第18話 嘗ての因縁深き女騎士とまさかの……
野営中。
俺は焚火の番をしながら、これまでの事を振り返る。
無我夢中でここまで来たが、何が自分にとって正解なのかわからない。
上下関係や立場こそ違えど、結局あの女子達と行動を共にしてしまっている。
それに、この時代に戻る前に頭の中に過った声……。
あの巨大な時計の門……。
意味深な言葉の数々……。
――
今思えば、あれは『具現化型』の特殊スキルか?
俺の特殊スキルとは異なった力で、この時代に誘われた気がしてならない。
わからない。
これまで都合がいいから深く考えないようにしていた。
そもそも俺は、どうしてこの時代に戻れたんだ?
記憶も技能スキルも保持された状態で……。
……まぁいい。
「どの道、ウィルヴァに勝つだけだ」
俺だって奴と対等――いや、それ以上になれるんだって証明してやる。
そして晴れて自信を持って自分の未来を謳歌してやるんだ。
誰にも束縛されない自由なスローライフを満喫してやるぞ。
そう思い耽っていると、テントの中から誰かが出てきた。
「クロウ様……少しテントで休まれては如何かな? ここは私が見張っておりますのでどうか……お体に障りますぞ」
アリシアだ。
未来では絶対にあり得ない気遣いを見せてくる。
口調の割には声のトーンが優しいので、以前のような怖さはない。
しかしまだ、トラウマが過ってしまうので直視せず、焚火の炎を見つめて誤魔化す。
けど、彼女の気持ちだけは素直に喜んでおくべきだと思った。
「アリシア……お前はもういいのか?」
「はい、夜が明けたら起こしましょう。それまでどうか……」
「ありがとう。でも遠慮しておくよ……嫌とかじゃないんだ。なんて言うか、こうして火を眺めている方が落ち着くんだよ」
どうやら俺も、根っからの
本当はとても未来の『勇者様』となるウィルヴァと勝負しようとなんて考えない方がいいのかもしれない。
いくら特殊スキルが高かろうと、人には備わった器というか素質ってのがあるんだ。
「そうですか……私もお傍におりましょう。主をお守りするのが私の務めですから」
アリシアは俺の隣に座ってくる。
俺はちらりと彼女の横顔を見つめた。
忠誠心が高く、健気でいい奴――それにとても綺麗だ。
昔……いや糞未来の記憶が無ければ、このまま恋に落ちても可笑しくないだろう。
今だから思えるが、ひょっとしたら俺は、あの未来でもアリシアに密かな憧れを抱いていたのかもしれない。
気高き強さと誇りを持つ、いつも堂々と胸を張って前へと突き進む女騎士。
それが――アリシア・フェアテールだ。
だから、そんな彼女に見下され「無能者」呼ばわりされ、どんなに辛く切ない思いをしたことか。
今じゃ彼女に認められ平等になるどころか、すっかり主従関係が逆転してしまっている。
奇妙なもんだ……。
だが同時に誇らしくもあるし嬉しくもある。
これから俺が進む道に、アリシアは傍にいてくれるのだろうか?
「なぁ、アリシア……一つ聞いていいか?」
「はい、クロウ様、なんなりと」
「お前、入学式二日目で俺に因縁を吹っ掛けて来た時、最初から俺に目をつけていたろ?」
「え?」
「違うとは言わせないぞ。しかも予め俺がこっそり測定した技能スキルもチェックをしているよな? って、ことは入学式後からずっと俺に目を付けて、どこかで後を付けていたってことだろ?」
「……はい」
アリシアは気まずそうに返事をする。
やっぱりな。彼女は以前から俺を知っていたってことか――。
「何故だ? お前は俺に固執するんだ? 俺の何が気になっていたんだ?」
「……言わねばなりませぬか?」
「言えない理由があるのか?」
「……はい。こればっかりは今はまだ……」
何か隠し事? それとも話せない事情があるのか?
このまま問い詰めたら聞き出せるかもしれない。
しかし、アリシアの表情……。
とても切なく下手をしたら泣き出しそうだ。
いつも自信に満ち溢れた彼女がこういう表情をするのは珍しい。
ってか、初めて見たぞ。
まぁ、俺も人に言えない秘密を抱えているわけだしな……。
「――なら無理しなくていい、話せる時が来たら話してくれ」
「……ありがとうございます、クロウ様。不躾ながら私からもお聞きしてよろしいかな?」
「何だ?」
「クロウ様はそのぅ……女子が苦手ですかな?」
「はぁ?」
「いえ、いつも、そのぅ……反応がいまいちというか、なんというか……妹殿にも素っ気ないご様子なので……」
そういう風に見えてたのか?
