第十一話 幸せな日常

 幸せに気づく時は、いつも後になってからだった。


 ◇  ◆ ◇


「怨霊ってさ、死んだ人の怨念が具現化したものなんだよね?」

 いつだったか、姉にそう訊ねたことがある。私が討魔師になる前だったから、最低でも半年以上は昔だ。祖母による厳しい訓練の後、何気なく姉の部屋に入り浸っていた時のこと。

 質問というよりも確認であるそれに、姉は首を傾げだ。

「そうだけど……どうして?」

「なんか、急に気になったの」

 私自身、どうしてこんな質問をしたのか、なぜ急に気になったのかは思い出せない。ただ、聞かなければならないと思った。それだけは確か。

「死んだ人の怨念が具現化するなら、感謝の気持ちとか、あとはその人自身が現れることは無いのかなって思って」

 それは、何も知らないなりに考えた、私の純粋な疑問だった。

 昔から教えられてきた、討魔師の使命と討つべき敵のこと。生者に害をなすから、怨念から生まれた敵を討たねばならない。人が死ぬと必ず生まれるから、討魔師の戦いに終わりは無い。幼い頃から何度も言われてきたことだし、私自身そういう物だと思っていたが、少し報われなさすぎるように思えたのだ。

 姉はしばらく私を見詰めていた後、目を逸らした。そして、静かに口を開いた。

「……そうだといいよね」

 今思えば、それは姉の強い願望も込められていたのかもしれない。二人の先輩を亡くした彼女の、どうしようも無い祈りの果の返答だとしたら。何も知らなかったとはいえ、あまりにも酷な質問をしてしまった。できることなら過去に戻って自分を殴りたい。

 私自身、浅野先生が現れてくれたら良いのにと思う。あの日、怨霊以外の形で目の前に姿を現していてくれたら。死なないで欲しかったけど、せめて、物語に出てくるような善良な幽霊であってくれたら。そうしたら、最後にお別れくらいは言えたかもしれないのに。いい思い出とまではいかなくても、思い出す度に苦しまなくて良かったかもしれないのに。

 浅野先生を、斬らずに済んだかもしれないのに。

 死んだ人の痕跡が、怨霊以外で出現することは無い。生霊も死霊も守護霊も、物語で描かれるような霊的存在は実在しない。どれだけ強く望んでも、生を終えた恩師が声を掛けてくれることもない。

 十分に理解はしている。それなのに、私は祈ってしまう。もう一度姿が見たい、最後に一度だけ言葉を交わしたいと。あの日の五感の記憶と共に、切なる祈りが膨れ上がる。


「……詩月、大丈夫?」


 人の少ない墓地に、心配を孕んだ声が響く。肩に柔らかい感触が触れる。ふと我に返って隣を見ると、凛子が下がった眉でこちらを覗き込んでいた。

「やっぱり、もう少し落ち着いてから来た方が良かったんじゃ……」

「……ううん、大丈夫」

 深く息を吸って、一歩踏み出す。火のついた線香を起き、先生の冥福を願って手を合わせる。

 蘇る、数多の記憶。

 胸を締め付ける、やり切れない感情。

 込み上げてくる、熱い雫。

 全てを押し殺し、私は目を開けた。

「お待たせ。それじゃ、行こっか」

 凛子はとっくにお参りを終えている。随分待たせてしまったことを申し訳なく思いながら言うと、彼女は静かに頷いた。

 もう一度だけ二人で手を合わせてから、墓前を離れる。肌に触れる風はまだ冷たいけれど、遠くに春の匂いが秘められている気がする。

 秋も冬も、寒さが厳しかった。せめて暖かい春になってくれたらと思う。桜前線が報じられるようになるのも大分先だというのに、暖かな季節を夢想する自分がいた。気が早すぎるな、と我ながら笑えてくる。

 歩きながら、ふと誰かに呼ばれたような気がした。振り返っても誰もいなかったし、凛子に訊ねてもそんな声は聞いていないと言う。私の勘違いだろう。きっとそうだ。そうとしか考えられない。

