第20話 並び立つ英傑達
ウィルヴァ・ウェストは謎の部分が多い。
勿論、双子の妹であるユエル・ウェストも同様である。
――まず出生が曖昧だった。
一応、領土内にある辺境の村に住む老夫婦の間に生まれた双子であると聞く。
だが間もなくして、両親が亡くなり二人はしばらく孤児院で過ごしたらしい。
幼い頃から兄妹とも『特殊スキル』に覚醒しており、それがきっかけでこの国の懐刀である公爵家の養子として迎え入れられ「ウェスト」という姓を与えられた。
その後もエリートとして当然のように、中等部からこの学院に至るまでカースト上位として確固たるトップ地位を歩んでいる。
俺の知る糞未来でも決して躓くことなく、常にエリートとして出世し、国王から『
まるで、おとぎ話……神に愛されたような順風満帆の人生。
俺にはそう思えて仕方ない。
したがって、アリシアが得体の知れないっていう表現も頷ける。
躓き知らずの優秀すぎるが故、余計に違和感を覚えてしまうからだ。
まぁ、本人なりに他人に見えない努力もしているんだろうけどな。
妹のユエルも、いつも兄であるウィルヴァの影に隠れているが、神官職を目指している相当優秀な子でもある。
おまけに性格も抜群に良く何より清楚で可愛らしく綺麗で優しい……。
あの頃、荒んだ俺にとって唯一の癒しでありオアシスのような子だったんだ。
そう思って二人で話し込んでいると、決まってアリシア達が嫌がらせに来やがったけな。
無能者の分際で女にうつつを抜かす暇があるのかってな……。
いかん、またトラウマが……。
俺は頭を横に振るう。
「とにかく、ウィルヴァ達よりも早く『竜』を討ち取る! 必ず俺達が優勝するぞ、いいな!」
「うむ、流石は我が主、クロウ様! その勝負に懸ける熱意、実に感服いたしますぞ!」
「兄さんのために頑張ります!」
「勝って連中の鼻を明かしてやろうよ~!」
アリシア、メルフィ、ディネの三人が俺と同調してくれる。
人数こそ少ないが、事実上の史上最強メンバーだ。
――負ける筈がない。
向こうはウィルヴァにセイラ、それにユエル。
後、二人くらいいるようだが数合わせって所だろうぜ。
「よし、作戦行動に移るぞ!」
俺の指示で、各々が打合せ通りに動く。
見てろよ、ウィルヴァ。
**********
木々が並ぶ岩道。
ウィルヴァ達が目的地へと近づいて来る。
彼を先頭に駆け足に近い足取りだ。
――好都合。
身を潜める
「セイラ、この岩道を抜けた所にある洞窟に、陸竜がいるのかい?」
「間違いないよ、ウィル。アタイのスキルでもそう記憶されている」
「ああ、わかった信じてるよ」
ウィルヴァは振り向き、優しく微笑む。
セイラは頬を赤らませ、そっぽを向く。
……なるほど『あの方』が、おっしゃった通り隙だらけだぞ。
そう思った瞬間、セイラが何かに気付く。
「――ウィル、前方に人族の匂いがする! 誰か潜んでいるよ!」
今頃気づいたか。
だが、もう遅い――既に射程距離だ!
ガンッ!
「ぐふっ!?」
先頭を歩く、ウィルヴァの左右を巨大な岩が飛び挟んだ。
あの衝撃……どっかの骨が折れたかもしれぬな。
「ウィル!?」
セイラが近づき岩を引き剥がそうとするも、一向に離れることはない。
完全にくっついた状態。
まさに『磁力』が引き合わせたかのように――。
身を潜ませていた大木から、
「お、お前は、アリシア!?」
セイラが驚愕し私の名を叫ぶ。
「我が名は、アリシア・フェアテール! 我が主、クロック・ロウ様の命により、ウィルヴァ・ウェスト! ここで其方を足止めさせてもらうぞ!」
~アリシアside
「クソッ! これはお前のスキル能力か!? とっととウィルを解放しろ!」
「断る。我が主の命令は絶対だ。どうしても解除したければ、私と一戦を交えるしかないぞ、セイラ・シュレイン?」
「貴様ァァァッ!」
私の挑発にセイラは整った顔立ちを崩し、物凄い形相で睨んでくる。
思った通り、全てクロウ様の作戦だ――。
私が、こ奴らを足止めしている内に、クロウ様達が陸竜を討伐すること。
本当なら、あの方のお傍にいたかったのだが、栄光ある勝利のため致し方ない。
それに――このセイラという
半獣族だけあり、身体能力や五感は人族を凌駕しているにも関わらず、直情型であり精神的にムラがあるらしい。
ちょっとしたことで、すぐに取り乱してしましまい折角の能力が減少してしまうようだ。
現にぎりきりまで私が隠れているのにも気づかなかったからな。
(――きっとあの女、ウィルヴァにデレデレで気づくのが遅れる筈だぜ)
まさにクロウ様の仰る通りだ。
にしても、まるで未来を見据えたような判断力。
実に見事な戦略と言えよう。
セイラは戦闘態勢を取り、私に向かって来ようと向かって来る。
