第7話 女騎士との決闘




「いやぁ、アリシア様!」


「キャァァァァ、アリシア様になんてこを!?」


「劣等のEクラスの分際でぇぇぇ!」


 アリシアのファンクラブの女子達が騒いでいる。

 

 自分達の憧れである女騎士さんの頭上から飲みかけの牛乳をぶっかけてやったんだ。

 そりゃ騒ぎが起こるだろう。


 だが、俺は違和感を覚える。


 肝心のアリシアが全く動じていない。

 てっきり怒り狂って殴りにくると思ったが……。


「……いい度胸だ、貴様」


 アリシアは立ち上がり、胸ポケットからハンカチを取り出した。

 牛乳塗れとなった金髪の髪と顔などを丁寧にふき取る。


 そのハンカチを思いっ切り俺に向けて投げつけてきた。


「今から貴様に決闘を申し込む。覚悟は出来ているだろうな?」


 物騒なことを言う割には、意外と穏やかな口調である。

 頭に来すぎて感覚が麻痺しているのか?


 あるいは何か企んでいるかだ……。


 しかし、ここで臆したら元もこうもない。


「そのつもりでテメェから因縁吹っ掛けているんだろうがぁ! 言っとくが、俺はもう以前の俺じゃねぇぞぉ!!!」


「以前だと? 貴様、私を知ってるのか?」


 アリシアに指摘され、俺は手で口を押える。


「知らねーよ! テメェのような暴力女! とっととかかって来いよ!」


 そうだ!


 俺は昔……いや、あの未来での俺じゃねぇ!


 特殊スキル《タイム・アクシス時間軸》があるんだ!


 この女を老婆にして嬲ってやるか、幼女にして恥ずかしいことしてやるか二択だぜ!


 さぁ、来いよ、アリシア・フェアテール!


「――いいだろう、決闘の準備だ! 其方ら剣を持ってこい!」


 アリシアがファンクラブの女子達に指示する。


 しばらくすると、大きな台車に乗せて幾つかの剣を持って来た。


 大剣や長剣、片手剣や短剣など様々な種類だ。

 槍とか鎖鎌さえある。


 つーか、何だ!? 話が大きくなってないか!?


「な、何してんだ!?」


「何とは? 決闘の準備に決まっているだろ?」


「そういうことを聞いてんじゃねぇ! どうして剣を持ってくるんだって聞いてんだよ!? 素手でかかって来いよ!」


「私は騎士だ。騎士である以上、決闘は剣を持って挑む所存だ」


「お前はそうかもしれないけど、俺は騎士じゃない! 斬り合いなんてやってられるか!」


 未来じゃ、テメェは拳で一方的に俺を殴って来ただろうが!

 まさか、俺の行動で未来が変わっているのか!?


 アリシアは「フン」と鼻で笑っている。

 じっと俺の姿を下から上に流すように見据えながら。


「だが貴様、剣術と盾術の技能スキルは持っている筈だ。それも高等部にしては中々の高レベルと見たぞ」


 なんだって!? どうしてそれを!?

 まさか俺が入学式後に抜け出して聖堂に忍び込んだ時か!?


 どこかでアリシアに見られていたのか!?

 それで俺の鑑定情報を入手したってのか!?


 だったら、こいつ……相当前から俺に目つけていたことになる。


 中等部? いや、こんな目立つ女なんて知らねーぞ!


「安心しろ。用意させた武器には全て魔法で安全装置セフティーロックが施されている。したがって斬ることは出来ない。だが鎚矛メイスの要領で骨をへし折ることは出来るからな。覚悟しろよ」


「ぐっ、糞女が……」


 俺は奥歯を噛みしめて、アリシアを睨みつける。

 この女、得意の剣技で俺をボコるつもりだな。


 アリシアは変わらずの高圧的な態度を見せてくる。


「フン! その薄汚い口がどこまで叩けるかな? 決闘のルールは先に三回、相手の身体のどこかに攻撃を与えた者が勝者とする! 私が勝てば貴様を下僕としてこき使ってやるからな!」


