第19話 陸竜の探索




 陸竜ことアース・ドラゴンを狩るため、俺達は地図通りの洞窟を目指す。



 歩いて行くと、次第に当時の記憶が蘇ってくる。


 なんとなく道程がわかってきた。


 だが念には念を入れる――。


「アリシア、方向は間違ってないか?」


「問題ございませぬ、クロウ様。地図通りの方向を進んでおります」


 アリシアはペンを人差し指の先に乗せ器用にバランスを保たせながら歩いている。

 彼女の動きに合わせて、ペンはクルクルと回転していた。


 潜在スキル《マグネティック・リッター磁極騎士》の能力で方位磁針の役割を果たしているのだ。


 ただ強力なレアスキルだけじゃなく、汎用性の高い能力である。


「ディネは耳を澄ませ、周囲に警戒してくれ、また不意に魔物モンスターが襲ってくるかもしれない」


「わかったよ」


「あのぅ、兄さん……」


「どうしたメルフィ?」


「そろそろ、スパルちゃん出してもいいですか?」


 上目遣いでねだるように言ってくる。


「……戦闘中、悪戯に参加しなければいい。そこだけは本当に気を付けてくれよ……マジで」


「はぁい!」


 俺の返答に、メルフィは嬉しそうに微笑みを浮かべる。


 彼女が所持している肩下げの鞄から、ひょいと人影らしき物体が覗かせた。


「うわっ、何それ!?」


 ディネが驚き声を上げる。


 アリシアは片手を剣の柄に手を添え警戒した。


 初めて見た者なら、こういう反応を見せても仕方ない。


「皆さん、驚かないでください……この子は私が生成した『竜牙兵スパルトイ』のスパルちゃんです」


 竜牙兵こと別名『ドラゴン・トゥース・ウォーリアー』は、その名の通り『竜の牙』から魔法で生成された『骸骨戦士』であり『守護衛兵ガーディアン』である。


 通常の竜牙兵も並みの戦士より相当手強いが、このスパルは別格だ。


 何せ、メルフィが自分の特殊スキルで生成した竜牙兵だからな……。


 そのスパルはひょいと鞄から降りて姿を見せる。


 一見して赤ちゃんやぬいぐるみ並みの大きさ。

 三頭身くらいの全体像で、ルックスはもろ骸骨だが丸みを帯びており、愛嬌のある雰囲気。

 頭部と体に甲羅のような鎧を着装しているが、どう見ても害はあるように見えない。


「かわいい~」


 ディネは両頬に手を当て、まるで小動物を見るかのようにほっこりと癒されている。


「失礼……どうやら無害のようだな」


 アリシアは剣の柄から手を離し警戒を解く。

 どうやら女子達からは好印象のようだ。


 しかし、こいつの見た目に騙されちゃいけない――。


 俺はこの糞骸骨の恐ろしさを何より熟知している。


 凶暴っていうよりも禁断の兵器と呼ぶべきか。



 ――触れざる者。



 俺はこいつをそう思っている。


 そのスパルは女子達にペコリと頭を下げて愛嬌を振りまく一方で、俺に向けて無視して横柄な態度を見せる。


 この糞骸骨め……だからムカつくんだ。

 きっと、主であるメルフィが俺を溺愛するもんだから嫉妬しているのだろう。


 何せ、スパルはメルフィを守るためだけに生成された存在だからな。


 そのためだけの守護衛兵ガーディアン

 

 ――いざとなったら、周囲なんておかまいなしだ。



「スパルちゃん、おいで」


 メルフィが両手を広げると、スパルはぴょんと飛び跳ね抱きつき、ぬいぐるみのように大人しくなった。


「……先を進むぞ」


 俺は関わっている暇はないと歩き出した。



 それから進む度に、魔物モンスターが出現し、俺達に襲い掛かってくる。


 魔獣系、植物系、昆虫系など。



 俺はパーティ達を指揮し互いに連携しながら倒していく。


 特殊スキル能力を使わず、アリシアは華麗な剣技で斬り倒し、ディネは弓矢で援護する。


 メルフィが魔法で仲間の攻撃力と防御力を向上させ支援に徹した。


 流石、みんな初めての実戦にも関わらず才能に溢れた面々だ。


 彼女達の経験不足の部分を未来の知識と経験を持つ俺が的確に指示することで補っているのだ。


 そんな俺はというと、双剣術技能のレベルを上げるため、手頃な魔物モンスターに斬りかかったり、アリシアが仕留める寸前の弱った魔物モンスターにトドメを刺すなど美味しい所をかっさらっていた。


 お前だけセコイと思うだろ?


