第26話 竜宝石争奪戦ーハンドレット・アロー




~ディネルースside



 ボクは木々を伝って森の中を駆け抜ける。


 クロックから預かった、この『ドラグジュエル』を先生達がいる待機場所へ持っていくためだ。


 所々で耳を澄ませるも、誰かが追ってきている音は聞こえない。


 けど確実に迫って来る気配を感じる。


 間違いなく、クラスメイトのアーガ。

 そして他の五人だろう。



 林間実習の初日。


 ボクは遠くでチラッとだけアーガが組んだパーティを眺めた。

 いつもボクに嫌がらせをしてくるBクラスの連中だけで編成されていたことに気付く。


 Bクラスの大半は、遠距離の攻撃や隠密行動を得意とする生徒達で位置づけられている。


 ボクのような『弓使いアーチャー』、また『暗殺者アサシン』や『盗賊シーフ』などは、正面から戦うのではなく敵の死角や視界外から攻撃をするのを得意とする者達が大半だ。


 同時に特殊スキルも、それに応じた能力が多い。


 アーガが意図的にBクラスのメンバーだけ組んだということは、最初から他所のパーティからポイントの高い魔物モンスターの『証』を奪うのが目的だったことが窺える。


 ――つまり最もポイントの高い、この『ドラグジュエル』だ。


 ボクは次の木に飛び移ろうとした瞬間、ピタッと足を止める。

 弓を構え、目の前の大木に向けて『スキルの矢』を射った。



「ぎゃぁぁぁっ!」


 悲鳴と共に大木から人族の男がフッと姿を見せ、大きな枝にうつ伏せで倒れ込む。


 ボクはその枝に飛び移り、そいつを確認する。


 アーガとパーティを組んでいるBクラスの生徒だ。

 いつもボクをバカにしてイジメている奴の一人。


「……隠蔽色カモフラージュのスキル。周囲に溶け込むよう身体の色を変えられるんだね? レアリティアンコモンってところかな?」


「ク、クソッ! ディネルースの分際で、どうしてわかったんだ!?」


「教えないよ。一つだけ言えることは、ボクを甘く見すぎたのが敗因だね。出力は弱めてあげたけど骨くらい折れているでしょ? このまま下に突き落としてもいいんだけど……」


「やめてくれ! この高さから落ちたら死んじまうだろ!? わ、悪かったよ! もうイジメたりしないからぁ!」


 ……情けない奴。


 立場が不利になった途端このザマだ。


「……これは殺し合いじゃない。そこまでしないよ、けどこれまでの件も含めて、しばらく気を失ってもらうから」


 ボクは言いながら弓で男の後頭部を殴りつけ気を失わせる。


「残り、五人……先回りされているってことは、既に包囲されている可能性があるね……やれやれ、面倒だ」


 深く溜息を吐き、ボクは上空に向けて弓を構える。


 右手から『矢』が出現した。


「大体の位置はもうわかっている――《ハンドレット・アロー百式の矢》!」



 シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ――!



 ボクは連続して5本の矢を連射した。


途中、矢はそれぞれ100本に増え、計500本の矢が上空から雨注うちゅうする。



 それは――猛烈な豪雨の如く。



「うぐわぁ!」


「何だとォォォッ!?」


「バカなァァァッ!」


「た、助けてェェェッ!」


 耳を澄まし、各所から聞こえてくる悲鳴を確認した。


 あまりにも滑稽な言葉の数々に思わず笑みを零してしまう。


「――ビンゴ! どうやら四人は仕留めたようだね。残りは……」


 その瞬間。



 ズン!



 ボクのいる大木が激しく触れた。


「こ、これは!?」


 まさかと思い地面を立仕掛けると大木に地面へと沈んでいる。


 大木を支える太い根が剥き出しになり、その周囲の地面が『砂』のように脆く崩れていたのだ。


「ディネルース! 貴様ァ、よくも仲間達を!!!」


 悪魔族デーモンのアーガだ。


 奴が大木の周囲の土を『砂』に変えて地中へと沈めているのだ。


 確か《サンド・ダイバー砂の潜水士》っという潜在スキルだとか。


 きっと自分の周囲にある地面を砂に変換させ、そこへ潜って移動したり、相手を引きずり落としたり出来る能力だと思う。


 クロックとセイラを地中に落とそうとした時、その手を掴んだユエルや傍にいたボク達が巻き込まれなかった所を考えると、スキル効果の射程距離は奴の身体から直径5メートルくらいか?


