第4話 王立恩寵学院




 王立恩寵ギフト学院、スキル・カレッジ。


 それは世界中のあらゆる大国に設置義務化された「特殊スキル養成の学院」である。


 各地区に点在する「中等部」と王都に一ヵ所だけ設けられている「高等部」が存在する。


 国民である種族達の少年少女が12歳で適正検査を実施し、特殊スキルの適正が認められた者が義務教育である「中等部」へ入学し、その後の鑑定検査により特に才に秀でた者達を王都に呼び寄せ「高等部」に進学させ、より高度な英才教育を施す学び舎であった。


 あくまで『竜狩り』をするための育成機関だ。


 ちなみに鑑定検査なしに特殊スキルに覚醒した者は、メルフィのように飛び級で入学することもできる。


 卒業後はエスカレート式で国に身を置く王立士官や上級冒険者として名を馳せる者など様々だ。


 しかも学院での衣食住は一切が保障され学費も無料、最低限の生活が保障される手厚さがある。

 反面、将来を国に捧げ王国の安泰と国民の安全のために働き奉仕することも義務付けられていた。


 ――あの腐れ勇者パーティもその一環で結成されているのだ。


 んで、途中で抜けたり辞めたりすると、それまでの費用を全額返還や逃げ出せば叛逆者扱いされる恐ろしい面もあったりする。


 まぁ、上手い話には必ずそれに見合う対価が必要ってことだろう。


 そもそも、あの勇者パーティがまともだったら、別に俺だって最後までいても良かったんだがな……。




 入学式が始まる。


 俺は一学年のEクラス、メルフィはCクラスで並んでいる。


 特に高等部はクラスがA、B、C、D、Eの5クラスに別れており、特殊スキル能力や目指す職種によって分かれている。


 以下が、その分類と内容だ。



【Aクラス】

近距離戦闘型や強化スキルを持つ者。

・戦闘力に特化され、主戦で活躍できるエース。主に騎士、戦士、拳闘士など。



【Bクラス】

遠距離や隠密スキルを持つ者。

・弓使い、銃使い、戦闘面や狩人、盗賊、暗殺者など主戦のサポート役、また隠密行動に特化する。



【Cクラス】

後方支援型、回復スキルを持つ者。

・魔道師、神官など、あくまで肉体派ではなく知識系の職種、文官が多い。



【Dクラス】

創作や制作、戦闘に不向きのスキルを持つ者。

・一般人として道具屋や武器屋、建築関係、調理人、商人等々、名職人などで出世する場合が多い。他、軍専属職人など。



【Eクラス】

特徴のない、あるいは評価不明のスキルを持つ者。

・冒険者では雑用係ポイントマン。軍では一般兵より重要任務である斥候が多く、他は軍務の処理など。しかし実は索敵や情報収集に特化された側面もある。

また「特殊スキル」が見劣りする分、「技能スキル」で補う者もいた。



 補足だがA・B・Cのクラスは目指す職種が異なるだけで、主戦上での役割に差異はないとされる。

 そして、これら3クラスを総称して「対竜撃科」と呼ばれていた。



 ちなみに表向きは5クラスとも分け隔てなく差がないとされながら、学院内であからさまのカーストやスキル・ヒエラルキーが存在している。


 特に「Eクラス」の扱い最悪だ。

 軽んじられているというか、他クラスから異質な目で見られている。


 在籍しているだけで、『劣等生』と思われている節があるからな。


 考えてみりゃ、俺の不幸は既にここから始まっているんだと思う。



 そう思い返している中、一年生代表の挨拶で、Aクラスのウィルヴァが壇上に立ち言葉を述べていた。


 流石に五年後より少し若くも感じるが、あんまり変わらないようにも見える。

 この時代から、こいつは既にカースト最上位のエリート様だった。


 当時は別に気にしなかったが今見るとマジでうぜぇ……。

 だからと言って、俺から何かするってことはないけどな。


 あくまで無視と決め込んだ。


 俺はついでにっと、さりげなく他のクラスに視線を向けてみる。。


 Aクラスに、アリシアとセイラ……Bクラスにディネルースか。

 あいつらも、この学院にいるのは当然か……。

 ほとんど見た目が変わってないからゾッとする。


 当然、無視。


 Cクラスは、メルフィと……あの子がいる。

 

 ユエルだ。

 相変わらず清楚で華奢で可愛い。

 この子こそ、ほとんど変わってないかもなぁ。

 

