第8話 決戦


連載戯曲

『あすかのマンダラ池奮戦記⑧ 決戦』





 上手の藪から、あすかが飛び出してくる。手には件のメモリーカードとコントローラーを握って。 


あすか: 言ったじゃないか、神を信じろって! 

イケスミ: あすか!?

フチスミ: あすかさん!?

あすか: 今のは威力偵察なんかじゃない。本格的な攻撃の陽動作戦に過ぎない。主力は南よ! 南に何か途方もなく禍々しい化け物が潜んでここを狙っている。獣道を通っても、ひしひしと感じたよ!

イケスミ: ほんとうか!?

フチスミ: そのとおりよ。北に気をとられすぎていた……南に化け物……動き始めた!

あすか: 話は聞いた。消えかかっているんでしょ、イケスミさん。もっかいやろうよ。ほら、コントローラーとメモリーカード!

イケスミ: いいのか? 今度は命にかかわるぞ……?

あすか: 賢くなったの。二人を見殺しにしても、あの南の化け物は、あたしを認識している。ここをあっさりかたずけたあと、きっとあたしを殺しに来る。知りすぎてしまったかから。そのためには、もっかい依代になって戦ったほうが生き残れる可能性が高い。そう計算できるほどにね……って理屈つけたら納得してくれる?

フチスミ: アスカさん……

あすか: さあ、コントローラーを持って! あたしはメモリーカードを……え!?

イケスミ: どうかしたのか?

あすか: これ、ドラクエⅧ「空と海と呪われし姫君」のメモリーカード……鞄の中でごちゃになったんだ……これは、ラチェットアンドクランクⅢ……ファイナルファンタジー……メタルギアソリッドスリー……おっかしいなあ……

イケスミ: 度はずれたゲーマーだな……

フチスミ: だめ、もう、間に合わない!


 ゴジラの咆哮のような禍つ神の叫び声が聞こえる。


あすか: あいつよ、南側に潜んでいた奴!

フチスミ: 並みの禍つ神ではない……いずれの荒ぶる神か?

イケスミ: ……あれ、轟八幡だよ。ほら、あの頭の鳥居。

フチスミ: え、この国の二ノ宮の……(神の咆哮)なんとあさましいお姿に……

イケスミ: 人間が、よってたかっておもちゃにしちまったんだ。駐車場の経営から、貸しビル、株の売買にスーパーの経営、観光会社に、このごろじゃ専門学校から塾の経営まで手を出しているって話だよ。

あすか: お母さんの言ってた轟塾!?

イケスミ: この国の人間は、思いやるって心を失ってしまったんだ。人に対しても、神さまに対しても、自然や何に対しても……祖先から受け継いだ夢も誇りも恐れも忘れ果てたアホンダラにな!

フチスミ: 感想言ってる場合じゃないわよ。

あすか: ね、あたしにもやらせて! こう持つの?(百連発の大筒を両脇に抱える)

フチスミ: だめ、普通の人間が持っていたって、ただの竹筒……

あすか: そんなのやってみなきゃ……(引き金を引いた気持ちになる。両脇から百発ずつの鬼の殺気のミサイルが飛び出す。反動でニ回転半ひっくりかえる)

イケスミ: あすか……おまえって……

フチスミ: 動きが止まった……

イケスミ: ちょっと驚いただけさ、じきに……ほら動き出した(神の咆哮と地響き)

あすか: くそ!

フチスミ: 撃つしかないわ、最後まで!

イケスミ: 撃て撃て撃て! 撃って撃って撃ちまくれえええええええええええええ!!


 三人しばらく撃ちまくる、地響きしだいに近くなる


イケスミ: 弾が少なくなってきた……

フチスミ: そろそろ桔梗とあすかちゃんを解放してあげたほうが……

あすか: やだ! ここで逃げんのはやだ!

イケスミ: あたしたちは踏まれても死なないけど、あんたたちは死ぬんだよ!

フチスミ: 桔梗も離れようとしない!

あすか: やだ! もうわけわかんないけど、やだ!!




 ブーーーーーーーーン ドカッ!!


 この時、大きな白い矢がとんできて、轟八幡の胸板を射抜く(音と演技だけで表現)大音響とともに轟八幡が倒れる気配。


フチスミ: オオミカミさまだ! オオミカミさまがもどられた!

あすか: まぶしい!

イケスミ: 笠松山の向こうから矢を射られたんだ!

あすか: まぶしくて……

フチスミ: 間もなく笠松山を越えられる。それまでに、とどめをさそう!

イケスミ: ああ、残った雑魚の禍つ神どももな。

フチスミ: いくよ!

イケスミ: おお!  

あすか: あ、ちょっと待って、あたしも……!


 舞台前まで乗りだして、掃蕩戦にいどむ三人。笠松山からのオオミカミを暗示する光などが戦斗音を残してフェードアウト(戦闘を表す歌とダンスになってもいい) 

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