第9話 マグネティック・リッター
よっしゃー!
ついに、アリシアに一撃を食らわせてやったぜ!
これで同じポイントってやつか?
つまり、あと二撃を与えりゃ、俺の勝ちってわけだ。
まぁ、向こうもだけどな。
アリシアに施した停止能力が解除される。
俺の攻撃された腕を押えて、顔を歪ませた。
そんなに強く叩き込んだ覚えがないから、骨折はしていないだろうぜ。
なんだったら後でユエルにでも回復させてもらえよ。
そのアリシアは俺を凝視している。
「クロック・ロウ……貴様の能力は、私と同様に触れて効果を発揮する『効果型』か? しかも時間を奪い自在に操るとは……稀に見ないレアスキル。
「ケッ、知らねーよ! どうせここの学院の鑑定祭器がしょぼいんだろうぜ……だが、もうそんなの関係ねぇ!」
「何?」
「……アリシア・フェアテール、俺はお前には絶対負けない! 負けるわけにはいかない! 我が尊厳と誇り懸けて、自由な未来を手にして見せる!」
「ほぅ……まるで私に負けると後がないような言い方だな……だが気に入ったぞ! その真剣勝負に掛ける覚悟と強き意志! 敬意を表して相手になろう!」
俺とアリシア。
因縁の両名が、じりじりと距離を詰めて対峙する。
その能力にもよるが『効果型のスキル』はスキル発動中、同じ対象者や物体に重ねて『スキル効果』を与えることはできないとされる。
但し俺の《
これを「上書き効果」と呼ぶことにした。
どの道、勝敗の局面はどちらか先に能力を打ち込むかに限られる……。
二人の距離が剣先が届くまで縮まった。
アリシアが先に動く――。
バスタード・ソードを振り翳し斬りつけてくる。
おそらく剣身の長さを考慮して先に仕掛けてきたのだろう。
それとも双剣術スキルを持たない俺との打ち合いでなら勝機があると見込んだのか。
俺は再び、両剣を十字の型にして一撃を受け止めようと構える。
また、奴の動きを止めてニ撃目と三撃目を連続に叩き込んでやろうと思った。
が、しかし――!
アリシアの身体がふわりと上昇し宙に浮く。
信じられない光景だが、互いの剣が接触することなく、奇妙な現象で回避されてしまった。
「なっ……!?」
「驚くなよ、クロック・ロウ……私のスキル能力は既に理解しているだろ? 磁力とは磁極が互いに引き合いまた退け合う力、つまり『S極』と『N極』の二極が存在するのだ。子供でも知っている範囲だが、同じ磁極同士が近づくとどうなる?」
「……反発して離れていく」
「そうだ! 私とお前の身体は今同じ磁極なのだよ! だから貴様の剣撃は絶対に私には届かぬのだ!」
「ならお前だって、俺に攻撃を与えられねぇだろうが!?」
「そんなことはない!」
アリシアが言い切った瞬間――。
グサッ!
俺の太腿に鋭い痛みが襲う。
「痛ッ! また何だ!?」
鉄製のフォークが突き刺さっている。
それだけじゃない。
スプーンやトレー、生徒や教師が身につけているボタンやアクセサリー、周辺にある鉄製のありとあらゆる物体が俺の身体に引っ付いている。
「こ、これは!?」
「私の《
なんだって!?
じゃあ、この女は自分が巻き込まれないために、わざわざ宙に浮いたのか!?
アリシアの言う通り、全身に鉄製の物が同化しているように引っ付いて離れない。
おかげで身動きが取れなくなる。
「テメェ、この女……」
「言ったろ、貴様はもう私の支配下にあると! さっきの一撃を受けた時点で、勝負はついているのだ!」
アリシアは自身の磁力を解き、華麗に床へと着地した。
何を思ったのか俺を無視し、片付けていた複数の椅子やテーブルを触れて回る。
「これで、チェックメイトだ」
アリシアが振り向いたと同時に、触れられた椅子とテーブルが一斉に飛んで来る。
ドドドドドドドドドド――――!
「うわああああああああああ!!!」
俺は幾つも飛来してくる椅子とテーブル群の下敷きになり、物凄い力で押し潰されてしまう。
「兄さん! クロック兄さん!?」
意識が薄れそうになる中、メルフィの声が耳に響き、辛うじて保つことができた。。
くそったれが……。
だが、やはりこの女は強い――。
アリシア・フェアテールは戦闘の天才だ。
……そんなの、わかっていたさ。
とっくの前にわかっていたことじゃねぇか。
何せ、俺は嫌ってほど、アリシアと一緒にいたんだ。
無能者扱いされ、虐げられながらも常にな……。
けどよぉ。
――今は違うんだぜ!
