第30話 ブレイブ・クレイ




 ~セイラside



「あ、ああ……クロック・ロウ……アンタ何を考えて……」


 アタイは言葉を詰まらせる。


 クロックの考えていることが理解できない。


 いや、理屈じゃわかっているんだ。


 合理的だっけ?


 確かにアンタの言う通りだよ。


 アタイなら、ここから脱出する術を持っている。

 仲間だって呼べるさ……。


 でも、それでいいのかい?


 二人で協力して戦うって選択はないのかい?



 わからない。



 わからないよぉ……。


 誰か教えてくれよぉ。


 ウィル……。



 ――おい、あれ半端モノの半獣女だ。


 ――マジだな。にしてもデケェ、男かと思ったわ。



 走馬灯の如く、アタイの脳裏に幼き日の記憶が蘇る。


 アタイの母親は人族の村人であり、父親が白狼系の獣人族だと聞く。

 両親とも『竜』に食われちまったらしいけどね。


 けど父親の知人だった拳闘士グラップラーの師匠がアタイを拾って育ててくれた。


 アタイを鍛え上げてくれたんだ。


 そして中等部、アタイにSR級の潜在スキルがあることが判明し認められエリートコースを歩むことになる。


 しかし、混血であるアタイはそう簡単には周囲には馴染めなかった。

 中途半端と奇異の目で見られ、誰も近づこうとする者はいない。


 ただ一人――ウィルヴァだけは違った。


 唯一、彼だけがアタイを平等に見てくれる。


 あくまでクラスメイトとしてだけどね。


 だけど嬉しかった。だから、彼について行こうと決めたんだ。


 ウィルの支えになって、ウィルのために尽くす。


 ……でも。


 本当にその必要はあるんだろうか?


 ふと思う時がある。


 ウィルはとても優秀だ。

 高度の特殊スキルは勿論、学業や運動に関してなんでも一番にこなせた。


 そして、綺麗な顔立ちに人当たりの良さ。


 当然、周囲からの信頼や信望も厚く仲間も多く異性にだってモテる。


 何度も過ることがある、ウィルはアタイのことどう思っているんだろう?


 本当はアタイが一方的に依存しているだけで、彼にとっては大した気にも留められてないんじゃないか?


 実際に聞いたことはないし、確かめるのも怖い……。


 ――アタイはウィルが必要だ。


 彼の命令や判断があってこそのアタイだと思っていた。


 ウィルヴァが光を照らし、アタイはその光の道筋を辿って、ただ歩けば良かったんだ。


 けど、クロック・ロウ……。


 こいつは、どこかウィルに似ているようで、まるで違う。


 どんなことをしても目的を達成するための強い信念と覚悟。


 偏見を持たず他人を認めて信頼する誠実さがある。


 会って間もないアタイに命を預けようとするなんて……。


 憎まれ口を叩くほど、そんなに悪い奴じゃない。


 寧ろ真っすぐで、自分の『何か』を変えるため必死に足掻いている男。


 なんだろうねぇ……。

 常になんでも出来てしまう奴より、泥臭いそっちの方がカッコ良く思えてしまっている。


 そっちの側の方が、アタイも自分の『何か』を変えられるかもしれない……アンタと一緒にね。



 けど、クロック――今のアンタの判断は間違っている。



 アタイは頭が悪くて何が正しいのかわからない……けど、それだけはわかるんだ。


 誰かが犠牲になるなんて間違っている!


 一番のベストは、アンタとアタイの二人で生還することじゃないのかい!?



「――だから、その命令だけは聞けない! たとえ間違っていようと、アタイが決めてアタイで判断する! そこに一切の後悔はしない!」


 クロックが向かう先に、アタイも後を追う。


「セイラ!? お前、何考えて――」


「何も考えてないよ! その『竜』はアタイとアンタで斃す!」


 アタイは地面に向けて連続の拳撃を放つ。


 周囲は一帯が粘土状と化し、所々の箇所で異様に盛り上がる。

 それは、のっぺりとした凹凸のない人型へと形成された。


「――行け! 《ブレイブ・ドールズ勇敢な人形達》!」


 アタイは指示すると、粘土人形達は一斉にソイルドラゴンに向かって両腕と両足を大きく振って走り出す。


 その数は30体に及んだ。


「なんだ、ありゃぁぁぁっ!!!?」


 クロックは物凄い速さで通り過ぎる人形達を見て驚愕する。


「アタイの《ブレイブ・クレイ勇敢な粘土》の術式だよ。物質を粘土人形に作り変えて操作できるのさ!」


 っと言っても「走れ」「飛べ」程度の単純な動きコマンドだけだ。


 粘土人形達は揃って、ソイルドラゴンに飛びつく。


 大きく開けられた口や鼻穴の中へと潜入した。

 粘土同士が重なり、また違った形へと変化する。


「――そして、スキル解除!」


 途端、粘土人形達が元の岩へと性質に戻る。


 ただし、ソイルドラゴンの口と鼻をぴったりと塞いだ形で――。



 グホッ、グホッ、グホォォォッ!



