第15話 陰キャぼっちのエルフっ子
「おいディネ、起きろ!」
俺は寝たふりをしている、エルフ女に声を掛ける。
ディネと呼ばれた、ディネルースは乳白色の小さな顔を上げる。
ふわっとした長く
小さな鼻梁と唇、そして先端が尖った長い両耳。
やっぱり寿命の長いエルフ族だな。
たった五年じゃまるっきり変わってない。
あの未来のままだ。
だから余計に腹も立つ。
「……誰?」
当然だが、こいつが俺のことを知る筈がない。
「俺はクロック・ロウだ。今度の林間実習、俺達とパーティを組んでもらうぞ!」
「ボクが? あんた達と?」
ちなみに、こいつは『ボクっ娘エルフ』だ。
「そうだ。どうせ、ぼっちで構ってもらえる相手がいないもんだから不貞腐れて寝てたんだろ? だったら丁度いい、俺達のパーティに入れよ!」
「アンタの言い方、嫌い……あっち行ってよ」
はぁ!?
俺がぼっちのお前に親切に声かけてやってんだろうが!?
いや待て……確かにマナーが最悪だったかもしれん。
しかし、俺もあの未来では、このエルフ女に散々な目に合ってんだ!
言い方も悪くなるってもんだろ?
――トラウマ・スイッチ、オン!
見てのとおり、ディネルースことディネは当初の学院内じゃ、完全なぼっちエルフだった。
このスキル・カレッジでは特に種族の垣根はない。
ただ一つ、特殊スキルこそ全てだ。
したがって本来、ディネはBクラス内でカースト上位扱いでも可笑しくないのだが、激しく人見知りする性格とエルフ族の仲でも身分が低いらしく、そこに劣等感を抱いていたらしい。
自分から殻に閉じこもり、こうして塞ぎんでたってわけだ。
糞未来において林間実習の時、ウィルヴァが「
当然、今のような横柄な声掛けじゃないさ。
もう少しソフトでマイルドな優しさに包んだ言葉でな。
んで、ディネは喜んで、ほいほいとついて来たよ。
そこまでは良かった。
しかし、この女は慣れていくうちに本性を見せてきやがったんだ。
勇者パーティ結成後、
ガキみたいなしょーもない悪戯ばかりして、よく俺を困らせていたもんさ。
それはまだ許すわ。
一番許せねぇのは、俺の失敗やサボっていることをアリシアにチクり、その都度ヤキを入れられた。
しかも話を盛りやがるわ、俺がユエルを口説いてイチャついているとか、そんな虚言まで喋りやがる。
頭の固いアリシアは信じきって「無能者の分際で、主の妹に手を出すとは!」っと、俺はボコボコに蹴られたもんさ。
――俺は忘れない!
そのアリシアの背後で、薄く笑みを浮かべていたデュネの顔を今でもなぁ!
したがって本来なら、永遠にぼっちでいやがれ糞エルフって感じなのだが……。
やっぱり、こいつの特殊スキルは魅力的だ。
実際に見たことがないが、あのウィルヴァが推すほどの能力。
きっと仲間になって損はないだろう。
ウィルヴァ達が先に目をつける前に、俺がこいつを仲間にする。
もう戦いは始まっているんだぜ……。
「俺はどこにも行かねーぞ! お前がパーティに入ってくれるまでな!」
「どうしてボクにこだわるの?」
「お前がムカつく……いや、正しく実力を評価しているからだよ。ディネ、お前はこんなところで不貞寝しているようなエルフじゃない」
「どうして知ってるの?」
「え? そ、そりゃ俺に見る目があるからだ」
「違うよ……ディネって呼び名。それ、ボクにとって特別な人にしか呼ばせてないんだけど!」
え!? そ、そーなの!?
けどお前、未来で知り合ってからすぐに「ボクのこと気楽にディネってよんでよ~♪」って言ってたじゃん!?
てっきり、打ち解けたメンバーみんなに、そう呼ばせていたと思ったのに……。
そういや、ウィルヴァは常に「ディネルース」って呼んでたな?
……どういうことだ?
しかし、ディネの奴。
なんか怒っているっぽいから、ここは素直に謝ってみるか。
「す、すまない……なんとなく呼んでみただけなんだ。じゃ、ディネルースさん。僕のパーティに入っていただけませんか?」
結局、あの頃と同様に低姿勢で頭を下げながら勧誘してしまう、俺。
「……いいよ。そこまで言うなら仕方ないからパーティに入ってあげるよ」
何が仕方ないだ? このぼっちエルフが……。
上から目線で言いやがって……やっぱ、こいつは嫌いだ。
今回の林間実習だけパーティ組んで、あとはポイだな。
卒業まで一緒にいたら、また何されるかわかったもんじゃねぇや。
そんな中、
「――おい、陰キャエルフが勧誘されているぞ」
「はっ、あんなのクラスで一番どうでもいい奴でしょ?」
「あんな下等種族とパーティ組もうとするなんてマジ笑えねーっ」
「一緒の空気を吸っているだけで、こっちまで品位が下がるってのぅ」
「超ウケる~~~!」
わざと聞こえるように複数の生徒が野次を飛ばしてくる。
陰キャエルフだと?
ディネのこと言っているのか?
俺は声がした方向に視線を向ける。
丁度、ディネから真後ろの席を陣取っている六人ほどの男女がいた。
みんな学院指定の同じ制服を着ているので、どんな職種はわからない。
しかし同じBクラスの生徒だと考えると
つーか、ディネのやつ。
クラスでぼっちってだけじゃなくて実はイジメられていたのか?
俺すら知らなかった事だぞ。
ディネは唇を強く噛み締め、緑色の瞳を潤ませている。
「おっ、あいつ震えてんぞ。また泣くんじゃね? もう泣くんじゃねーの?」
「ウケる~、これで何度めよ~?」
「ギャハハハッ! もうやめたれ~、おもろすぎるわ~!」
酷でぇな。
いくら何でも言い過ぎだぞ。
手を出さなきゃいいってレベルじゃねぇ。
言葉だって十分な凶器になるんだ。
俺なんか糞未来で女共に散々嫌味を言われ冷遇を受けて、そのストレスで白髪が増えてしまい自慢の黒髪が灰色になっちまったくらいだったからな。
「あの者達、さっきから黙って聞いていればなんと無礼な!」
アリシア……凄く怒っているけど、お前がその元凶だったからな。
「兄さん……」
メルフィは俺の袖を引っ張り、何か訴えるように見つめてくる。
妹よ……兄さん、お前に初めて無視された時、どれだけ寂しくて泣きそうになったことか。
…………。
――い、いかん!
ついトラウマ・スイッチが入っちまう。
今の彼女達は俺の仲間なんだ。
唯一、そこだけは忘れちゃいけない。
それにだ――。
俺はこういう腐った連中が一番ムカつくんだぜ!
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