第5話 タイム・アクシス




 俺はスキル・カレッジを抜け出し、王都を歩いていた。


 まだ昼前だが相変わらず色々な種族達で溢れ喧騒に包まれている。


 人族は勿論、エルフやドワーフなどの妖精族、色々な獣の姿をした獣人族、サキュバスやデーモンなどの妖魔族など様々だ。

 

 まだ俺は制服姿なので、このままでは目立ってしまう。

 どこかで、この制服を売って必要な装備を整えるのが先決と考えていた。


 にしても、ミルロード王国は平和だ。


 しかし領土を越えると、沢山の『竜』が魔物モンスターを従え蠢いている。

 

 おかげで国交はほとんどなく、外交すらもままならない。

 だから俺が生まれてから国同士の戦争が起こったなんて聞いたこともないし、五年後の未来も争いは起こっていない。


 皮肉な話だが『竜』という脅威の存在がいることで、他種族間だけなく国同士の争いが抑止されているらしい。


 そんな背景から、『竜狩り』を生業とする冒険者が必要なのだ。


 俺も子供の頃はそんな英雄に憧れていたが、肝心の特殊スキルがハズレだったため、雑用係ポイントマンになっちまった。


 実際やってみりゃ、結構重要な裏方職な筈なのにどうも軽んじられてしまう。

 他の職種なんて戦うことしか能がないのによぉ。

 雑用係ポイントマンがいなきゃ、とても旅なんて続けられるわけねぇのに。


 あの五年後の未来でも、俺がいなくなって今頃焦っているだろうぜ。

 

 案外、日頃の雑用係ポイントマンへの虐待ぶりから殺人を疑われて大騒ぎになっているかもな。


 そうなればパーティは強制解散。


 リーダーのウィルヴァは勇者パラディンの称号を剥奪され牢獄行き。

 当然、あの女共も同じ処分を受けるだろうぜ。


 ……あれ?


 もうこれ、「ざまぁ」しているんじゃね?


 いや、待て……ユエルはどうする?

 あの子だけは可哀想だ。


 ……まぁ、仕方ない。


 どの道、俺は戻るつもりはない。


 クソッタレ未来……そしてスキル・カレッジにもな。


 第二の人生を満喫してやる!

 目指せ、スローライフってな!


 少なくても、この記憶と技能スキルがあればなんとでもなるだろうぜ。



 そう俺はニヤつき思いを巡らせている中。

 