 最早、口を閉じるどころか呼吸すらままならない。


 これがアタイの狙いだ。


「……凄ぇ。セイラの奴、こんなスキルを隠し持っていたのか? そりゃ、ウィルヴァが重宝して傍に置いていたのも頷ける」


「また奇妙なことを言うね、クロック……アンタ、まさか中等部でアタイ達と会っているのかい?」


「……いや、俺は妹と別の区に住んでいたからな。今のは忘れてくれ」


 本当、時折不思議なことを言う男だねぇ。


 クロックは駆け出し、息が出来ず頭部を激しく揺さぶっているソイルドラゴンの首元に右手に握られたブロード・ソードを突き刺した。



 ブシュ!



「《タイム・アクシス時間軸》で心拍数の速度を奪い――超最速に動かす。無論、心臓自体に影響はない。だが流れる血液や他の臓器は普通に機能している状態だぜ。『竜』とて生物……口や鼻が塞がれ、酸素が体内に取り込めない状態でそんな事になったら果たしてどうなるのか?」


 必要とする酸素を供給できなくなり、やがて死に至る。


 しかも心臓だけが高速に鼓動をして血液が循環している状態なら尚更……。


「――即死キルだ!」


 クロックが宣言した直後、ソイルドラゴンは横転して倒れた。


 ズドンっと巨大な地響きが一帯へと伝わる。


 土竜こと、ソイルドラゴンはうつ伏せ状態で腹部を剥き出したまま動かない。


 どうやら完全に生命活動に終止符を打たれたようだ。



「たった一撃で『竜』を斃しちまうなんて……クロック、アンタのスキルって末恐ろしい能力だね?」


「その『竜』を一瞬で窒息させる、お前のスキルの方が余程驚異だよ……フッ、ハハハッ」


「アハハハハハッ」


 アタイとクロックは笑い合う。


 理由わからないけど、やたら可笑しくなった。


 通じ合った……そんな感じだろうか。


 けど何だろう?


 そう思うと、こう……胸がドキドキする。


 こいつといると凄く楽しい――。


 こんな感覚、生まれて初めてだ。



「なぁ、セイラ……そのぅ、悪かったな。色々好き放題にやっちまって」


「もう、いいよ。アンタの言い分も頭じゃわかってるんだ」


「そうか。だけど……結構、自分で決めれたじゃないか? 俺はお前を信じながらも、その力を見くびってたよ……本当ごめん」


 クロックは素直に頭を下げて見せる。


 アタイの胸が、ぎゅっと絞られる。


 初めて他人に認められた嬉しさ?


 それもあるけど、何か違う。


 よくわからない感情が交差している。


「クロック……アタイは……アンタのこと」


「クロウでいい」


「え?」


「クロウだ。仲良くなった奴にはそう呼ばせている」


「……クロウ」


「なんだ、セイラ?」


「……別になんでもないよ」


 アタイはそれ以上、何も言わず胸の高鳴りを抑えた。


 もう少し、クロウとこの関係を楽しみたいと思ったから……。


 しかし、その直後――!


「セイラ!」


 突如、クロウが叫びアタイの身体を突き飛ばした。



 ザッ!



「ぐぅ!」


 クロウは右腕を押さえる。

 何か鋭利で大きな刃のようなモノが飛び、クロウの腕をかすめたのだ。


 もし、彼が突き飛ばしてなければ、アタイがそれをくらっていたのかもしれない。


 アタイは地面に突き刺さる刃を見て一瞬で背筋が凍ってしまう。


「牙……ソイルドラゴンの?」


 それは猛毒性のある牙だった。






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《特殊スキル紹介》


スキル名:ブレイブ・クレイ勇敢な粘土


能力者:セイラ・シュレイン


タイプ:効果系


レアリティ:SR


【能力解説】 

・触れた物質を粘土状に柔らかくして自在に操ることができる。

・自由に形状を変えることで物理的な防御と攻撃が可能。

・痕跡を辿って擬態模型を創り出し、当時の記憶を再現することができる。

・擬態模型の大きさを自在に変えたり、セイラの意志で動かすこともできる。


【応用技】

・基本、どこまでも柔らかくすることができる。

・柔らかさの程度も自在に操作できるためスライム上の液状にしたり、ゴム状にも変化できる。

・模型擬態を応用することで、兵隊を創り動かすことができる。

・火の魔法を駆使すると粘土が硬くなり強固な壁を作ることができる。


【弱点】

・生物や生命が宿っている者、また液体を粘土化することはできない。

・氷系の魔法に弱い。






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