第2話 金の成績表


連載戯曲

『あすかのマンダラ池奮戦記 ②金の成績表』


時: ある年の、暖かい秋

所: マンダラ池のほとり ミズホノサト


人物: 元宮あすか  女子高生

    イケスミ   マンダラ池の神

    フチスミ   イケスミの旧友の神

    桔梗     伴部村の女子高生(フチスミと一人二役)


あすか: ヌフ、ヌフフフ……フハハハ……やった! やったぜ金の成績! きっと百点満点のオンパレード、オール五の花ざかり……ジュルジュル~よだれが出るぜえ(#´艸`#)……な、なんじゃこりゃ!? オール零点、オール赤字の落第点……(間)ちょ、ちょっと神さま! 池の神さまあああああ!


 池の神、再びあらわれる。


イケスミ: はあいただいま……何かご不審な点でも?

あすか: ご不審、ご不審、大フシン! どうゆうことよっヽ(#`Д´#)ノ!?

イケスミ: そういうことよ。言っとくけどクーリングオフはなし! それから、神様見送る時は、あなかしこ、あなかしこって言うのが作法だから、おぼえときな! あなかしこ……

あすか: かしこくなってねえって! どうして金の成績票が、オール赤字の零点なのよ(;゚Д゚)!?

イケスミ: バッカだねえ。だって落ちた成績だろ。その金賞だから、一番落ちたオール零点の成績なわけじゃねえか。

あすか: そんな……

イケスミ: あすか、おもえ、変なこと考えていただろ?

あすか: で、でもさ、神さまがさ、仮にも神さまがさ。池に落ちると、成績が落ちるをひっかけちゃって、そんなおやじギャグみたいなサギやっていいわけ?

イケスミ: ちょっとまわりの景色を見てくれる……

あすか: まわり……?(二人同様に周囲を見渡す)

二人: ……きったねえ池!

イケスミ: だろ。みんな人が汚しちまったんだ、この万代池。

あすか: マンダイ池……マンダラ池じゃないのか?

イケスミ: 人が汚してからマンダラになっちまったんだ……もともとここは、江戸時代に、このあたりのお百姓たちが切り開いたため池。田畑を潤してくれるようにとな……

あすか それで万台池か……

イケスミ: その時、あたしは、池の守り神として西の国から、ここに招かれた。以来三百年、陰になり日向になって、この池とまわりの人間を護ってきてやってよ……明日、この池は埋め立てられっちまう。

あすか: そうなんだ……

イケスミ: で、あたしは帰ることにした。

あすか: ひっこし?

イケスミ: やってらんねえだろ、ウンコつきの靴洗われて……

あすか: ごめんなさい……

イケスミ: 汚されまくって、穢されまくって、ゴミほりまくられて……あげくに明日埋め立てられんの。

あすか: ……

イケスミ: ね、だから帰んの、故郷へ……

あすか: 西の国?


イケスミ: まあな、トヨアシハラミズホノオオミカミさま……そこで、相談。あたしを、オオミカミさまのところへ連れて行ってもらいたい。

あすか: 自分で帰ればア(迷惑そう)

イケスミ: 神には依代がいる。

あすか: ヨリシロ?

イケスミ: ふつうには御神体という、社の奥に祭られている玉とか鏡とか……あたしにはもうそれがない……オオミカミさまのもとまで、あたしの依代になってはくんないかなあ?

あすか: あたしが?

イケスミ: そのかわり、本当に成績はよくなるようにしてやる。あすかにのりうつって、その体と脳みそをビシバシ鍛えてやる。

あすか: 余計なお世話だ。

イケスミ: いやか?

あすか: やだ!

イケスミ: じゃ、オール赤字の成績に甘んじるんだな……偏差値もう二十も上げれば、真田コーチと同じ吾妻大うけて、かわいい後輩になれんのになえ……         

あすか: そんな……まるでサギのキャッチセールス。

イケスミ: 池の神さまだけに、ハメちゃったってか?

あすか: しゃれてる場合か!?

イケスミ: さ~て、どうする?

あすか: ……あたし、行き方なんて知らないし……

イケスミ: 大丈夫。あすかは、その体貸してくれるだけでオーケー。いわばハードだね。ソフトがあたし。

あすか: あたしはゲーム機か?

イケスミ: ほら、わかりやすくメモリーカードにしておいた。こいつを口にくわえて、このコントローラーで……

あすか: ちょっと待ったあ!

イケスミ: んだよ?

あすか: ほかにもいっぱいいるでしょ、この池のそばを通る人って、それに、今からじゃ無断外泊に……

イケスミ: やってんじゃねーか、月に一二度。知ってんだよな、親がブチギレル限界を……今月、まだやってないよな?

あすか: どうしてそこまで知ってんの!?

イケスミ: 見そこなっちゃあ困るなあ。神さまだよ一応……それになにより、あたしのソフトは、あすかのハードでなきゃ合わないんだ。エックスボックスのソフトは、プレステ4じゃかからないだろーが。ほら口にくわえる!

あすか: オオミカミさまのとこについたら、すぐに帰してくれるんでしょうねえ?

イケスミ: もちのろんだ。あすかの脳細胞もピカピカにしてな。さ、口にくわえる!

あすか: モゴモゴ……

イケスミ: さあ、いくぞ。ミッションスタート!


 閃光と電子音あって、一瞬闇。明るくなると、あすかにのりうつったイケスミ、手にコントローラー、その先の端子は背中についている。   


イケスミ: (あすかの姿)ヌハハハ……冴えわたる頭脳! みなぎる力! これなら故郷に帰ることができるぞ。誰に省みられることもなく、ゴミだめのように埋め立てられる万代池。それを恩知らずな人間どもとともに振り捨てて!……わが故郷、わがオオミカミさまの在(い)ますトヨアシハラミズホノサトへ……あれ、手と足がいっしょに出る!? R1ボタン……あれ、くるくる回っちまう。L2ボタンは左……△ジャンプ……□でしゃがむ……走るはどれだ?……×で駆け足足踏み、方向キーといっしょで……オー! やったァ全力疾走!


 舞台を走り回り、袖に入って暗転(ブリッジ=繋ぎに、この芝居のテーマ曲)舞台転換。鳥のさえずりなどして明るくなる。よろよろと歩くイケスミ。


イケスミ: (あすかの姿で)……この体、瞬発力のわりに持久力がない……よくこれでラクロスなんかやってんなあ……ああ、足が棒のよう……もうだめだ(肩で息をしている)あとどのくらいかなあ……山も川も様子が変わって……三百年ぶりだもんなあ(虫の声)……ブリ虫?……ああ、わが故郷のヒサシ村のブリ虫の声……あれ、笠松山……こっちのえぐれてんのが伴部(ともべ)山……だとすると、この目の前……鬼岩(虫の声)……ブリ虫……着いたんだ……着いた、着いた、着いたああああああああああああ!


 叫びながら舞台を走り回り、袖に入り込む。再びあらわれた時には、あすかと分離している。

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