 一人の幼女が馬車道へと飛び出した。

 どうやら手にしたボールを落としてしまい取りに行く様子に見える。


 だがタイミングが悪く、馬車が迫って来た。

 馭者ぎょしゃは慌てて手綱を引くも、そう簡単に馬が止まるわけがない。


「ったく、何やってんだ!」


 俺の身体が無意識に動いていた。


 横から飛びつき、走って来た馬に向けて両方の掌を同時に触れさせた。


 瞬間、馬の動きがピタッと止まる。

 大人しくなったわけじゃない。

 まるで馬だけの時間が止まったかのように、走る姿勢のまま停止したのだ。


 ――これが俺の特殊スキルだ。


 俺は今のうちにと、ボールを持った女の子を抱きかかえてその場を離れる。


 約10秒、馬車は何事もなく走り去って行った。



「ほら、気をつけるんだぞ」


「うん、ありがとうお兄ちゃん!」


 女の子は笑顔で手を振って無事に母親の下へ戻った。


 俺はその光景に安堵しつつ、深い溜息を吐く。


「……ふぅ、このハズレスキルもないよりはマシだな」


「――果たして、ハズレですかな?」


 どこからか声が聞こえた。


 俺は声をした方向を振り向くと、狭い建物同士に挟まれた場所でテーブルを置いて商売をしている黒いローブ姿の人物が手招きしていた。


 テーブルの上に水晶球が置かれている。


 どうやら、占い師のようだ。


「一つ占ってみては如何ですか? あなたのそのスキルを含めて」


 フードで顔は見えないが若い女性の声だ。


「占い師得意の鑑定か? 既に由緒正しい場所で鑑定している。レアリティEの名前もつなかいハズレだぜ?」


「まぁ、騙されたと思って」


「占い師が一番言っちゃ駄目な台詞だろ? じゃあな」


 こんな胡散臭い奴に関わっていられないので立ち去ろうとする。


「貴方、王立恩寵ギフト学院の生徒さんですね?」


「それが占か? そんなの制服みりゃ誰でもわかるわな」


「しかも抜け出して、これから隣国にでも行こうかという考えでしょうか?」


「……今時間、一人で王都をプラプラしてりゃ、それくらい勘づくよな? そんなの占いじゃねぇよ」


「自分の未来を探している筈……新しき未来、自由の世界」


「……胡散臭せぇ。だが少し興味出てきたぜ。しかし生憎金は持ってないんでね」


「いえ、寧ろこちらからお金を払いますよ。銀貨、いや金銀貨一枚でどうでしょうか?」


 占い師は言いながら、コインを見せてくる。

 (※金銀貨1枚で1万円くらいの価値)


「金銀貨? マジかよ……まぁ、金はあって損はねぇな」


 よりいい装備が購入できるだろう。

 ここは乗っかって損はない。

 適当に話をして、金を受け取りゃいいだけの話だ。

 

 俺は占い師に勧められるまま、用意した椅子に座る。


 占い師は水晶に手を翳している。

 黒い手袋をしている念の入りようだ。


「……貴方。これまで相当、女性に酷い目に遭わされていますね?」


 そのワードで、俺はギョッと目を見開く。


「え!? 嘘、わかるのか!? つーか未来での出来事なんだが……やっぱり、これからもそうなるのか!?」


「それは貴方の選択次第です。貴方には未来を変える……いや他人の運命さえも変える力がある」


「どういう意味だ?」


「――タイム・アクシス」


「なんだそれ?」


「貴方の特殊スキルの名前です。本当の――」


「《タイム・アクシス時間軸》……」


 俺が聞き返すと、占い師は「失礼」と言い腕を伸ばす。

 細い指先で、俺の額に軽く触れた。


 すると、目の前に薄緑色で半透明の板が出現し、そこに俺の特殊スキルの鑑定結果が表示されている。




…………………………

■鑑定結果


《特殊スキル》


スキル名:タイム・アクシス時間軸


能力者:クロック・ロウ


タイプ:効果型


レアリティ:SR



【能力解説】 

・対象者と物体に触れる、あるいは攻撃することで何か一つの『時間』を奪い操る能力。

・右手の攻撃で時間を早めフォワード、左手の攻撃で時間を巻き戻すリワインド効果を与える。

・両手同時攻撃で対象者の活動時間を約10秒~1分間停止させるストップ効果を与える。



【具体例】

・触れた相手を老いらせたり若返らせたりできる。

・長い時間、接触することで枯れ果てるまで老らせ、逆行させ無にすることも可能。

・相手の攻撃速度を操り、物体の落下速度も操ることができる。

・自分に対しても有効であり、動体視力・移動速度も向上でき、味方にも同様の効果を与えることができる。

・自身と味方の損傷やダメージも有効であり、攻撃を受けた以前の状態に戻したり、また回復を早めることができる。

・物体を破壊する前に戻す、また破壊される未来が確定しれいればその状態に速めることができる(腐敗、錆、破損状態を早める)。

・物体を元の位置に戻す、移動する結果まで先送りにする。



【弱点】

・対象に対して一度の攻撃で一回しか時間を奪う効力を与えられない。

・自身を含め一つの個体で、同時に別々の効力を与えることはできない。

(但し効力が解除、あるいは消失した状態であれば、もう一度別の効力を与えられる)

・既に生命活動を終えた者(完全に死んだ者)には効力を与えられない。

・液体に効力を与えることはできない。

(血液を失った場合、肉体が戻っても失ったままである)



 以上


…………………………



 何これ?


 レアリティ『SR』だって?


 最高ランクのスキルってことじゃねぇか!?


 嘘だろ!?



