第27話 竜宝石争奪戦ーディネルースの秘密




~ディネルースside



 ん? 


 アーガの奴……気づけば左腕が回復している?


 そうか、あいつは妖魔族の悪魔デーモン


 他種族より自己再生能力に長けているんだ。

 骨折くらいなら、すぐに回復してしまうのか?


 あいつを倒すには完全に意識を断つしかない。


 しかし、アーガの特殊スキルは厄介だ。


 キルしないで勝つのは難しいかも……。


 どうしたらいい――クロック?



「ディネルース! 貴様がいかに驚異的なレア・スキルを持っていようと、俺は負けない!! 貴様如きエルフ族には絶対に負けん!!!」


 アーガは物凄い剣幕で怒鳴っている。

 安っいプライドが砕かれたってところか。


「お前の事情なんて知らないよ! ここで決着をつけてやる!」


 ボクはアーガに向けて矢を射る。


「舐めるなァ! 《サンド・ダイバー砂の潜水士》ッ!」


 まるで水の中に飛び込むように土の中へと潜り姿をくらませる。


「くらうって言っているでしょ!」


 ボクが宣言した通り、アーガは別の場所で悲鳴を上げ倒れている。

 だが致命傷にならず、すぐに起き上がって回復した。


「バカな! どうして俺の位置がわかる!? 奴の能力はなんなんだ!?」


「アーガ、お前のスキル能力で一つだけ弱点がわかったよ」


 ボクは大木から地面に降り、アーガへと近づく。

 キルしないまま確実に終わらせるため、より正確に急所を射る必要があるからだ。


「俺の弱点だと!?」


「そうだよ。お前はそう長い時間、地中に長く潜っていられない。必ずどこかで息継ぎが必要になるんだ。変化させた砂の中でどうやって目や口や耳に砂が入らないかまではわからないけど、少なくても呼吸だけはどうしょうもないってことでしょ?」


「ぐっ! だとしても何故、俺が息継ぎする位置が正確にわかるんだ!? ディネルース、貴様の能力は一体!?」


(――やったね、ディネ)


「何だ、今の声は!?」


 アーガはきょろきょろと周囲を見渡す。


「まさか、あの子達・ ・ ・の声が聞こえるの? そうか……妖魔族も嘗ては妖精族だったね。光に拒まれ闇堕ちした種族の末裔……だから歴史上、両種族はいがみ合うか……その文化から離れているボクには関係ないけど」


「あの子達だと……? はっ、まさか!?」


 アーガの双眸が紅く光輝を発する。


 どうやら魔法を発動し、ボク達にしか見えない『存在』を見えるようにしたらしい。


「チッ! そういうことか!?」


 どうやらタネ・ ・がバレてしまったようだ。


 そう――。


 ボクは木々や草や土などに宿る精霊達と交信し、敵の位置を教えてもらいながら矢を射っていたんだ。


 ボクのパートナーであり家族同様の存在、『風の精霊シルフ』を介してね。


(ディネ、こいつにワタシ達の存在知られたよ)


(大変だ、大変だ、めちゃこっち見てる)


(怖い怖い、早くやっつけちゃってよ~)


 精霊達がざわついている。

 基本、自分達の存在を見られるのを嫌う子達だからね。



「ディネルース……貴様まさか精霊達と交信できる精霊使いエレメンタラーだったとはな!」


「違うよ。ボクは『森』から追い出されたまま帰ることが認められないエルフ……だからこそ、精霊達を大切にして仲良くなっているだけだよ。いくら系統が同種族でも、ボクをぼっちだと罵っていたお前如きじゃ絶対に気づかないと思ったんだけどね……」


「……くっ、初めて認めよう。ディネルース、お前はぼっちでもないし下等エルフでもない。おそらく弓使いアーチャーとしてトップクラスだろう!」


「今度は何を企んでいるの?」


「だが所詮はエルフ族だ! 勝機を確信した途端油断する、浅はかなエルフなんだよぉ!!!」


 アーガは叫んだ瞬間、また地面へと潜った。


「バカの一つ覚え」


 ボクは軽く罵り、精霊たちの声に耳を澄ませる。


(地面を砂に変えて潜ってるよ)


(ディネの周りをグルグル回っているよ)


(もうじき息継ぎの時間になるよ)


(後ろから顔を出すよ)


 色々な精霊達が手を取り合い連携しながら、ボクに情報を教えてくれる。


 ボクが召喚したわけじゃない。

 元々、そこに宿っている子達だ。


 つまりこの『森』全体がボクの味方でありフィールドになる。


 後方へ振り向き、弓を構える。


「そこだ!」


「正解ッ! だがチェックメイトでもある!」


 アーガは顔を出した瞬間、不敵な笑みを浮かべた。



 ドン――ッ!



