第16話 クズ共へ宣戦布告




 俺はディネの陰口を叩く、ムカつく六人組の前に立った。


 奴ら全員、椅子やら机に腰を下ろしており、じっと俺を凝視してくる。


「なんだ、お前?」


「俺らに用でもあるのかよ~?」


「よく見たら、こいつEクラスの階級章じゃねぇか?」


「んだよ、雑用科かよ……まぁ、下等同士でお似合いじゃないのか?」


「ギャハハハ、ウケる~!」


「うふふ、キモ~!」


 連中はEクラスである俺を見下して嘲笑っている。


 だが、全然効かねぇ――。


 こちとら五年の間、屈辱に耐えに耐えてきた男だ。


 やれ無能者だの、身の程知らずだの、ゴミ虫だの、クズだの……etc。

 おまけに色々と差別され、冷遇され、虐げられ、イチャコラ見せつけられてよぉ。



 それに比べりゃ、お前らぬるいわ。


 やるんなら、とことんやらなきゃ、俺の心はそう簡単に折れねーぞ。


 それに、テメェらはよぉ……。



 俺はすぐ目の前でいる人族の男子生徒が座っている木製椅子を右手で掴む。

 瞬間、椅子は劣化し粉々に崩れる。

 結果、男子生徒はその場で尻餅を突き、後頭部を床にぶつけた。


「いっ、痛でぇ!?」


 ざまぁ。


 俺の特殊スキル、《タイム・アクシス時間軸》で椅子がボロボロになるまで時間を進め老朽化させたのだ。


「何だ!? 一体、何をしやがった!?」


「椅子が古くなって腐っている……?」


 おっ、ビビってる、ビビってる。


 しかしこの程度で驚いているなら、こいつら大した特殊スキルを持ってないと見たぜ。


 俺はフッと鼻で笑ってやる。


「――テメェらはよぉ、他人をけなすほど上等なのか? ええ?」


 思い切り見下した口調で言ってやった。


「んだと、テメェ!」


 尻餅をついた男が起き上がり、俺に掴み掛かろうとする。


 いいぜ、掛かって来いよ。


 今度はお前が年寄りになるか赤ちゃんになるかだぜ。

 それとも、動きを奪ってなぶってやるのもありだな。


「――待てよ! そいつに触るな!」


 誰かが大きな声を発する。


 妖魔族の男子生徒だ。


 整った顔立ちに青紫の皮膚。頭に両角が生えている。


 こいつ悪魔族デーモンか?


 古来では他種族と敵対していた種族だが、今じゃ『竜狩り』が優先される時代だ。

 そこだけは種族の垣根を超えて一致団結しなければならい。

 妖精族や獣人族のように、一般人として溶け込んでいても何ら可笑しくはなかった。


「アーガ、こいつがなんだっていうんだ?」


 アーガと名前を呼ばれた悪魔族デーモンは両腕を組んで頷く。


「そいつはEクラスのクロック・ロウだ。そこにいる金髪の女は、アリシア・フェアテールだろ? 決闘で負けて下ったって噂は本当らしい」


「アリシア!? Aクラスの女騎士!? フェアテール家の伯爵令嬢、騎士団長の娘!?」


「なんでも、そいつらは効果系のスキルらしい。下手に触ると、その椅子のようになるぞ」


 アーガの助言で、男子生徒は俺に掴みかかるのを躊躇している。


「チィッ、余計なことを……」


 俺は軽く舌打ちして見せた。


「だがよぉ、なんで雑魚スキルしか持たない筈のEクラスの奴が、Aクラスのしかもトップクラスの騎士に勝てるんだよ!?」


「うっせーな、知らねぇよ! だがお前ら糞共を見ていると余計、この学院のクラス決めが不当で可笑しいって、つくづく実感が湧いてくるぜ!」


「なんだと!?」


「はっきり言うぜ! お前らのような一人じゃ何も出来ねぇ、口先だけの弱っちいクズ達とパーティ組むくらいなら、ディネルースと組んだ方が遥かにマシだ! こいつは決して下等なんかじゃねぇ! 学院最強の弓使いアーチャーなんだからな!」


 俺の断言に、アーガを含めて他の連中は奥歯を噛み締める。

 どいつも鋭い眼光で睨みつけていた。


 大方、高いプライドを傷つけられちゃいましたってか?