 けどこれ、未来でウィルヴァが俺を出しに使っていた戦法だからな。


 別に作戦上だから悪いことじゃない。


 つーか、本来は斥候として地形や敵を索敵するのが仕事であり、あくまで非戦闘員である雑用係ポイントマンを前線に出すパーティがどうかしているんだ。


 今思えば、誰かが差し向けた嫌がらせだったのかもしれねぇな。


 ああ……そう考えたら、またトラウマが蘇ってくる――。



「クロウ様、お見事!」


 ほらな。


 アリシアなんて不平不満言わずに俺の武勇を褒め称えてくれるぞ。


 寧ろ、これが本来のパーティの形なんだと思うね。


「ありがとう、アリシア。お前も見事な剣技だぞ。実は俺との決闘の時、本気出してなかったんじゃないのか?」


「……まさか。クロウ様はお強いです」


 頬を染め、優しく微笑んでくる。

 昨夜一緒に過ごしてから、なんかより物腰が柔らかくなったような印象を受ける。


 しかし雑魚魔物モンスターが多くなってきたな……。


 だがそれは間違いなくボス格の奴が潜んでいること。


 奴らは本能、いやおそらく洗脳された『竜』にそう指示されて行動しているのだろう。


 さらに俺達のような『知的種族』を襲い「食い殺せ」っという指示も潜在意識の中に刻まれている筈だ。


 多分、先に討伐された『エルダードラゴン』辺りにか?


 そして主を失い本来なら野生に戻るのだが、新たなヒエラルキーとして次の上位クラスの『竜』に付き従うことがある。


 俺達が狙う『アース・ドラゴン』に間違いない。


 アース・ドラゴンは知能が低く、ほとんど本能で動き野生化している陸竜だ。


 だから本来なら他の魔物モンスターを従えるような能力はないのだが、そこはドラゴン。先の支配竜が不在となった辺りか、自動的に支配権が移されたのだろう。


 ちなみに斃した魔物モンスターはポイントになるので、メルフィのスパルが肉体の一部を回収して彼女が保管している。


 これだけでも既に上位に食い込んでいる筈だ。


 しかしあくまで俺達の狙いは『竜』である。


 でないと、ウィルヴァには勝てない。


「――もうじき、例の洞窟に辿り着く。ディネ、周囲に誰か向かってくる奴らはいるか?」


 俺が聞くと、ディネは先の尖った長い両耳をピンと張らして耳を澄ませた。

 エルフ族の聴力は人族の数倍を誇る。


「……いるよ、5人程。迷わず、こっちに向かってくるよ」


「間違いない、ウィルヴァ達だ……セイラの奴、拳闘士グラップラーの癖に何故か抜群の索敵能力があるんだ」


「きっと獣人族の混血だからではありませんか? 確か白狼族と人族の血を引いていると聞いたことがありますゆえ」


 俺の後方で、アリシアが言ってくる。


「違う。おそらくセイラの特殊スキル能力だ。俺の記憶だと足跡などの痕跡から、そいつの正体や行動が判別できるらしい……アリシアお前、セイラと同じクラスだろ? 何か知らないか?」


「いえ、クロウ様。私はこれまで、あの委員長殿と同様にあの者と口を聞いたことがございません……初めて言葉を交わしたのは食堂でパーティ加入に誘われた時くらいでしょうか」


「ん? ウィルヴァともか?」


 俺の疑問に、アリシアはこくりと頷く。

 その反応に、何故かホッとする自分がいる。


「はい。委員長殿は大変才に秀でており人望が厚いのも存じております……ただ得体の知れない部分もありますゆえ」


 得体が知れないか……。


 ――確かに、ウィルヴァ・ウェストには謎の多い部分がある。






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