 ボクの周囲と足場が陥没する。


 一体がすり鉢の砂と化した。


「これは……まさか『蟻地獄』!?」


「そうだ! 名付けて『デス・アント』! 油断して、わざわざ地面に降りてくれたことを感謝するよ、ディネルース!」


 そうか……それでボクの周辺をグルグルと回っていたのか?


 この『デス・アント』という領域フィールドを作るために――。


 両足が砂に固定され動けない。

 どんどん身体が下がって行く。


 窪みにアーガの姿はない。


 対角側の地面に立ち、流されるボクの姿を嘲笑うかのように見上げている。

 能力の射程上、操作と維持をさせるため、その位置から動かないのか?


「どうだ、身動きが取れないだろ? 手も足も出ないとはこのことだな?」


「手は出るんだけど!」


「出させるわけないだろ!」


 ボクが弓を構えた途端、アーガは腰元の短剣ダガーを抜き投げつけた。


 短剣ダガーは弓に当たり、その勢いで砂の上に落としてしまう。

 吸い込まれるように弓が呑み込まれてしまった。


「あっ!?」


「ギャーハハハハハッ! これでお前は二度と攻撃することができない! 弓がないのにどうやって矢が撃てる!? 勝ったッ!」


 そんな勝ち誇るアーガに向けて、ボクは右腕を翳した。


「――そうでもないんだなぁ、これが」


 言った瞬間、右の掌から複数の矢が射出される。



 バシュ、バシュ、バシュ、バシュ、バシュ、バシュ、バシュ、バシュ、バシュ!



 その数、10本。



「なんだとォォォォォッ!?」


「行けェェェッ! 《ハンドレット・アロー百式の矢》ォォォッ!!!」


 分裂と増殖を繰り返し合計、1000本の矢がアーガに向けて射出される。



 ドドドドドドドドドドドドドドドドドド……――



 雪崩の如く途方もない連撃がアーガを襲う。


 その勢いは悲鳴を上げることさえ許されないほど、アーガの身体に叩きつけられ遠くへと吹き飛ばしていった。



「――弓が必要なのは遠くにいる相手への攻撃や狙いを定める時だよ。イメージ操作しやすいようにね……直線だけの近距離なら、右手だけで十分なんだ」


 スキルの矢を射つのに弓が必要という固定概念を持ったことが間違いだろう。


 結局、最後までボクを甘く見たことがアーガの敗因だ。


(やったよ、ディネ! あの悪魔族デーモンを倒したよ!)


(まだ生きてるよ……辛うじてだけど。けどもう自己再生できないよ、できないよ)


(トドメ刺す? トドメ刺す?)


(二度と、ディネをイジメないようにやっちゃえ、やっちゃえ!)


 精霊達が状況を教えながら煽り立てる。


「ありがとう、みんな……でも、いたずらにキルしちゃだめだよ。いくら嫌な奴でもね……クロウ・ ・ ・だって、きっと望まないだろうし」


 アーガの能力が解除され、ボクは地面からすっぽりと両足を外す。


 すり鉢状で歪だが、一応は元の地面に戻っている。


 でも弓は地面に埋まってしまったままだ。

 取り出すのは難しいか……。


 ん? あれ? 待てよ?


 ボクは自分の胸や臀部のあちこちを触る。


 胸部は相変わらずのぺったんこ。

 じゃないや、アレがないんだよぉ!


「――ない! 『ドラグジュエル』がないよぉぉぉっ!?」


(さっき、悪魔族デーモン短剣ダガー攻撃で、弓と一緒に地面に落としてしまったんだよ)


「なんだってェェェッ!?」


 じゃあ、弓と同じで取り出せないじゃん!


(嫌われる? クロックだっけ? あの彼氏に嫌われる?)


(好きなんでしょ? ねぇ、ディネは彼のことが大好きなんでしょ?)


「ち、違うよ! そんなことより、みんなでどこに落ちたか探してよぉぉぉっ!」


 ボクは赤面しながら、精霊達と共に『ドラグジュエル』を探すのであった。


 ご、ごめんね、クロウ!







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《特殊スキル紹介》


スキル名:ハンドレット・アロー百式の矢


能力者:ディネルース・エルベレス


タイプ:放射型


レアリティ:SR


【能力解説】 

・スキル能力で構成された『矢』で狙った場所を正確に射貫く能力。

・一発撃つことで100本まで矢を増やすことができる。

・直線だけじゃなく軌道方向を自在に操作することが可能。

・目標さえ定まっていれば遮蔽物を通り抜け攻撃することができる。

・矢の威力を調節でき、サイズも大小と変えることができる。

・弓がなくても直線状なら掌から直接矢を放つことができる。


【応用技】

・本来は肉眼で見える範囲の射程距離だが、『精霊達』を行使して遠く離れた相手や隠れた相手を索敵して打つことができる。

・他者のスキル能力効果を上乗せして打つことができる。


【弱点】

・一度放ってしまった矢のキャンセルはできない。

・一度に射出できるのは10本まであり、再装填リロードするのに矢一本につき約60秒の待機時間が必要となる。






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