第4話  小さな滝

 おかしな事になった。


 3人連れで、山に来ている。魔法の国の入り口を探すためだ。魔法の国へ行く目的は、僕の初恋を成就させる事なのだが…。


 そのお相手の琴美ちゃんも入り口探しに、仲間入りした。


「え~と。どこから探せばいいの?」


 そんなに深くないこの山は、5分も歩くと頂上まであと少しだ。


 3人の格好だって、とても登山の姿とは、言えない。琴美ちゃんは、デニムのパンツとトレーナーにカーディガン。足元は、スニーカー。買い物帰りだから当然だ。

 僕とおじさんだって、足元は、同じくスニーカー。やはりデニムのパンツと僕は、黄色いチェックのシャツに、ウインドブレーカー。おじさんは、ティーシャツの上にフリースという軽装だ。


 春の陽射しは、そんな僕たちでさえ、汗ばむくらいきらめく。


「魔法研究の本には、風のない満月の夜。千の月を映し出す水面に、扉は開かれると記されているらしい」


「なに、それ。風が無いということは、波も無いじゃない。それでも月をたくさん映すのね」


「そうなんだ。おじさんの魔法研究だから、あまり、あてにならないかも」


「風以外が、波を作っているのかしら」


 盲点だった。確かに風以外にも波は作れる。


「おじさん。この山に滝が、あったよね」


 おじさんもピンと来たようだ。


「そうか、滝か。確か小さな滝が…、ウグイスの滝だ」


 僕たちは、その山の裏手にある小さな、通称ウグイスの滝と呼ばれる滝に向かった。その滝は、道から少し外れて下って行くと小さな滝つぼが、精一杯水を湛えていた。


 春のそよ風も周囲を囲まれているので、それほどの影響も無かったはずのに、水の落下と流れの中で波立っていた。


「小さな滝だけど、ここなら風が無くても大丈夫」


 おそらく、この場所だろうと、おじさんもうなずいた。


「しかし、ここに満月の光が届くのは、ごく、僅かの時間しかないだろうな」


 確かに周囲を見回すと、降りてきた道と流れだしの方向以外は、山や木々に囲まれている。果たして月の光が入る事が、出来るのか疑問に、感じる。


「まあ、満月の夜。一度来てみるしかないね」


おじさんの結論に従うしかなかった。

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