって感触は超最高だけど……駄目だ、息ができない。

 ある意味、幸せという名の凶器かもしれないぞ、これ。


 アリシアが「いい加減にせんかぁ!」と怒鳴り、セイラに掴み掛かっている。


「貴様は、またクロウ様になんて破廉恥なことを! わ、私とてそこまで至って……いや違う! 我が主への無礼の数々、もう許さん! 今すぐ決闘だ!」


「ん~、クロウ~♡」


「聞け話を!」


 抱擁に夢中のセイラに、無視されるアリシア。

 

 メルフィが「兄さんを窒息させる気ですか!?」と叫び、ディネも一緒になって止めに入り、俺はようやく解放される。


 色々な意味で空気が美味しかった。

 そう思いながら、幸せの余韻でほんのり頬を染める。


 だけど周囲の視線がやたらと痛い……。






 午後の授業も終わり、夕方頃。


 俺は誘った女子達を連れて王都にある『花々亭』という飲食店に訪れた。


 様々な種族で賑わっているも、シックで女子ウケしそうな造りをした内装である。

 普通の食事は勿論、フルーツやデザートの種類も定評のある店だ。


「流石はクロウ様、よくこのような店をご存じですな?」


 アリシアは物珍しそうに店内を見渡している。

 そういや、この子は伯爵令嬢、つまり貴族のお嬢様だったな。

 今までこういう庶民的な店で食事なんてしかことがないのだろう。


「まぁな、たまたま覚えていただけさ……」


 五年後の未来の記憶でな。


 よく買い出しにパシリ行かされたついでに、王都や他の地区を散策したことがある。


 だから下手な衛兵隊より、国内の地理には詳しい方だと思うぜ。


 んで帰ってくるのが遅いだかの理由で、アリシア達に叱責されケツを蹴られたんだ。


 あれマジで痛かったよな……。


 ――はっ!? またトラウマ蘇ってんじゃん!?


 クソッ……もう駄目じゃねぇか!


 俺にとって糞未来の記憶が有利に働く分、必ずと言っていいほど受けた仕打ちがトラウマとして蘇ってしまう。


 一度、専門神殿で精神鑑定してもらった方がいいか?



 俺はメルフィに頼んで事前に予約させた椅子に座り、女子達に座るよう勧める。

 ちなみに『言語伝達魔法』を駆使すれば予約できる仕組みだ。


「私がクロウ様の隣に座ろう。主の警護は仕える者として当然だからな。妹殿は反対側の隣でよろしいかな?」


「はい、アリシアさん。兄さんの隣ならどちらでも大丈夫です」


「ちょっと待って可笑しくない? 特にアリシアは昼食もずっとクロウの隣だったよね?」


「理由はさっき説明した筈だぞ、ディネ? 何が言いたいのだ?」


「ボクもクロウの隣がいい! ボクだって頑張ったんだからね!」


「それは認めよう。しかし、お主はクロウ様が託された『ドラグジュエル』を紛失したという失態も犯している。ここは、きちんと任務を果たした私と肉親である妹殿がクロウ様の隣に座る権利が発生するのではないか?」


「くっ……それは」


 また妙な理屈をこねるアリシアに、丸め込まれそうになる少しおつむが足りないディネ。

 ちなみに彼女達はメルフィが実は義理の妹であることを知らない。


「じゃあ、アタイが一番その権利だかがあるってことだよな? 何せ『ドラグジュエル』をクロウに渡して優勝に導いたのは、紛れもないこのアタイなんだからさぁ!」


「んぐ……セイラ……貴様は別のパーティだろ!?」


「クロウはそんなの関係なく、アタイを食事に誘ってくれてんだ。ただ仕えているアンタがとやかく言う話じゃない!」


 未来じゃ最も脳筋キャラだった筈のセイラが論破している。


 理屈家のアリシアも流石に何も言えなくなってしまったようだ。

 ブチギレて「決闘だ!」と叫ばなければいいけどな。


 っと、呑気に言っている場合でもないか……。


「座る席なんてどうでもいいだろ? そんなにこだわるなら四人でジャンケンでもしろよ」


「え? 兄さん……私もですか?」


「当然だ。それが公平ってもんだぞ、メルフィ」


 俺はいくら可愛い義妹でもきっぱりと言い切った。


 唯一、こういう場面で糞未来のトラウマが役に立つ。


 あの俺をゴミ虫のような冷めた眼差しで見ていたメルフィの顔を思い出せば、多少は心を痛まずに言い切れるからだ。



 そしてジャンケンをした結果――。



「えへへ。セイラ、あんがと~」


「なぁ、運命の神様はしっかり見てくれているだろ、ディネルース?」


 ディネとセイラが俺を挟んだ左右の椅子に座っている。


 円卓から向かい側に座るアリシアとメルフィは「くぅ~……」と唸り声を上げ、恨めしそうに見つめている。


「そだね。それと、ボクのことはディネって呼んでね~」


「ああ、ディネ。アンタとは気が合いそうだ」


 エルフ娘と半獣娘の間で何かが芽生え始めているようだ。


 俺は溜息を吐きながらメニュー表に目を通す。


 ふと隣の席に座る冒険者風の男女パーティ達の会話が聞こえてきた。


「――今、ミルロード王国内で『竜守護教団』が出没したって噂らしい」


 竜守護教団だと?






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