第31話 イクアリティ・フェイト




「クソッ……俺とした事がしくった!」


 俺は蹲り、右腕の損傷を確認する。


 傷は浅い……だが超ヤバイ。


 ソイルドラゴンの牙は毒性がある。


 ――1分程で神経を奪って10分程で死に至るという猛毒だ。


 だが、完全にキルした筈なのに……どうして?


 そうか、俺は見くびっていたんだ。



 ソイルドラゴンの最後の執念。



 野生化しているとはいえ、奴が『竜』だってことを心のどこかで忘れていたんだ。


 死しても尚、知的種族達を襲う本能。


 あるいは『魂』に刻まれた何者かの指令なのか?



 ――知的種族達を食い殺せ。



「ク、クロウ!? チクショウ、『竜』め!」


「やめろ、セイラ! ソイルドラゴンは既に死んでいる! もう構うな!」


「ああ、クロウ……クロウ! アタイなんか庇って……ごめんよぉ!」


「それは違う! これは俺のミスだ。奴の執念を軽んじた……お、俺の……」


 だ、駄目だ……段々呂律が回らなくなっている。


 このままじゃ毒に侵されて死んじまう……。


「クロウ、アンタの能力で毒を排除できないのかい!?」


「無理……だ。お、俺の《タイム・アクシス時間軸》は……液状である物質の時間は奪えない……」


「クソォォォッ!」


 セイラは力強く俺の身体を抱きかかえる。


「な……何を……する?」


「絶対にアンタを死なせないよ、クロウ! アタイが命を懸けてでもね!」


 セイラは言いながら身体を上下に揺さぶる。


 いや違う――!


 彼女の足場がゴムのように柔らかくなり弾性による反動をつけているんだ。


 セイラの潜在スキル、《ブレイブ・クレイ勇敢な粘土》の能力。

 柔性と剛性の強弱も自在に操ることができる。


 だが俺も上下に揺らされ具合が悪い。

 余計に毒が回るんじゃないか?


 しかし何故か、顔が妙に気持ちいい……。


 そうか……何気にセイラの豊満すぎる両乳が俺の頬に押し付けられて揺れているんだ。


 こんな死にそうな目に合っているのに俺って奴は……実は乳好きだったのか?


「――行くよ!」


 セイラは俺を抱きかかえたまま跳躍した。


 空を切り突き刺すように飛躍し、あっという間に洞窟天井に接近する。


 セイラは片腕を翳し、《ブレイブ・クレイ勇敢な粘土》を発動させた。

 一瞬で天井の岩肌が柔らかくなり、ぽっかりと丸い穴が開けられる。



 セイラと俺はそのまま突き抜け上空へと抜け出した。


 だが俺はもう喋ることはできない。


 毒が全身に回っていることもあるが、セイラの柔らかく張りのある乳が口を塞いでいたからだ。


 セイラは地面に着地し辺りを確認する。


「どうやら夕暮れ前くらいだね……クロウ、大丈夫かい?」


 まだ生きている……だがお前の乳が口だけでなく鼻も塞いでいるから窒息して死ぬかもしれない。


 毒で死ぬよりマシ……いやまだ死にたくない。


「――セイラ!」


 凛とした女子の声が響く。


 この声はまさか……?


「アリシア!? アンタ、どうしてここに!?」


「私の《マグネット・リッター磁極騎士》で地中の探索をしていたのだよ。貴様が装備する鋼鉄手甲ガントレッド鋼鉄足甲ソルレットに反応するように、こうして剣を下に翳してな……他の者達の武器にも『磁力』を与えて、各々に探ってもらっている」


 なるほど、金属を探知するアイテムとしたわけだ。

 相変わらず、アリシアのスキルは汎用性が高い。


「ところで、セイラ……貴様に聞きたいことがある」


「なんだい?」


 アリシアはコホンっと軽く咳払いをする。


「――何故、貴様が我が主、クロウ様を抱擁しているのだぁ!? しかもそんなに胸を押し付けおってぇぇぇ! とっとと離れんかぁぁぁっ!」


 おまっ……気にするところ、そこじゃねぇだろーっ!?

 俺、毒に侵されて、もうじき死ぬかもしれないんですけどぉ!


「んなこと言っている場合か!? クロウが毒に侵されて大変なんだ! 近くにユエルはいないのかい!?」


「なんと!? わかった、すぐに呼ぶから待っていろ!」


 アリシアは速攻でユエルを呼びに行ってくれたようだ。


「クロウ……大丈夫、アタイが必ずアンタを助けてやるからな!」


 セイラは俺の髪を優しく撫でながら優しく言葉を掛けてくれる。


 糞未来じゃ絶対にあり得ない絵面だ。


 しかも、案外母性的な所があるのだろうか?


