第25話 我が主の捜索




~アリシアside



 あの後――。


 ウィルヴァと剣を交えようとした瞬間だった。


「ゴホォォォッ!」


 それぞれの後方から、大型猿の魔獣である『モノス』が木々から飛び出して襲い掛かってきた。


 モノスは全身に黒っぽい毛並みに覆われた巨大猿で両角が生えていることから『鬼猿』と呼ばれている。

 巨体の割には非常に俊敏であり豪快な力を発揮する厄介な魔物モンスターである。


 通常は一頭でも熟練パーティでなければ対応が困難なのかもしれない。


「――アリシアさん。一端、勝負を預けるよ!」


「心得た!」


 私とウィルヴァはすれ違い、それぞれ後方から襲ってきた『モノス』に斬撃を与える。


 モノスは咆哮上げる。


 だが怯まず反撃に転じようと、私に掴み掛かってくるが――。



 ドゴォッ!



 先程、磁力を施した大岩が、モノスの後頭部に直撃する。

 巨大猿は何をされたのかわからず、大口を開けたまま動きを止める。


「我がスキル《マグネット・リッター磁極の騎士》。貴様はもう完成されている」


 そう言いつつ首元を目掛けて剣を薙ぎ払った。



 ソバァァァン!



 モノスの首は切り離され、上空へと飛んだ。


 私が得意とするスキル剣技である。


 斬撃を与えると同時に、切り傷に『同極の磁力』効果を施す。

 そうすることで強い力で引き離し、より深いダメージを与えることができるのだ。


 モノスの首は何処へ飛んで行ったのかわからない。


 胴体だけが虚しく立ち竦んでおり、鮮血を吹き出し地面に倒れた。


 私は長剣の構えを解かず、もう一頭いる筈のモノス確認をする。



 もう事が終えていたようだ――。


 モノスの胴体は光熱で溶かされたような大きな空洞が開けられたまま仰向けで倒れる。


 その目の前には、ウィルヴァが立っていた。

 ほんのりと全身が光っているようにも見える。


「流石、早いな……」


「いえ、キミの方こそ」


 ウィルヴァはニッコリと笑みを零し、手にしているクレイモアを鞘に収めた。


 こやつ……油断しているのか?


 貴様に施した《マグネット・リッター磁極の騎士》の効果は生きているのだぞ。


 それに、ウィルヴァの潜在スキル《ゴールド・フラッシュ黄金の閃光》は一度発動させたら、一分間は使用できない筈……。


 ――今なら、こやつを倒せる。


 しかし。


 私もバスタード・ソードを鞘に収める。


「……アリシアさん。もう僕に攻撃を仕掛けないのかい?」


「仮にもクラスメイト同士……潰し合いは望まぬ。それに、これだけ時間を稼げば、クロウ様のご命令を果たしたようなものだろう」


「本当に一途だね……そこまで想われるクロック君が羨ましい」


「…………黙れ」


 私は顔の火照りを誤魔化しそっぽを向く。


「これから私はクロウ様の所へ向かう。ウィルヴァ、貴様も来るか?」


「ああ、勿論だよ。それと、僕のことはウィルでいいよ」


「断る。私が愛称で呼ぶのはあくまで信頼できる間柄だけだ。貴様は善良だが、どうも食えない所がある」


「僕がかい?」


「そうだ。さっきも、私が攻撃してくるかもしれないのに、真っ先に剣を収めたろ? 自分のスキルが使えない状態に関わらずにだ……貴様程の聡明な男、きっと何か奥の手があると見ていいだろう」


