第二章 激闘の林間実習
第13話 林間実習の相談
五年前の過去の時代に遡及して数日。
俺が過去を変えたことで、事態が目まぐるしく動いている気がしてならない。
一番は、あの傲慢で高圧的だったアリシアが俺のことを『主』と呼び、忠誠を誓ってきたことだろう。
いくら決闘に勝利したとはいえ、この女も何を考えているのかわかったもんじゃない。
まぁ、少なくても俺に危害を与えるつもりはないのはわかる。
だからと言って、昨日の敵が今日から仲間ってノリはどうかと思うけどな。
とりあえず、付きまとわれるのも厄介だし、ここは形上の主従関係を演じることで丸く収めたまで良かったんだが……。
少し疑念も残る。
今の一番は、アリシアの言っていた俺を良く思っていない連中についてだ。
俺がEクラスに居座り続けることで、スキル・カレッジの威信に関わるかもしれないと思っているとか?
生徒だけでなく、教師も含めてらしい……。
まぁ、それなら学年主任のスコット先生に頼んで、『対竜撃科』の三上位クラスに移してもらえばいいだけの話なんだが。
しかし、クラス移動なんてしたくない。
特にAクラスだけはあり得ないと思っている。
今のアリシアは良しとして、まだあのクラスには未来の
Bクラスには
唯一無害そうなのは義妹のメルフィと、
つまり俺の専門外だ。
食事も食べ終わり、一息入れる俺達。
「――クロウ様、今度の林間実習はどうされるのです?」
ふと、アリシアが聞いてきた。
完璧に主従関係になったからか?
語尾が丁寧な敬語口調でなんか不気味だ。
未来のトラウマからか、びくっと体が反応してしまう。
まだ心の奥底じゃ、まだこの女がおっかなくて仕方ないんだ。
「り、林間実習? ああ『竜狩り』の実技訓練か……俺はEクラスだからな。待機場で野営訓練でもしてるよ」
林間実習とは各クラスでパーティを組み、領地外で野営しながら
初実習なので一泊二日だと聞く。
そして狩りなので一番多く、獲物を狩った方が優勝であり好成績の者は卒業の際に色々と便宜が図れる。
国を代表する冒険者になったり、いい役職に就いたり。
未来の糞パーティも好成績を収めたから、国から色々と優遇されいた経緯がある。
当然メインになるのはA・B・Cの『対竜撃科』の三上位クラスだ。
Dクラスは一般科なので参加せず、別の施設で職業訓練をするらしい。
俺のEクラスは
以前の糞未来では、俺はアリシアの下僕として強制的に
実習が終わった頃は、俺はボロボロになって帰ってきた記憶が今も鮮明に残っている。
考えてみりゃ、それからが
「よ、宜しければ、私とパーティを組みませんか?」
アリシアは白肌の頬を赤く染め照れたように言ってくる。
流石、凛として綺麗な顔立ちだけあって、ぶっちゃけ可愛い。
――だが、この女の見た目に騙されちゃだめだ。
ここで乗っかってしまうと、それこそ未来の二の舞だということを忘れてはいけない。
「断る。俺は自分の腕を磨くための野営訓練がしたいんだ。誰かの
「しかし、クロウ様は既に野営スキルのレベルがカンストされているではありませんか?」
ああ、未来のお前らに散々しごかれたおかげでな。
てか、なんで知っているんだ?
「アリシア、何が言いたい?」
「クロウ様は双剣術を学ぼうとされておられる。剣技とは技術とは実践があって初めて身につくもの。であれば信頼できる仲間と共に研鑽することも一つかと思いますぞ」
信頼できる仲間か……まさかお前からその台詞が聞ける日がくるとはな。
まぁ、今は主従関係が逆転しちまっているし、少なくてもこの女から危害を与えられるとは思えない。
それに、どうやら俺は他の教師達にも目をつけられてしまっているらしいからな。
Aクラスのアリシアと組むことで、俺が立場をわきまえて行動しているという印象を与えられるかもしれない。
それに今の俺には特殊スキル《
「……わかった、お前と組んでもいいぞ。その代わり、パーティのリーダーはアリシアがやってくれよ」
「わかりました。このアリシア・フェアテール、騎士の名に懸けて、我が主であるクロウ様をお守りいたしましょう」
アリシアは俺に向けて頭を下げて見せる。
すっかり忠誠を誓ってくれるのは嬉しいが、未来のトラウマもあり違和感の方が大きい。
とっとと卒業して、この女から離れるようにするべきだな。
「んで、他に誰と組むんだ?」
「クロウ様、誰とは?」
「だからパーティだよ。まさか俺とアリシアだけってことはないだろ?」
「……お言葉ですが、私とクロウ様のみで問題ないかと」
忘れてたぜ、この女……戦闘以外はポンコツだったんだ。
こいつに仕切らせたら、本当に二人で『竜狩り』に行かされちまう。
あくまで実習とはいえ、他の職種の支援がないと『竜』や『
それに今のアリシアとて、未来ほどの実戦経験や剣技が完成されているわけじゃない。
「アリシア、実習とはいえ二人は危険すぎる。お前も言った筈だ、実践があって技術が磨かれるとな。きちんとメンバーを揃えて挑むべきだぞ」
「……うむ、仰る通り。このアリシア、クロウ様の言葉に胸を打たれましたぞ!」
簡単に胸を打たれやがって。
つーか、よく見たらこの頃から胸が大きかったんだな、こいつ……。
い、いや、それはいい!
「とにかくだ。俺が他の面子を連れてきてやる。それでいいな?」
「わかりました、我が主よ」
「っと、いうわけでメルフィ、一緒に組んでもらえないか?」
「はい、兄さん喜んで……あのぅ、スパルちゃん連れてきてもいいです?」
「スパル? ああ、あのムカつくじゃねーや。お前が造った『
「やったぁ、兄さん、だ~い好き!」
メルフィは俺の腕に抱きついてニッコリと微笑む。
反対側の隣で、アリシアが瞳を細めて面白くなさそうにメルフィを見つめている。
「……そちらの方は魔道師殿ですかな?」
「ああ、俺の妹のメルフィだ。二才年下だが、適正検査と儀式なしで特殊スキルが覚醒し『飛び級』して学園に入ったからな。才能と腕は確かだ」
「そうか妹殿か……それはすまなかった。よろしく頼む」
アリシアよ、何故謝る。そして何を安心しているんだ?
妹でも血の繋がりのない義理だけどな。
そのメルフィもアリシアに対して愛想よく「お願いします」と返答している。
――とりあえず、これで三人か。
先陣を切る
まぁ、俺は未来ではスキル上、あのウィルヴァと一緒に組まされ先陣を切ることが多かったからな。
アリシアのサポートも当然できる。
けど、もう一人か二人は欲しいな……
遠・中距離支援の
「――やぁ、キミ達。今度の林間実習でのパーティを探しているようだね?」
爽やかな声で、誰かが声をかけてくる。
その姿を見て、俺の心臓が激しく波を打つ。
こいつは……。
未来でのパーティのリーダーであり、周囲から『
まさにカースト上位であり、誰もが認め敬うエリート中のエリート。
――ウィルヴァ・ウェスト!?
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