「俺が勝ったら、二度と俺に近づくんじゃねぇぞ、いいな!」


 こんな危険な女が下僕に収まる器じゃねぇ。

 つーか、もう関わらないでくれってやつだ。


「いいだろう! では武器を取れ――」


 アリシアに促され、俺は武器を取る。


 あの女はお約束通りのバスタード・ソード。


 俺は片手剣であるブロード・ソードを右手と左手で一本ずつ握った。


 しかし俺が修得した『剣術Lv.6』は両手剣に限っての技能スキルだ。

 正直、二剣同時なんて使ったことはない。


 扱うなら本来、『双剣術スキル』が必要だろう。


 しかし、自分の特殊スキルの特色を考慮すれば妥当な武器でもある。



「兄さん……」


 不安そうに見つめてくる、メルフィ。


 きっと負けたら、また見限られるだろうなぁ……。


 だがしかし、俺は二度と負けねぇぞ!


 メルフィのためじゃない!


 俺自身の未来のためだ!!


 二度とも屈してたまるか!!!



 そうこうしているうちに、いつの間にか食卓テーブルと椅子か片づけられている。


 丁度、教師が三人ほど食堂に入って来た。


 三人のうち、一人はEクラスの担任であるリーゼ先生もいる。


「ま、まさか、私のクラスの生徒がAクラスの生徒と決闘だなんて……これは、Eクラス始まって以来の快挙です~! 頑張って~、クロックく~ん!」


 一人テンションを上げて、片手を振って両乳を揺らしながら何故か応援してくれる。


 だが、この先生が特別可笑しいわけじゃない。


 そもそも教師達は俺達の決闘を止めるために来たのではないからだ。


 決闘を正式なものとして見定める、言わば『審判員』である。


 このスキル・カレッジは、ただ和気あいあいとした学院ではない。


 『竜』と戦える士官や冒険者を育てるための養成所なのだ。


 したがって互いの腕を磨く意味でも、決闘行為は認められている。


 基本、殺し合いにならなければなんでもあり。

 教師達が口を挟むのはそこだけだ。


 その教師の中で端整な顔立ちで黒髪を後ろに束ねた若い女教師がいた。

 スタイルが良く、いつも双眸が閉じたように細いのでニコニコ笑っているように見える。

 彼女は『イザヨイ』というAクラスの担任である。

 なんでも和国から流れてきた居合術の達人だとか。


 もう一人、背が高く筋肉質でブラウン髪をぴっちり七三分けにして銀縁眼鏡を掛けた如何にも真面目で厳格そうな三十代くらいの男教師がいる。

 彼はこのスキル・カレッジの1学年をまとめる学年主任である『スコット』先生だ。

 至高騎士クルセイダーの称号を持つ、現役の国王直属の騎士でもある。



「リーゼ先生、止めなくて良いのですか?」


「えっと~、イザヨイ先生、どういう意味です?」


「ウチの生徒であるアリシア・フェアテールは伯爵家の令嬢であると同時に、幼い頃から剣才に恵まれ英才教育を受けていた生粋の女騎士。おまけに、レアリティSR級の特殊スキルを持つ、Aクラスでもウィルヴァに続く実力者ですよ?」


「へへ~んだ! クロックくんだって、クロックくんだって…………あれ? ねぇ、クロックく~ん、キミなんかいい所なかったっけ!?」


 リーゼ先生、恥ずかしいから聞かないでくれます?

 いちいち虚勢張らなくていいからね……。


 別に俺のことは気にしなくていいっすよ。


 もう髪の毛が白くなるほど、色々言われ慣れているわ。


 だが、それは五年後の未来の話。



 今の、この時代じゃ一味違うぜ――。



「もう、クソッタレ未来の俺じゃないってことを思い知らせてやる……」


 俺は呟き、アリシアと距離を置いて対峙する。


 互いに持つ、剣を構えた。


 学年主任のスコット先生が中央に立ち、俺とアリシアを交互に見つめる。


「これより学院規則に則り、アリシア・フェアテールとクロック・ロウの両者による『決闘』を開始する――では、初め!」


 スコット先生の掛け声と共に、アリシアとの決闘が始まった。


 ある意味、俺にとってはリベンジ戦ともいえる絶対に負けられない戦いだ――。






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