「……まさか。アリシアさんが丸腰の相手を斬るような卑怯な女子じゃないって確信していたからだよ」


 爽やかな笑みを浮かべて、よくもまぁ喋る男だ。


 クロウ様が最も警戒する相手でなければ危うく騙される所だな。


 ――得体の知れない男。


 私は出会った時から、ウィルヴァ・ウェストに向けて頂いていた感情だ。


 それが良い意味か悪い意味かわからない。

 ただセイラのように気を許すには早いと思い距離を置いていた。


 クロウ様と出会いお仕えするようになって、その判断が正しいと確信する。


 今後もこやつには警戒をしてくべきだな。


 とりあえず、私とウィルヴァは先を進むことにした。





 そして間もなく現地に辿り着いた時、事態は思わぬ方向へ進んでいたことを知る。


「――クロウ様がセイラと共に地中に潜ってしまっただと!?」


 妹殿であるメルフィから説明を受け、私は声を荒げた。


「どうしよう、アリシアさん……兄さんに、兄さんにもしものことがあったら……万が一のことがあったら……私、私は」


 メルフィは酷く動揺して、私にしがみついて来る。


「落ち着け、妹殿! みんなで何か対策を考えよう、なっ!?」


「――もう何をするかわかりません。学院ごと消しちゃうかも」


「え?」


 私が聞き返した瞬間、メルフィの背後に立っていたぬいぐるみのような『骸骨戦士』こと『スパル』が、カタカタと小刻みに震えているのが視界に入った。


 ……心なしか一回り大きくなっているような気がする。


 さらに、メルフィの漆黒に包まれたような虚ろな表情……。


 一瞬、背筋がゾッとした――。


 まるで触れてはいけない部分に触れてしまったような戦慄、あるいは踏み込んではいけない禁断の領域に片足を乗せしまった恐慌。


 こやつから発せられるプレッシャー……一体何なのだ?


 下手をすれば本当に学院ごと消してしまいそうだ。


 きっとメルフィにとって兄上であるクロウ様がそれくらい愛しく大切な存在なのだろう。


 ――しかし、それは私とて同様だ。


 私はメルフィの両肩を強く掴む。


「心配するな! 私が必ずクロウ様を連れ戻す! 連れ戻して見せるぞ!」


「アリシアさん……はい、私も兄さんのために頑張ります!」


 メルフィは真っすぐ私を見つめ頷く。

 同時に彼女からスッと黒い闇が消失したように感じた。


「……セイラが一緒だったのは、クロック君にとってラッキーだったのかもしれないね」


 ウィルヴァが何食わぬ顔で言ってくる。


「貴様、何故そう言える?」


「地面や地中といった類は、セイラの特殊スキルにとっても相性がいいからだよ。それに獣人族の血を引く彼女なら五感を研ぎ澄ませて脱出ルートを導き出せるかもしれない」


「……かもしれない、か……随分と濁した言い方だが何か不安要素もあるのか?」


「まぁね。僕は中等部からセイラと一緒だったけど、彼女は優柔不断というか……決断力に欠ける部分があるんだ。ああ見えて繊細で傷つきやすい性格だからね。いつも僕が判断し導いていたんだよ」


「それなら心配ない。我が主、クロウ様がおられる。あの方の判断力と決断力は貴様とて身に染み入っている筈だ」


「……そうだね。まるで、ずっと僕達を見て来たような動きをする」


 ウィルヴァは深く溜息を吐き頷く。


 双子の妹であるユエルは尊敬して慕う兄に寄り添っていた。

 そんな彼女の銀色の髪を撫でながら、ウィルヴァは話を続ける。


「……あと、そちらのお仲間であるエルフさん、名前は確か……」


「ディネルースか? 話は聞いている。『ドラグジュエル』を持って教師達が待機している場所へ向かっているとな。あやつはあやつで、クロウ様の命令で動いているわけだし、不在なのは仕方のないことだ」


「そうだね。問題は同じBクラスのアーガという悪魔族デーモンの特殊スキル。周囲を『砂』に変えて潜るように移動できるようで、些か厄介なようだね。きっとどこかで仲間も潜んでいる可能性が高いね」


「それは、やむを得ないこと。その件に関してはディネルースに任せるしかない。私達は互いの仲間を救出するため、知恵を出し合わなければならぬ」


「その通りだね、アリシアさん。しかし、やっぱり貴方は凄い人だ……」


 こいつ、私に何が言いたいんだ?


 奥歯に物を挟まった言い方ばかりしおって……。


 嫌味っぽくはないが、どこか不快感を覚える。


 まぁいい。


 今はクロウ様の安否と捜索を優先させねば――。






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