 だがセイラさん……少しだけでいいから力を緩めてくれると助かる……い、息が……。


 俺は意識を失う。



 ――……。



 ん?


 どれだけ経過したのかわからない。


 しかし生きている実感はある。


 まだ身体が動かない……まだ毒に侵されているのだろうか?


 辛うじてだが瞼を開けることができた。


「――クロックさん。今、体内の毒を浄化いたします。もう少し頑張ってください」


 慈愛が込められた優しい声。

 長い銀髪を靡かせ、乳白の肌に赤色と紫色の大きな異色の瞳オッドアイ


 ユエル・ウェストだ。


 どうやら俺は地面に仰向けで寝そべっており、これから回復ヒーリングを施されるらしい。


 あれから10分以上経っているにも関わらず意外と元気なのは、きっと彼女の潜在スキル能力だろう。


 ユエルは俺の隣にしゃがみ込み小顔を近づけている。


 よく見ると、彼女の背後に巨大な二つの『翼』が浮いていた。

 純白の右翼に漆黒の左翼。艶やかな光沢を発しており金属質にも見える。



 ――《イクアリティ・フェイト公正なる運命》。



 ユエルの潜在スキルであり『具現化型』の能力だ。


 右翼が義手のように変形し、俺の胸元に当てられていた。

 触れた相手に『生命力』を与える効果がある。

 左翼の方は逆に相手の生命力や魔力を奪う『吸収ドレイン』効果を持つ。


 したがって俺は今、ユエルによって辛うじて生かされている状態のようだ。


 おそらく完全に命が尽きる前にスキルを施されたのだろう。


 ってことは、結構ギリギリで際どかったんじゃね?


「親愛なる神フレイラよ。この者に蝕む邪気を払いたまえ――」


 ユエルは俺の額に手を当て、回復魔法ヒーリングを施してくれる。


 俺の全身が淡い光に包まれ、体内の毒がすうっと消失していった。


 みるみる体に力が湧いてくる。


「……ありがとう、ユエル。もう大丈夫みたいだ」


「良かったです、クロックさん……」


 ユエルはニッコっと微笑み、後ろに倒れて行く。

 咄嗟にセイラが背後に回り、彼女を支えた。


 スキル能力の反作用だ。


 ユエルの《イクアリティ・フェイト公正なる運命》は相手に生命力を与える源は、他人から奪った生命力か自分の生命力に限られるらしい。


 心優しい彼女は余程のことがない限り、誰かの生命力を奪ったりはしない。

 だから、もっぱら自分の生命力を分け与えるのだ。


 しかも同時進行で回復魔法ヒーリングを使ったのだから余計に疲れてしまったのだろう。


 まさに、リスキーで公正なるスキル能力である。


「大丈夫か、ユエル……ごめん」


 俺は起き上がり頭を下げる。


「どうか気になさらないでください……とにかく助かって良かった」


 健気に微笑んでくれる、ユエル。

 糞未来で唯一心の拠り所だっただけに、思わずあの時の想いが彷彿してしまう。


「クロウ様! お目覚めになられましたな!?」


「兄さん! 兄さん……良かった無事で……っうぐ、うぇぇぇ……」


 アリシアが駆け寄りホッと胸を撫でおろし、メルフィが俺の胸に飛び込み大泣きする。


 特にメルフィは普段クール系美少女だが、今は見る影もないぐちゃぐちゃの泣き顔だ。


 俺はそんな義妹の黒髪を優しく撫でる。


「みんな心配かけて悪かった……そしてありがとう」


 胸が締め付けられ熱く込み上げてくる。


 心から彼女達に感謝した。






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《特殊スキル紹介》


スキル名:イクアリティ・フェイト公正なる運命


能力者:ユエル・ウェスト


タイプ:具現化系


レアリティ:SR


【能力解説】 

・背後から鋼鉄の大翼をギミックとして浮上させる能力。

・攻撃時は拳撃方に変形して相手を物理的攻撃として叩くことが可能、その射程距離約5メートル。

・右側の白翼に触れることで相手に生命力を与え、死亡時以外の傷や病気を治癒することができる。

・左側の黒翼で触れた相手の生命力や魔力を吸い取り奪い取り、仲間達に与えることが可能。

(但し自分に与えることはできない)

・白翼と黒翼の左右からの同時攻撃は腐敗を与え死に至らしめる効果がある。


【応用技】

・大翼で上空を舞うことができる。但し風のない場所で自在に飛ぶことはできない。


【弱点】

・生命力は過剰に与えると死に至る場合もある。

・奪った生命力を自分に与えることはできない。

・自分の生命力を相手に分け与えることができるが自身へのダメージになる。






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