 ――尊敬する恩師の声にそっくりだったなんて、そんなことある筈ない。


 ◇ ◆ ◇


 季節の中で、春が一番好きだ。陽射しは柔らかくて、肌を撫でる風も優しい。不安も怒りも悲しみも、全てを等しく包み込んで優しく浄化してくれる。目に映る景色が鮮やかに彩られる、この季節が愛おしくてたまらない。

 今年の訪れはまだまだ先の、大好きな季節。その中でも特に大切な記憶は、私が小学四年生だった頃の出来事。


 姉が中学生になってからというもの、それまでとは生活サイクルが大きく変化した。授業コマ数は六限から七限までになり、通学も徒歩から電車通学に切り替わった。自然と顔を合わせる機会も減り、勉強が忙しいとかで姉が私の部屋に来ることも減り、少一人でいる時間が増えた。

 姉に依存していた訳では無かったし、自分一人でもやるべき事はきちんとこなせた。友達はいなかったけど、それは姉と一緒に通っていた頃と変わらない。二人で過ごす時間が少なくなったことが、唯一にして最大の変化だった。

 鍛錬と夕飯の時にしか顔を合わせなくなった私達は、次第に疎遠になっていった。姉妹で疎遠というのもおかしな話だけれど、そのくらい接点が無かった。

 それを良しとせず、声を上げたのは姉の方だった。

「詩月、出掛けるよ!」

 それは、姉との接点が減って最初の春休みのこと。ある朝突然自室に押し掛けてきたと思えば、有無を言わさず家から連れ出された。

 どこへ行くのかと訊ねても「着いてからのお楽しみ」としか返って来ず、塾の課題が終わってないと言っても「そんなの何とかなるよ」との返事。手を引かれるがままに改札を通り、電車に乗り、座席で並んで揺られていた。後になって両親と祖母の了承を得ていたのだと言われたが、そうとは知らないこの時の私はひたすら冷や汗を流していた。勉強と鍛錬をさぼったことの代償が頭を過り、落ち着いて車窓の景色を眺める余裕も無かった。

 が、それも目的地に着くまでの間だけだった。

「わっ、凄い……」

 その光景を目にした時、私は思わず声を漏らした。

「詩月にどうしても見せたいって思ったの。こういう場所好きだよね?」

 得意げに笑みを浮かべる姉の髪に、薄桃色の花弁が一枚舞い降りた。髪の色に映える花弁は、大好きな季節の訪れを物語っていた。

 私は周囲を見渡した。家族連れや学生達で賑わう自然公園には木々が生い茂り、満開の桜が辺り一面を鮮やかな色に染め上げていた。

 どこもかしこも春の色。芝生の瑞々しい若草色と、幹の艶やかな焦茶色。そして、咲き誇る桜の薄桃色。澄み渡る空の青に映えるこれらの色が、春風に乗って私の中を吹き抜けた。日頃苛む暗い感情全てが、春の爽やかな色に塗り替えれた。

「うん、好き」

 見蕩れながら答える。夢の中を揺蕩うような、温かで穏やかな心地だった。

 自然豊かな環境は昔から好きだった。木漏れ日に微睡むのも、陽を浴びて輝く花を眺めるのも、風に吹かれるのも、空の移り変わりを目に映すのも。不出来で暗い性格の自分でも、自然に触れている間は全て忘れていられる。悩みも何もかも浄化されて、穏やかな気持ちになれる。明確に話したことは無かったけれど、姉には全て分かっていたらしかった。

 夢心地で景色を眺める私の手を、優しい感触が包み込む。そして、引かれた。

「この辺の飲食店は一通り調べてあるんだ。最近全然話せてなかったし、ご飯食べながらいっぱい喋ろ!」

 耳に届く明るい声は、麗らかな春の日をそのまま落とし込んだようだった。

 姉と関わる時間が減っても、さして変化は無かったと思っていた。けど、この時手を引かれて分かった。私も、姉と過ごす何気ない時間が好きだったのだと。友達もいなくて娯楽も少ない生活の中で、空を眺める時間と同じくらい姉との時間が癒しであったのだと。