もう無能者なんかじゃねぇ!
今の俺は未来の記憶と。
それに
「絶対に負けられない意地と覚悟がある! ぐおおおぉぉぉ――!!!」
圧し潰された床下から、ドクドクと真っ赤な液体が滲み溢れ出ていく。
――それは血液だ。
俺自身のなぁ。
「何だ、血なのか? 血だと!?」
正面に立つアリシアが真っ先に俺の異変に気付く。
「クロック・ロウ! 貴様何をしている!?」
「ああ!? あのEクラスの黒髪! 自分の剣で手首を斬っているぞ!?」
野次馬の一人が叫んだ。
そう。
俺は自分の右手首をブロード・ソードで切断していたのだ。
「兄さん、なんてことを!?」
「何だと!? セーフティはどうした!?」
「……お、俺の特殊スキルは時間を奪い操作する能力だぜ……この剣に施されたセーフティロックとやらも、その魔法が掛けられる前の状態に戻したんだ。手首を切断することくらいできるぜ! この身体に纏わりつくガラクタの重みで体重も乗せやすくてよぉ!」
「だから、なんてことをしているのだ!? このバカ者が!」
アリシアが必死の形相で向かってくる。
瀕死の俺にトドメを刺すつもりなのか。
それとも心配してくれているのか。
俺にはわからない……。
だが、これを待っていた!
「《
辛うじて自由の効く左手で切断した右手首掴み、アリシアに向けて投げつける。
――ドン!
飛んで行った右手首は、奴の胸元に叩き込む。
その瞬間――予め効果を施していた、俺のスキル能力が発動された。
「な、何ィィィッ!?」
「……アリシア、お前の動体視力の速度を奪ったぜ。速度は時速でもあるんだ。動体視力を爆発的に加速させることで、周囲が超スローに見えるだろ? だが過度の強化は決して優位にはならない。いや寧ろ、お前の中でどういう事態を招いている?」
俺が問うも、アリシアは全身を小刻みに震わせるだけで、答えるどころか動くことさえできない。
動体視力だけが異常に強化された状態。
光速とまではいかないも、おそらく
おそらく他の感覚がついて行けず、脳がパニックを起こしている。
とてもまともに動ける状態じゃない筈だ。
頭痛や吐き気を催すほどの
――今のアリシアがそう物語っていた。
すると、俺の身体に付着していた食卓テーブルと椅子、その他の鉄製品がボロボロと剥がれて崩れ落ちる。
「……どうやら、精神が激しく混乱したことで奴のスキル能力が解除されたようだな」
俺は立ち上がると床に落ちている自分の右手首を拾い、左手の
右手は元の切断する前の状態に戻る。
そのまま、アリシアの前に立つ。
「アリシア・フェアテール……お前に勝つには、やっぱり腕の一本は斬り捨てる覚悟が必要だったようだ」
言いながら、ブロード・ソードを翳した。
錯乱状態のアリシアに俺の言葉が聴こえているのかわからない。
少なくても、俺の動作は超スローに見えていることだろう。
皮肉なことにな……。
剣の切っ先を、アリシアの鼻先に向けた。
セーフティロックは復活させたから、殺傷能力はないも鈍器で殴る程度のダメージを与えることは出来るだろう。
この女とは特に因縁深く、未来で散々な目にあった怨みがある。
一発くらい、ぶん殴っても罰は当たらない筈だぜ。
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《特殊スキル紹介》
スキル名:
能力者:アリシア・フェアテール
タイプ:効果型
レアリティ:SR
【能力解説】
・アリシアが触れた生物また物体に『磁力』を与え、自由にくっつけたり引き離したりすることができる。
・一度でも与えた磁力はアリシアの任意で磁力効果の「発動」と「解除」がされる。
・磁力対象も任意であり、アリシアの意志以外で他の鉄製の物質に自然にくっついたりしない。
【応用技】
・各部位に『S』『N』極の磁力を与えることができる。したがって同極の磁力効果を剣撃として繰り出せば反発効力で絶対の一撃となる。
・アリシアの任意で『S』『N』極の途中変更が自在にできる。
・その要領で傷口同士の接合をすることが可能である。
・簡易的な方位磁石を作れる。
・敵を自分から引き離したり、活用次第で自身の移動速度を早める。
・その他、汎用性が高く、他の特殊スキル能力との合わせ技も可能である。
【弱点】
・汎用性が高い分、他の特殊スキルに別効果を『上書き』されやすい。
(スキル例:タイム・アクシスなど)
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