「……相手の時間を奪い操作する能力だと? これが俺の本来の特殊スキルだってのか!?」


 俺は鑑定結果を見て、目が飛び出でしまうくらい驚愕する。


ときの操者……」


「刻の操者? あんたは一体――」


 ふと占い師に目を向けると、そこに彼女の姿はない。

 水晶球も置かれてなく、ただ金銀貨が一枚置かれていた。

 

「……何者だったんだ?」


 俺は疑問を頂きつつ、コインを受け取った。




 それから薄暗い裏路地をうろつく。

 

 すると案の定、三人のゴロツキに絡まれた。


「おっと、ここから先は通行税が必要だぜ、学生の兄ちゃん」


「金が欲しいんだろ? いいぜ、ほれ」


 俺は金銀貨一枚を右手の指先で摘み差し出す。


「おっ!? こいつ話がわかるじゃねぇか!?」

 

 一人の男が右手に触れた瞬間――


「は、はにぃ(何ぃ)!?」


 筋肉隆々だった男は痩せ衰え、老人の姿になる。


「こいつの寿命時間を奪い老化を進めた――」


 今度は左手で男に触れてみる。


 男は若返り元の姿に戻った。


「テメェ、何かしている――おぎゃあ!」


 若返りすぎて、幼児から赤子になる。


「……なるほど鑑定結果通りだ。右手で時間を進ませフォワード、左手で時間を戻すリワインドって考えりゃいいんだな。んで、やりすぎると『枯れる』か『無』になる二択か」


 スキル能力を解除し、男を元の姿に戻した。


「なんなんだ、テメェは!? スキル使いか!?」


 怯えながら何か言ってくるが、俺は答えようとしない。


 ただひたすら自分の特殊スキル効果を試し考察する。


「んで、両方の手で触ると……一時的にそのモノの時を停止ストップさせる」


 男は俺に向けて指を差して大口を開けたまま動かなくなる。


「アニキ!?」


「安心しろ。動けないのはほんの数秒程度だ。すぐに戻る。その金銀貨はあげるよ、実験に協力してくれたお礼だ」


 俺は不敵な微笑を浮かべると、男達は金銀貨を受け取り「ひぃぃぃぃっ!」っと悲鳴を上げて逃げ去って行った。



「これが俺のスキル、《タイム・アクシス時間軸》! こりゃいい、ククク……凄ぇ、もうハズレや無能なんて言わせねぇぞ!」


 今まで、ずっと両手で攻撃していたから数秒の停止しか能力が発動しなかったんだ。


 きちんと理解すりゃ、相当恐ろしいスキルじゃないか!?


 だとしたらロング・ソードなどの両手剣じゃ駄目だな。

 片手ずつ持てるブロート・ソードかダガー系がいい。



 ――しかし疑問も残る。



 何故、スキル・カレッジの祭器で鑑定できなかったのか?


 それに、俺のスキルは『時間』に関係しているが、あくまで対象者や物体の時間操作だ。


 とても世界全体の時間を止めたり、過去の時代に戻る「タイムリープ」能力ではない。



 ――じゃどうして、俺はこの時代に戻ってきたんだ?



 ………。


 どうでもいいや。


「――どの道、これでもう俺は誰からも逃げる必要はなくなったってわけだッ!」






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【うんちくメモ】


◆特殊スキル


 神から与えられし恩寵ギフトであり、魔法とは異なる概念を持つ能力。

 超能力、特殊能力、異能力の類である。


 極わずかの知的種族達に生まれながら眠る能力であり、『スキル降臨儀式』などで覚醒する。

 稀に生まれながらにスキル能力に目覚めている者もいる。


 潜在スキルもその所有者の個性によって能力が異なっていたり、同系統のスキルを持っていたりもする。


 より個性的で希少なほど「レアスキル」としてエース扱いされている。



〇特殊スキルのレアリティ


 エラー / コモン / アンコモン / レア / SRスーパーレア



〇レアリティ順

 E<C<U<R<SR<???



〇スキルの系統別(大まかに区切られている範囲)


・強化型:自身の体、装備等を強化し変化させるスキル。


・効果型:自分自身、あるいは物体に触れることで何かしらの効果を与えるスキル。


・具現化型:決まった形のものを出現させ、自在に操作する能力が多い。


・放出型:肉体また物質から特殊な力を放出して操ることができる。



※但しスキルによっては、他の系統と重複したり判別が難しいスキルもある。




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