 しかし、砂の中とはいえ、よく目とか口に砂が入らないものだ。

 おまけにどうやって地中から相手の位置を探っているのだろう?


「どうでもいいや、そんなの!」


 ボクは考えるのを止め、大木が沈む前に次の木に移つろうと素早く跳んだ。


「させるかぁ!」


 アーガは僕が飛び移ろうとする大木に目掛けて地面を砂に変えながら泳ぎ、再び沈ませようと能力を発動させる。


 クソッ! こいつ、どこまでも追跡する気だ!

 やっぱり、ここで決着を着けるしかない!



 ボクは地面に向けて弓を構えた。


「くらぇ!」


 スキルの矢を射った。


「くらわんよぉ!」


 アーガは地面に潜り高速で移動する。

 どこかの物陰に身を隠したようだ。


 が、しかし――


「くらうんだなぁ……これが」


「ぐわぁぁぁっ!」


 ボクが呟いた瞬間、同時にアーガの悲鳴が聞こえた。


 木の物陰から、アーガが左腕を押えて出てくる。

 さっき射った場所とまるで真逆の位置からだ。


「バカな……矢が曲がっただと!? それにどうして身を隠した遮蔽物から出現するんだ!?」


「ボクの《ハンドレット・アロー百式の矢》は放射型のスキルだからね。実際に具現していないから自在に本数を増やせるし、位置がわかれば途中で曲げることもできる。勿論、遮蔽物だってすり抜けて攻撃できるよ!」


「ク、クソォ! だがどうして俺の位置がわかった! 地上に這い上がるタイミングまで……それも貴様の能力なのか!?」


「……秘密だよ。お前なんかに教えるわけないじゃん……その腕、折れているよね? ねぇ、痛い? 少しはやられる側の気持ち、わかった?」


「き、貴様……ひょっとして、わざと直撃を外したのか!? 俺をなぶるために!?」


「まさか……そこまで悪趣味じゃないよ。ボクはクロックとの約束を守りたいだけ。このまま退いてくれるなら何もしないよ」


「ディネルースの分際でふざけるな! 俺はお前には負けない! エルフ族のお前にだけは負けなてたまるか!」


 随分と憎まれているようだ。


 こいつがクロックに言った台詞も、遠くに離れていたボクはしっかりと聞いている。

 さも、ボクが気高く傲慢なエルフだって言わんばかりだった。


 何もしらない癖に……。


 ボクは貴族クラスのハイエルフなんかじゃない。


 ごく普通のエルフ族だ。


 けど、SR級の潜在スキルはある。


 だから他種族間では上に見られがちだけど、実際は森に住んだこともない半端者のエルフだ。

 長き歴史の中、『竜』に住むべき森を奪われたエルフ族だったが、知的種族達と手を組むことで一部の奪還に成功をしている。


 だが、再び住むことができるのは、王族やハイエルフといった一部の貴族級だけ。

 ボクのような庶民エルフは人族達が造った街での文化しか知らない。


 同族から除け者にされ、学院からも除け者にされる。


 だからいくらレアスキルを持っていようと、ボクの居場所なんてどこにもないと思って塞ぎ込んでいた。


 でも、クロック・ロウがボクを見つけて手を差し伸べてくれたんだ。


 彼の手を取り、ボクは今ここにいる。


 もう挫けない。塞ぎ込んだりしない。


 ――ボクにはクロックがいる。


 彼がボクを信じて、この『ドラグジュエル』を託してくれたように、ボクもクロックを信じる。


 だから、クロック……。


 ボクもキミのこと『クロウ』って呼んでいい?






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