 これは、凛子と出会い、私達が御役目に就く前の出来事。大好きな季節にまつわる、一番大事な記憶だ。


 ◇ ◆ ◇


 元担任のお墓参りを終え、私と凛子は寺を出た。境内に植えられた木々が風に揺れ、かさかさと音を奏でる。冬の寂しげな空に吸い込まれるように、枯葉が宙を舞って行く。

 住宅街を抜けた先にあるこの寺は、そこまで大きくはないものの荘厳な空気を纏っている。地元であるこの場所で眠れることは、ひょっとしたら浅野先生にとっての救いなのかもしれない。学校からもそれほど離れていないのが引っ掛かるけど、わざわざ知らない土地に行くよりは良いのだろう。今となっては彼女の思うことは分からない。せめて、その眠りが安らかなものであって欲しい。

 現在の時刻は午後一時過ぎ。課題は全部終わっているし、鍛錬にはまだ時間がある。陽が出ている間は御役目が回ってくることもないだろう。

 どこかでお昼食べていこうか。と隣を歩く親友にそう声を掛けようととした時、彼女は不意に歩みを止めた。

「どうしたの?」

「あいつ……」

 一点を見詰めたまま、凛子は前方を指さす。指し示す方向に目を向け、私は目を見開いだ。

 横断歩道の向こうに、信号機に寄りかかってスマホをいじる人影が。

「あれ、司?」

 思わず声が出た。

 私の声に気が付いたのか、司は徐に顔を上げる。そして、首だけでこちらに頭を下げた。

「ちょっと司、なんでいるのよ」

 凛子は弟の元に歩み寄り、不服と怪訝を織り交ぜたような声を上げる。少し遅れて追い付くと、司は呆れたような表情を浮かべていた。

「俺だって好きで来た訳じゃねぇよ。けど、放っておいたら詩月さんに迷惑が掛かるからな」

 言うやいなや、彼はポケットから何やら取り出し凛子に手渡した。

「昼飯でも食いに行こうって時に、一文無しでどうするつもりだよ?」

 溜め息と共に紡がれた言葉に、凛子は「ぐっ」と声を発した後硬直した。彼女の手の中には、学校でも度々目にする可愛らしい財布。司が今しがた手渡した物であることは明白。

「ここまでの電車賃は定期使ったんだろうけど、だからって気付かないなんてことあるか? せっかくチャット送ってやってんのに気付かねぇし」

「煩いな。気付かなかったものは仕方ないでしょ?」

「んだよその言い方。せっかく持って来てやったのに」

「それは……」

 言葉が途切れ、僅かな間が生まれる。数秒目を泳がせた後、凛子は口を開いた。

「……ありがと」

「良し」

 小春日和の柔い風が、ふわりと辺りを吹き抜けた。

「じゃあ、私と詩月はお昼食べて帰るから。司は先に帰ってて。財布のお礼はいつも通りコンビニスイーツでいい?」

 凛子はひらひらと手を振り、財布を鞄にしまいつつ問う。司はその行動に眉をひそめると、凛子の鞄から財布をひったくった。

「ちょっと、何すんのよ!」

「ここまでの手間賃が、せいぜい三百円かそこらのスイーツ一個な訳ねぇだろ」

 すると一切の躊躇無く財布を開き、中身を確認する。「千、二千……」と声に出しながらお札の枚数を数え、満足げに頷いた。

 その表情は、今まで見たどんな顔よりも意地の悪い顔。

「これだけありゃ十分だな。よし、行くぞ」

「十分って何がよ。というか財布返しなさいよ!」

 凛子は司に手を伸ばすが、自分よりも明らかに長身の相手には敵わず躱される。ぴょんぴょん飛び跳ねる彼女の姿は、まるで兎か小さな子供のようで。凛子には悪いと思いつつも、思わず吹き出してしまった。

