第11話  おじさんに

 「こんにちは、人間の子供たち。ようこそ私たちの国へ、おいで下さいました」


 王子は、いつもの凜とした威厳は、どこへやら。ひたすらゴロゴロと、母親に甘えている。


「さて、魔法の国を訪ねられたのは、私たちのヒゲが、欲しいということですね」


 女王は、僕と琴美ちゃんを見比べた。


「もう必要ないのでは?」


 僕と琴美ちゃんは、顔が、真っ赤っかになったが、僕は、言った。


「おじさんに。僕の大切なおじさんに、持って帰ろうと思います」


 琴美ちゃんが、続けた。


「もうひとつは、私の母さんに」


 僕たちは、昨夜、たき火の前で、おじさんと琴美ちゃんのお母さんは、学生時代にお互いを思いあっていたのではないかと、話し合った。


 琴美ちゃんへの思いは、切実だったが、僕は、おじさんに幸せになって欲しかった。


「おじさんは、昔から僕を可愛いがってくれました。

 僕が持つどんな疑問にも、一緒に考えてくれて、答えが出るまで粘り強く導いてくれました。

 出かける時は、どんなに忙しくても、卵焼きのお弁当を作ってくれた。

 僕は、おじさんに幸せになって欲しい」


 白銀に輝く毛皮の女王。おじさんの学生時代からの思いを叶えさせてあげたくて、僕は、熱くなりすぎた。


「今だって僕の初恋を成就させるために、琴美ちゃんと両思いになるために。魔法のヒゲを手に入れるまで、真夜中の山の中で待っていてくれています」


 どさくさに紛れて、つい、言ってしまった。


「私もお母さんに、幸せになって欲しい。私が生まれてすぐに、父が、亡くなってしまって、ずっとひとりで苦労してきた母さんに、もう一度青春を取りもどしてほしい」


 なぜか、琴美ちゃんは、僕の言葉をスルーした。


「では、これを」


 奥まったドアが開き、ネコの王子様よりも強く輝く黄金の毛皮を持ったイヌが現れた。


「僕の妹です」


 ネコの王子が、言った。


「私のヒゲと兄のヒゲの組み合わせは、恋愛魔法としては、最強です。ただ、この組み合わせは、全ての障害を乗り越える代わりに周囲の人たちの恋愛も吸い取ります」


 王子様の妹のニコルは、謎の様な説明をした。

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