 安っす! プライド、クソ安っす!


 俺のプライドなんぞ糞未来でボロボロに打ち砕かれて、戻った今の時代でもトラウマとして心に刻み込まれているんだからな!

 夜も眠れねぇほど、精神的に追い詰められたことなんてねーだろが!?


 あまりにも次元の低い連中に、俺は深い溜息を吐く。


「ハァ、くだらねぇ。もういいや……んじゃ、アリシア、メルフィ行くぞ。ディネルース、後で迎えに来るから一緒に帰るぞ。林間実習の打ち合わせをするからな」


 俺は言い切り、アリシアとメルフィを連れて颯爽と教室から出た。


 廊下を歩いていると、


「待ってよ、クロック!」


 ディネが必死で追いかけてくる。


「どうした、ディネルース?」


「ありがとう……ボク、嬉しかったよ」


「ああ。本当のことを言ったまでだ、気にするなよ」


「それと…………ディネでいいよ」


「ん?」


「ボクのこと気楽に『ディネ』って呼んでいいからね!」


 ディネは白い歯を見せ、可愛らしく無邪気で満面な笑みを浮かべる。

 こちらに向けて手を振り、自分の教室へと戻って行った。


 俺はその後ろ姿を眺めつつ、ふと違和感を覚える。


「――なんだ? 形は変わっているが、糞未来とほぼ同じ展開になってないか?」


 ふとそう思えてしまった。


 現に、アリシアやメルフィも、こうして一緒にいるわけだしな。


 唯一違うのは、ウィルヴァ達と完全に決別したことくらいか……。


 ――しかし、悪い方向に転がってはいない筈だ。


 とにかく、余計に林間実習ではウィルヴァ率いるパーティには負けられなくなったぞ。


 なんとしてでも好成績を残して、ああいうしょーもない連中に俺とデュネの実力を見せつけてやるぜ。


 俺がそう考えている中、アリシアが顔を覗き込み優し気な微笑を浮かべている。


「先程のクロウ様、とても素敵でした。このアリシア、胸がスカッといたしましたぞ」


 そりゃどうも。


 俺は糞未来でお前にされてきた数々の仕打ちがトラウマすぎて、いつも胸が悶々としているけどな。

 反面、たまに褒められると何か認められたみたいで、そんなに気分は悪くはなかった。


「俺は別に……ただああいう寄ってたかっての陰湿な連中が大嫌いなだけだよ。アリシア、お前も気を付けろよ」


「はい、ご安心ください! そのような者達など、私の正しき刃で打ち砕いてみせましょう!」


 そういう意味で言ったんじゃねーよ。

 この時代のお前もそうなるなよって警告の意味だぜ。


 ――特に俺に対してな。



 それから、アリシアは隣で歩きながら何かと俺を褒め称えてくれる。

 褒められ慣れていないこともあり、なんだか照れ臭く頬を赤らめてしまう。


「アリシアさんっとばっかりずるいです! 私だって兄さんのこと一番尊敬しているんですからね!」


 メルフィが頬を膨らませ、俺の腕を掴んで揺さぶってきた。

 どうやら俺達のやり取りに変な焼き餅をやいてしまったらしい。


 だがお前も糞未来通りなら、卒業前くらいで俺のことなんて歯牙にもかけなくなるかもな。


 ウィルヴァさん、素敵カッコイイ~、なんて言っちゃってよぉ……。


 おっと、いかん、いかん……また、トラウマが……。


 クソッ。


 アリシアとメルフィがどれだけ純粋で誠実な気持ちで、俺を慕ってくれても……。

 結局、どうしてもあの忌まわしい記憶が過ってしまい、気持ちがドライになってしまう。


 この時代の彼女達は、これっぽっちも悪くないってわかっているのに……。


 はぁ……。


 こんな調子で、俺はみんなと上手くやって行けるのだろうか?


 今回の林間実習で、俺の気持ちも少しは変わってくれればいいんだが……。




 そして数日後。



 ついに一年生にとって初の林間実習こと『竜狩り』が開始される。

 

 俺にとって再トライと、未来の勇者ことウィルヴァへの挑戦だ。






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