私はバスタード・ソードの柄を握り、いつでも抜く体勢を取る。
「――待て、セイラ……これは罠だ」
大きな岩の間に挟まれているウィルヴァが腕を伸ばし、弱々しい声で呼び止める。
「ウィル!?」
「……きっと、クロック君は自分達だけで『陸竜』を斃す気なのだろう……アリシアさんは囮であり足止め役だ」
「クソッ、卑怯者め! あのEクラスのクズが!」
「クズ……?」
主への侮蔑する言葉に、私は眉をピクッと痙攣させる。
「……セイラ、僕のことはいい。みんなと洞窟へ行くんだ……頼む」
「ウィル……わかったよ。ユエル、みんな行くよ!」
セイラの言葉に、ユエルと他の二名が頷く。
「……ありがとう。後、ユエル……僕の傷の回復を頼む」
「わかったわ、お兄様」
ユエルは手を掴み、ウィルヴァに回復魔法を施している。
岩を破壊する指示をしないのは正解だな。
その衝撃で、奴のダメージは益々悪化するだけだし、譬え粉々になったとしても私の能力が解除されるわけではないからだ。
全て見越しての状況判断と指示。
ウィルヴァ・ウェストか……大した男だ。
クロウ様が固執するのも頷ける。
ユエルは回復を終えると、セイラと共に駆け出して前へと進んで行く。
私はそれを黙認し、彼女らは通り過ぎるのを待つ。
「アリシア、いつかアンタと決着をつけてやるからな!」
「上等だ。こちらも我が主への暴言、決して忘れぬぞ!」
互いに睨みを利かせながら、セイラ達は通り過ぎて行く。
完全に気配が消えた所で、私は岩へと近づいた。
「――行かせて良かったのかい、アリシアさん?」
岩の中で、ウィルヴァは先程と打って変わり平然とした口調で言ってくる。
どうやら完全に傷は回復したようだな。
「……クロウ様から、其方のスキルは聞いている。あと妹殿であるユエルもな……セイラの能力はわからぬが、とても一度に相手をできる範疇ではない……そう言われている」
「だから僕だけを足止めか? クロック・ロウ……彼は中々抜け目ない男だね。しかし、どうして僕とユエルのスキル能力を彼が知っているんだ?」
「そこまでは聞いてない……其方ら兄妹が有名だからだろ?」
「……まぁ、いい。どの道……――」
ウィルヴァの言葉は途切れた。
私は瞬時に背後を振り返る。
――ウィルヴァが立っていた。
鎧を脱ぎ去り、布服のみの状態だ。
その手には身の丈ほどの大剣クレイモアが握られている。
クッ……いつの間に背後に?
私は能力を解除する。
二つの岩が離れ左右へと倒れた。
丁度、真ん中辺りに圧し潰されてぺしゃんこになった鋼の鎧がある。
「……磁力を操る能力。効果型のスキルかな?」
「左様……《
私はバスタード・ソードを抜き構える。
「アリシアさん、少しお話ししませんか? 僕はキミと戦いたくない」
「その手は食わんぞ。其方、いや貴様の潜在スキル《
「やれやれ、そこまで知られているのか……本当にクロック君は何者なんだ?」
「我が大切な主だ――行くぞ!」
私は駆け出し、ウィルヴァに胸元に一撃を与える。
「ぐっ!」
ウィルヴァの身体は吹き飛び倒れ込む。
「……何故、防御しない? いくら刃に
流石に同級生同士、真剣で斬り合うことは許されていない。
但し、互いに競い合うための戦いは認められている。
これも『竜狩り』ができる強い戦士、あるいは冒険者を育てるための授業であり訓練の一環なのだ。
ウィルヴァは起き上がり、胸元を押えながらゆっくりと立ち上がった。
「今の一撃でキミは今僕にスキル能力を与えただろ? これで僕からの反撃は容易ではなくなった筈だ……違うかい?」
「言っている意味がわからんな……」
「僕はキミと戦う気はない。寧ろキミに興味を抱いている……だから話やすい状況を作ったまでさ」
この男……一体、何を企んでいる?
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《特殊スキル紹介》
スキル名:
能力者:ウィルヴァ・ウェスト
タイプ:強化系
レアリティ:SR
【能力解説】
・自らの体と身にまとっている物を10秒間だけ『光』に変える事ができる。
・移動速度は
(特殊スキル効果なので物理の法則に影響されない)
・身体が光となった場合、接触すれば凄まじい光熱により爆発するか溶解して黒焦げとなる。
【応用技】
・自分が所持する物体にも効果を与えられ、投げた剣やナイフなど
・『光』の状態になると筋力も飛躍的に向上する。
【弱点』
・10秒間の能力発動で、約一分弱の冷却時間が必要のため連続使用ができない。
・その気になれば光速まで加速することができるが制御ができなくなる。
(意識を失い完全に光の存在となって消滅してしまう)
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