 あの兄貴じゃなければ、こっそり恋文を渡して告白しているかもしれない。


 ……なーんてな。


 悪いが彼女も無視だ。

 何が悪いわけじゃない。

 あの未来を繰り返さないための処置だと割り切ることにした。


 せっかく過去の世界に戻れたんだ。

 二度と同じ運命を辿ってたまるか。


 だから今の俺にとって恋愛は……二の次でいいと考えている。



 ――それに俺には「ある思惑」が過っていた。




 入学式が終了し、俺は教室には戻らずこっそり抜け出し、ある場所へ向かう。


 聖遺物などが保管されている『聖堂』である。

 そこにある神器が奉っていた。


 俺は聖堂に忍び込み『探索スキル』を発動させ、あっさりとそれを見つける。


 ――スキル鑑定祭器。


 平べったい石版に手を翳すことで、その者が持つ能力やレアリティを表記させる神聖の祭器だ。

 俺は高等部へ入る前の鑑定検査も、この聖堂で行った記憶がある。


 んで無能力扱いされ、劣等生としてEクラス行きが決定したんだ。

 

 俺はどうしても今の自分の状態を知りたい。

 知らなければならないと思った。


 あの『声』の言う通りなら、俺は無能者なんかじゃない。

 何かとんでもない力が秘めているんじゃないか?


 そんな気がしてならないんだ。

 

 現に五年前の記憶だってある。

 

 ――刻の操者。


 一体それは何を意味するのか……。

 


 俺は早速、祭器を使ってみることにする。


 手を翳すと祭器は動き出し、石版が光り何かが表記された。




…………………………

■鑑定結果



名前 クロック・ロウ


レベル 13


性別 男


年齢 15歳


種族 人族


職種 雑用係ポイントマン


称号 なし



《技能スキル》

 野営Lv.10


 調理Lv.10


 索敵Lv.10


 暗視Lv.10


 探索Lv.9


 隠密Lv.9


 偵察Lv.8


 隠蔽Lv.8


 鑑定Lv.7(危険物、罠に限る)


 剣術Lv.6(両手剣に限る)


 盾術Lv.5




《特殊スキル》

スキル名 不明


タイプ 効果型


レアリティ E


【能力解説】 

 両手で触れた者、また剣で刺した者の動きを10秒ほど止められる。



以上


…………………………




 なんだよ、これ?


 レベル13って、もろ五年前に戻っているじゃないか?

 

 やっぱり特殊スキルのレアリティ『E』のまま何も変わってないぞ。


 ――しかしだ。


 何故か技能スキルは未来で修得したまま、この時代に引き継がれている。



 俺はニヤリとほくそ笑む。


「こりゃいい……技能スキルだけでも十分にやっていける。特に『野営』と『料理』がカンストしているのは助かる。冒険者は無理だとしても一般の職人として雇ってもらえるぞ」


 これなら他国に逃げたとしても問題ない。

 自分一人だけなら十分スローライフを目指せる。


 俺は入学式に参加しながら、ずっと考えていたんだ。


 ――こんな学院にはいられない。


 アリシア達に俺の存在が知られる前に抜け出してやる。


 既に奨学金も受け取っているので、途中の退学は多額な返金が必要だが関係ない。

 他国にさえ行けば逃げ切れる筈だ。


 幸い、『竜』のおかげで外交もままならない時代。


 これだけの技能スキルなら、地上に蔓延る『竜』を回避しながら隣国くらい簡単に忍び込める。


 よし! 今から脱走してやるぞ!


 下手に荷物を取りに行ったら足が付く可能性があるからな。

 少しでも気づかれるのを遅くするためにもこのままの方がいい。


 隠蔽スキルで必要な物を現地調達しながら足取りや痕跡を消してやるぜ!



 俺は意気揚々と、そのままスキル・カレッジを抜け出した。






───────────────────

【うんちくメモ】


◆技能スキル


 訓練や職種に応じて獲得できるスキルを「技能スキル」と呼ばれ、各スキルにレベルが存在し高いほど熟練度が高いとなっている。

 潜在スキルと違って修行次第で幾つでも修得することが可能である。

 但し職種によって得られにくいスキルがあるのはやむを得ない。


(例『剣術:Lv.1』『炎系攻撃魔法Lv.10』など。尚、Lv.は1~10の十段階まである)






──────────────────


お読み頂きありがとうございます!


もし「面白い」「続きが気になる」と思ってもらえましたら、

どうか『★★★』と『フォロー』のご評価をお願いいたします。



【お知らせ】


こちらも更新中です!


『今から俺が魔王です~クズ勇者に追放され殺されたけど最強の死霊王に転生したので復讐を兼ねて世界征服を目指します~』

https://kakuyomu.jp/works/16816452218452605311



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る