 そこに届く、明るい声。

「良かった、やっと笑った」

 えっ、と顔を上げた。同時に視界に入り込む財布を、私は反射的に手に収めた。

 差し出してきた張本人である司は、私を見て笑みを浮かべている。直前までのそれとは違い、陽の差すような純粋な笑顔。それを視界に捉えた時、胸の奥に柔らかな温もりが広がった。

「詩月さん、今日会ってからずっと暗い顔してたっすもん。学校でも元気ねぇって姉貴から聞いてたし。ちょっと安心しました」

 ふっと綻ぶように笑う司が、なぜだかとても眩しく見えた。昼の陽射しが照り付けているからだろうか。春にすらなっていないのでそれほど強くない筈だが、不思議なこともあるものだ。

 司と対峙していた凛子もこちらを振り返り、安堵したような穏やかな笑みを浮かべた。が、直ぐに弟に向き直る。

「それとこれは別! 用がないなら早く帰りなさいよ!」

「無い訳ねぇだろ。むしろ用しかねぇわ。財布届けてやった代わりに昼飯奢れ」

 再度悪意の籠った表情になった司は、自分の姉に向けてそう言い放つ。当然、不満の声が上がらぬ筈もない。

「はぁ? いくら何でも図々しすぎるわよ。あんただって定期あるんだし、ここまで電車賃掛かってないでしょ? コンビニのケーキとチキンで十分よ」

「休日返上駆け付けた可愛い弟にその程度で済ませるなんて、人の心がねぇな」

「誰が可愛い弟よ!」

 司が挑発し、凛子が怒りを滲ませる。さっき渡された彼女の財布を手にしたまま、私は二人を眺めることしかできない。止めに入ろうにも方法が浮かばないし、どちらに味方をしたらいいのかも分からない。そもそも止める必要があるのかも釈然としない。

 そんな私を見て、気を使ってくれたのだろうか。司はニヤリと笑って駅の方を指さした。

「詩月さんは先に行ってて下さい。前にテレビでやってた美味そうな店があるんで、その財布で好きに食っててもらえれば」

「いや、それは流石にできないけど」

 首を横に振るのと、凛子から悲痛な声が上がるのはほぼ同時だった。

「ちょっと、あんたの言うそのお店ってハワイのハンバーガーチェーン店でしょ!? 私達だけでそんな所行ける訳無いじゃない!」

 凛子の言葉に、私もかつて見たグルメ番組を思い出す。肉厚で肉汁に溢れたパティを、バターたっぷりのパンと新鮮な野菜で挟んだハンバーガーは、リポートをしていた芸能人も大絶賛だった。その代わりに値段もそれ相応だった筈。間違っても、中学生が気軽に入れる金額では無かった。

