第7話  美味しい卵焼き

「それは、聞いていないわ。あら、着いたわよ」


 暗くなる前、といっても、今日は満月だけど、4人で、お弁当を食べた。


 琴美ちゃんのお母さんが、作ってきたお弁当は、おにぎりや卵焼きは、とても美味しかった。


「似ている」


 僕は、よく似た味を思い出した。


「あら、どうしたの?直人君のお口に合わなかったかな?」


 母さんの声は、琴美ちゃんの声をさらに優しくしたようだ。


「いえ、この味、おじさんが時々、僕に作ってくれる卵焼きに、似てます」


「昔、私が、直人君のおじさんに、よく作ってあげたもの」


「おばさんは、おじさんとサークルで、一緒だったの?」


「そうね。サークルもね。おじさんは、とても熱心な学生だったの。ところがね、ある日から、学校に出てこなくなって、様子を見に行ったのよ」


 琴美ちゃんのお母さんは、とても可笑しそうに笑って、続けた。


「心配して、様子を見に行くと、何とお腹がすいて、動けなくなっていたの」


 琴美ちゃんとお母さんは、大爆笑した。僕は、開いた口が、ふさがらなかった。


 慌てたお母さんは、食べ物を買って来て、おじさんに与えたそうだ。


 すぐに、おじさんを自分が、所属していたサークルに誘い、時々、おじさんに、お弁当を作ってあげていたらしい。


 数学オタクだったおじさんが、魔法というおよそ縁の無い世界に、夢中になったのは、それかららしい。


 「あれ?」


 もうひとつ食べようと思っていた卵焼きが、無くなっていた。

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