第14話 因縁の仲間達
突如、俺達に向けて話し掛けてきた男。
長い銀髪で
色白で平和そうな中性的な顔立ち。
――間違いない。
こいつは、ウィルヴァ・ウェストだ。
奴の隣には奴実の妹でもある、ユエル・ウェストも立っている。
五年後の未来、俺にとって唯一の心の拠り所だった女の子。
ウィルヴァと双子なだけあり特徴がよく似ているも、相変わらず清楚で大人しそうな綺麗な子だ。
さらに後ろには
こいつも相変わらず褐色肌の巨乳……いや背が高く、長い白髪の頭部に犬のような両耳と真っ白な尻尾を持つ、白狼族と人族の混血。俗に言う『半獣』娘だ。
勝気な雰囲気だが美人顔には変わりない。
「これは委員長殿ではないか? それにセイラまで……お主らもパーティを探しているのか?」
「そうだよ、アリシアさん。なかなか見つからなくてね……キミが今話題のクロック・ロウ君だろ?」
「ああ、まぁな……」
「僕はウィルヴァ・ウェスト。宜しければ一緒にパーティを組まないかい?」
何だと?
まさか、超エリートのウィルヴァから直々に声を掛けてくれるとはな……。
確かに戦力は申し分ない。
ほぼ完璧なパーティが組める。
正直、ウィルヴァ自身は嫌いじゃない。
みんなの羨望を集めていただけあり、俺も冒険者としてこいつに憧れを抱いていた時期もあった。
だが、その圧倒的な実力を目の当たりにして、絶対に超えられない高みだと悟り失望したのも確かだ。
そして女達もこいつに一目置き、異性として好意を持ち……。
俺はずっと指を咥えて眺めているか、知らない振りして距離を置いた。
だから実際、どうなのかはわからないけどな。
はっきり言って、ウィルヴァは何も悪くない。
寧ろ冷遇され虐げてくる女達から俺を庇ってくれる時さえある。
性格も温厚で凄くいい奴だと思う。
けど、こいつとだけは組むわけにはいかない。
――いいや組みたくない!
また同じ未来を辿ってしまうと思えて仕方ないんだ。
俺はもう、あの未来の俺じゃないと自信をもって言えるにも関わらず――。
心の奥で、こいつの存在が疎ましく、そして恐れている。
ウィルヴァ・ウェスト。
俺の未来はもう、お前に屈服したりしない。
背き、決別し、俺は自分だけの人生を謳歌してやるんだ。
「ほう、学院きっての秀才と褒め称えているクラス委員長ことウィルヴァ殿からの誘いとは……クロウ様、私は悪くないと思いますぞ」
アリシアは微笑を浮かべ平和そうに呑気なことを言ってくる。
その言動に俺のトラウマ・スイッチが入った。
糞未来で俺が一人で一生懸命に仕留めた『竜』を解体している中、目の前で二人だけで仲睦まじく話し込んでいる姿。
ウィルヴァを『主』と呼び、跪き微笑むアリシアの姿。
完全にカチンときた。
「――だったら、アリシア。お前だけでも組めばいいじゃないか?」
「え?」
「俺はそいつらとは組まない。メルフィも俺に気を遣わなくていいんだからな!」
「何を言っているの兄さん! 嫌です! 私は兄さんの傍がいいんです!」
「ク、クロウ様……申し訳ない。そうだな、クロウ様はご自分でお探しになると仰られた……私としたことが出すぎた真似を……どうかお許しください」
メルフィが訴え、アリシアが許しを請てくる。
その必死で健気な二人の姿に、流石の俺も胸を痛めてしまう。
あくまで一方的な気分であり、自分勝手のわがままだ。
だけど、ここでスタンスを崩すわけにはいかない。
俺は両腕と両足を組み、憮然とした態度を見せる。
ウィルヴァはきょとんと目を見開き、俺の態度と断られた理由を考えているようだ。
大方、自分が何か気に障るようなことをしたのだろうかって感じかな?
別に何もしてねーよ、お前さんはね。
自分でも逆恨みも甚だしいと思うぜ。
しかし、たとえ神様にそうだと言われようとも、お前とだけは重ならない。
交わることすらあり得ない。
――未来永劫の平行線だ。
「どうやら僕はクロック君にフラれてしまったらしいね……」
「ウィル、そんなEクラスの奴なんて放っておきなよ。別の奴らを探そうよ」
セイラが慰めるように言ってくる。
白髪の半獣娘が、相変わらずその男にぞっこんのようだな。
「お兄様……」
ユエルも心配そうに兄を見つめている。
ウィルヴァと決別するってことは、双子の妹であるこの子とも別れることを意味する。
彼女には淡い憧れと恋心も抱いた時期もあったが仕方ない。
――これが俺の選択なんだ。
叶わない恋よりも、自由な未来を掴み取る。
こうして、ウィルヴァ達は俺から離れて行った。
俺は溜息を吐き緊張を解く。
「ク、クロウ様……まだ怒っておられますか?」
アリシアが心配そうに、整った小顔で覗き込んでくる。
「いや別に……お前こそ、ついて行かなくていいのか?」
「くどいですぞ! 私はクロウ様に忠誠を誓った身! 貴方なくして他の者とパーティなど組めますか!?」
「ご、ごめん……悪かったよ」
思いっ切り俺が怒られてしまった。
けど不思議だ。
こうして怒鳴られても、今のアリシアから、あの未来での怖さを感じない。
寧ろ、じーんと心に響いてしまう。
真剣に俺のことを想って、純粋に怒ってくれているのが伝わる。
だから素直に謝れる。
そうだよな……。
未来を知らない彼女の身になれば、俺は相当やさぐれた主だよな。
そこだけはしっかり反省するべきだ……。
「兄さん……みんなで他に組めそうな人達を探しましょうね?」
「そうだな、メルフィ。俺に一人、思い当たる奴がいる」
ここまで来たら、あの女を巻き込むしかない。
ウィルヴァ達の姿を見て、思い出した最後の一人。
――デュネルース・エルベレス。
エルフ族の
今の時間なら、Bクラスにいる筈だ。
未来じゃ、いつも俺に嫌がらせと悪戯をしてくる糞エルフ娘だが抜群に腕は立つ。
しかも潜在スキルも相当ヤバイ能力だと、ウィルヴァから聞いたことがある。
何せ、たった一人でエルダードラゴンの翼を粉砕させる力があるからな。
さっきウィルヴァ達に会って決別したことで、俺の中で何か『欲』が芽生えてきている。
――今回の林間実習で好成績を収めること。
そうすればウィルヴァの鼻を明かせるし、俺を見る周囲の目もまた変わる筈だ。
何より、俺の特殊スキルを試したい。
今の俺なら十分にウィルヴァの域に届くと証明したいんだ。
俺達は食堂を出て、Bクラスの教室に行く。
本来、Eクラスの俺は入りづらいが、同じ三上位クラスのアリシアとメルフィがいるので問題ないだろう。
それに俺も他所の生徒から一目置かれているようだしな。
案の定、ディネルースはいた。
教室から窓際に位置する一番前の席で机にうつ伏せになって寝ている。
エルフ族ならではの長い耳の癖に、周囲からの雑音を完全にャットダウンしている感じだ。
そう、俺は知っている。
当時のディネルースは周囲の溶け込めず、「ぼっちエルフ」だったってことを――
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