 しかし、司はきょとんと首を傾げるばかり。

「何言ってんだよ姉貴。セットでも一つ千五百円かそこらだぞ。財布の中に五千円あるんだから、三人前くらい余裕だろ」

 彼の口から飛び出したのは、あまりにも横暴な物言いだった。司には悪いけど、流石に凛子の肩を持ちたくなった。

「何それ、ワンコインしか残らないじゃない! というか奢らないわよ!」

 親友の口からは、至極真っ当な返答が出る。しかし、それを一切気にする素振りのない彼女の弟。

 あからさまに不機嫌そうな表情を浮かべると、吐き捨てるように言った。

「んだよケチくせぇな。詩月さんもいるし、美味い飯も食えると思ってわざわざ来たのに」

「結局好きで来たんじゃない。それと、人の親友をダシに食事をたかるな!」

「ダシにはしてねぇよ!」

 売り言葉に買い言葉。どちらかが文句を言う度に、もう片方も言い返す。言葉の応酬が途切れることなく続き、双方の眉間に皺が寄る。これは終わらなさそうな予感。

「キリがないし、そろそろ移動しない? お腹空いてきたんだけど……」

 ようやく出せた言葉も、白熱する二人にはほとんど届いていないようだった。


 結局、私達は駅前のファミレスに入った。手頃な値段で学生人気の高い店ではあるが、結局弟の分を奢らされた凛子は頭を抱えていた。

 ふと、過去に姉と桜を見に行った時も、同じようにファミレスに入ったことを思い出した。公園近くの店で窓際の席に通された私達は、それまでを取り戻すように思い切り話し込んだ。窓の外に見える桜が、眩しくて美しかったことをよく覚えている。あの時間は本当に楽しくて、幸せだった。

 今も昔も、大好きな人と言葉を交わし、食事を取れる。何気ないようで掛け替えのない時間は、確かに存在していた。


 ◇ ◆ ◇


 見上げると、あの日みたいに雲一つない空が広がっていた。あの日と違って夜なので、青ではなく黒で染め上げられているけれど。

 明るい色の代わりに煌めく幾つもの星が、私の視界に光を与えた。スローモーションのように移りゆく景色に、彩りをくれた。

 握っていた筈の太刀は、一体どこに行っただろうか。ひょっとしたら手の中にあるのかもしれないし、遠く離れた位置に転がっているのかもしれない。確かめたいところだけれど、手の感覚が無いのだから仕方ない。

 空だけが映っていた視界には、徐々に他のものも映し始める。それは民家の屋根であったり、街灯であったり、人間そっくりの敵であったり。

 こうなることが怖くて仕方無かった筈なのに、今や何も感じなかった。脳内麻薬が分泌されているのかもしれない。昨日学校で受けた凛子の忠告を守れば良かったな、なんてぼんやり思うけどそれだけだ。

 ああ、でも。一つだけ、心残りがあるとすれば。


 ――お姉ちゃんと、春を迎えたかったな。


 ◇ ◆ ◇


 幸せに気づく時は、いつも後になってからだった。

 小学校を卒業して初めて、あの空間がいかに楽しい場所であったかを知った。討魔師になって初めて、それまでの鍛錬が生温いものであったかを知った。大切な先輩達を喪って初めて、共に戦う人がいる幸福を痛感した。

 そして。


 眼前の怨霊と対峙して初めて、自分の心が完全には壊れていなかったと知らされた。


 怨霊退治を躊躇う感性なんて、とっくの昔に無くしてしまったと思っていた。二ノ宮紫織の怨霊を斬ったあの日から、自分の心は砕けてしまったのだと。人間として大切な気持ちを、自分は失ってしまったのだと。彼女は、ずっとそう思っていた。

 しかし、現在彼女を取り巻く恐怖と絶望は、確かに彼女の身を震わせている。握った薙刀の穂先は揺れ、地面を踏みしめる両足も痙攣している。彼女の心は正常なのだと、この上なく証明していた。


「ひ、陽菜実さんっ!」


 彼女の背後で、羽純凛子の悲鳴が上がる。

その理由は、考えるまでもなく分かっていた。悲鳴を上げたいのは、陽菜実も同じだった。


 ――大丈夫。あれは偽物。殺しても大丈夫。むしろ殺さなければならない存在。


 彼女は深呼吸をし、正面を見据える。

 全身は依然として震えており、冷汗も滲んでいる。呼吸も乱れに乱れていた。

 それでも、逃げることは許されない。他でもない彼女自身が許せない。


 ――殺さないと。殺してあげないと。彼女が誰かを手に掛ける前に。彼女が、本物の人殺しになってしまう前に。


 彼女がどれだけ怯え、苦しみ、絶望に苛まれていようとも、薙刀は白く輝いている。満月の光を照り返し、冷静で残酷な色に。

 その色は、彼女の成すべきことを無慈悲に命じてようだった。


 降り注ぐ月光の下で、妹の姿をした怨霊を滅しろ、と。

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