別に女子が苦手じゃない。
至ってノーマルな健全男子だと思う。
ただ単にお前達が苦手なんだ……トラウマでな。
しかし「まさか未来のお前らに、相当酷い目に合わされたから」なんて言えるわけがない。
かと言って、このまま下手に女子嫌いだと思われてしまい、実は『あっち系?』っと思われても厄介だ。
ここは遠回しに言ってみるか――。
「これは妹のメルフィも知らない話だが、俺が中等部の頃に複数の女子達に酷い目に合わされてな……それがトラウマで、どうやら苦手意識を持ってしまったんだ」
「なんと……」
切なそうに顔を顰めるアリシア。
念のため、何をされたのか一通り言ってみた。
束の間
アリシアは勢い良く立ち上がる。
「――我が主に対して何たる冒涜行為の数々ッ! 絶対に許さぬぞ!! この私が今すぐその者達の首を刎ねてやりましょうぞぉぉぉ!!!」
いや、そのうちの一人が未来のお前だから……。
アリシアの反応を見ると、益々ドライな気持ちになってしまう。
本当に同一人物かよって思えるくらいにな。
剣を掲げ忠義を見せるアリシアに、俺は「ブレーキ、ブレーキ」と宥めた。
彼女は「これは失礼……」と剣を収めて座り直す。
「今の話、誰にも言うなよ……アリシアだから話したんだからな」
半分はお前に釘を刺すためだけどな。
「はい、勿論であります。この私に信頼を寄せて頂きありがたき幸せ。ですが、クロウ様……」
「ん?」
ふと、アリシアは俺の手を握ってくる。
そのまま綺麗な顔を近づけて見つめてきた。
瞬間、俺の心臓が異常にバクバクと高鳴ってしまう。
まさか、俺……アリシア相手にときめいているのか?
「このアリシア・フェアテール。絶対に貴方を裏切るような事などいたしません。ましてや虐げるようなことなど決して……クロウ様は、この私が必ずお守りいたしましょう!」
それはまるで愛を謳われたような誓いの言葉だった。
決闘に負けたとはいえ、どうして彼女がここまで俺に対して従順に忠誠を誓うのかがわからない。
きっとそれは『言えない』秘密があるのだろう。
アリシアは藍色の瞳を潤ませじっと見つめてくる。
神秘的で思わず吸い込まれるような綺麗な瞳。
俺はアリシアの手を握り返した。
「アリシア……信じていいのか? これからも俺の傍にいてくれるのか?」
「はい……クロウ様が望まれるまま、いつも貴方の傍におりましょう」
なんの躊躇なくニコっと微笑む、アリシア。
この時代の彼女なら信頼してもいいかもな――。
俺は素直な気持ちでそう思った。
だが、そう簡単にトラウマが払拭できる筈もない。
あくまで記憶上にせよ、五年という歳月は長すぎた。
ふとした瞬間に勝手にスイッチが入ってしまう。
俺も俺で、トラウマを克服する訓練が必要なのだろう。
早朝。
「――ちょっとぉ、二人共、何やっているんですかぁぁぁ!?」
メルフィがテントから出て来て絶叫する。
「ちょい、これ……騎士さんの抜け駆けってやつだよねぇ?」
ディネに指摘され、俺達はどんな状態なのか理解した。
どうやら、俺とアリシアは寝てしまったようだ。
二人で寄り添い、手を握り合ったまま――。
きっとお互い心地よくなり眠気が襲ってきたんだろう。
……まったく俺らしくもない。
だが安心して眠れたのも事実だ。
アリシアが傍にいてくれたから……。
「ち、違う! これは、そのぅ……警護だ! そう、騎士として主に密着して警護していたんだぞ! クロウ様、そうですね!?」
いや、お前、口元にもろ
がっつり熟睡しているじゃねぇか?
今更、説得力の欠片もねーし。
……しかし、まぁ。
「アリシアのおかげで俺も休めたからな。ここからは全力で勝ちに行くぜ――」
さぁ、ついに『竜狩り』の始まりだ。
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