力持ち
生太
第1話
私はよく「君は重い」と言われる。 でも、それは体重の話ではない、と思う。
どちらかと言えば小食で、スタイルも悪くない。自分ではそう思ってる。
だけど、そんな私は男性からすると、とても重いらしい。
男性と言っても、私が「重い」ことを知っている男性はそんなに多くはない。
私だって、そんなに多くの男性を知っているわけじゃない。
ハグした時、思い切って飛びついた時は、みんな笑って受け止めてくれる。
それなのに、最後の言葉はいつも決まって「重い」だった。
付き合ってすぐの時は、みんな力持ちだったのに。
6つに割れた腹筋を持った人、自称腕相撲無敗の人、そんな人達も結局私のことは支えられないって。
「その筋肉は何のためにあるの?」と聞きたくなる。
わかってる、そういうことじゃないよね。
わかってるけど、好きなんだからたくさん甘えたい。
会えない日は寂しくて、今日会ったって明日も会いたい。
ごはんもお風呂も寝るのだって、全部一緒がいいに決まってる。
お揃いの服を着て、どこへ行くのも一緒がいい。
お揃いの指輪をつけたこともある。 いつか左手の薬指につけることを想像したりして。
そんなの当たり前だと思ってたし、あの人達も、「そんなの当たり前じゃん」って顔してた。
女の子に「重い」なんて、普通ならあんまり言わないと思う。
普通ってなんだ?とは思うけど、普通は普通だし、それ以上に私は私だし仕方ない。
でも、「重い」って言葉は何度言われても慣れることはない。
私にとっては本当に重いのはその言葉で、ただ悲しくて、その言葉がいつまでも残ってて、いつの間にか、それが私をさらに重くする。
「重くない女」になろうって考えたこともある。でも、どうしたらいいんだろう。
一生1人でいるのがいいのかな。
結局いつもそう考えてしまう。 この極端な考え方が、私が「重い女」である1番の理由な気がする。
でも、そんな私の前に1人の男性が現れた。 彼は細身で、身長も、そんなに大きくない私とほとんど変わらない。 もちろん大事なのは見た目じゃないけど。
彼は、私が重いことを知る久しぶりの男性になった。
私は、感情がわかりやすく顔に出る。 彼は、そんな私を見ていつも笑う。
寂しそうな顔をすると、笑顔で抱きしめてくれる。
怒った顔をすると、「ごめんね」と言い、やっぱり笑顔で、頭を撫でてくれる。
この人といると、私ってそんなに重くない?と思えてくる。
不思議と、この人ってすごい力持ち、とは思わない。
思い切って聞いてみる。 「私、重くない?」
すると彼は、「重い?わからない」と、また笑った。
私は今までのことを話した。 重いと言われて、男性と長続きしなかったこと 本当はもっと甘えたくて、寂しいこと。
すると彼は、「そういう話なら僕だって君に負けないぐらい重いと思うよ。それこそ君をぺしゃんこにしちゃうぐらいにね」と言い「フフッ」と、少し声を出して笑った。
私は今まで我慢してた分、思いっきり飛びついてやろうと思った。
彼は細い腕に小さな力こぶを作り、笑った。そして「おいで!」と言って手を広げた。
でもその後、少しびっくりしたような顔をして、私の目元を服の袖で拭った。
私は思いっきり彼に飛びついた。 彼は支えきれずに倒れてしまった。
私は、少し痩せようかな、と思った。 でも思っただけ、彼は私が思っていたより何倍も「力持ち」だ。
私の下で潰れそうになっている彼は、今までで1番の笑顔だった。
力持ち 生太 @edazima
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます