第6話 二重の修羅場

「あれ?信二君?」

そこに立っていたのはかつて付き合っていた田中咲たなかさきであった。

「田中さん…、何でここに?」

「え?私ここ近所だから」

失念していた。そういえば田中さんは川鳴市に住んでいると話したことがあった。

「逆に何で信二君がここにいるの?」

「い、いや、この近くの団地について調べてて…」

「あー、末代団地の事?そういえばオカルトとか好きだったもんね〜」

田中さんはウンウンと頷く。

「そ、そうなんだ、そしたら…」

続けて団地の噂を聞こうとしたその時。


「せ、先輩がキレイな女性と話してる…」

すぐ横で須永と羽原が立っていた。

「お、なんか見つかったのか?」

「なんか見つかったのか?じゃないですよ。こっちは一所懸命調べてるのに何してるんですか」

「い、いや昔の知り合いとたまたまあってな。ここの近くに住んでるから何か聞ければとな…」

「お二人は信二君の友達?」

すっと入ってきて田中さんが尋ねてきた。

「あ、ああ、この二人は大学のサークルの後輩なんだ」

「し、信二君…名前で呼んでる…」

なんか知らんが須永がショックを受けている。

「なんかお二人、親しげっすね〜。付き合ってたりするんすか?」

羽原はお構い無しに割って入ってくる。

「いやいや、付き合ってないよ。ねぇ?田中さん」

「今はね…フフ」

チラッと須永の様子を見ると鬼の形相をしているがほっておこう。

「そ、それより田中さん、末代団地の事知ってることあったら教えてよ」

「知ってること…、私が小さい頃に団地で子供が亡くなってるとか」

「ああ、それなら今新聞記事を見つけたよ」

「うーん、それ以外だと…、その何年か後に集団殺人が起きたって事かな」

「集団殺人?」

「うん、大きくニュースにも取り上げられて大騒ぎだったんだよ」

俺は携帯を取り出して(末代団地 事件)で調べた。すると数は少ないが小さな記事が出てきた。


2010年五月十二日、末代団地の五番棟にて計三十五名殺害されるという事件があった。犯人は無差別に住人を包丁で刺したり、風呂で溺死、窓から突き落としたりとした後逃亡したとあった。


「こんな事件あったのか、だったら俺たちが知っててもおかしくないんじゃ」

「うーん、なんかよく知らないけど箝口令かんこうれい?みたいなのあったらしいよ?後、その年って重大な事件沢山あった年でしょ。そのせいで全国的にはそこまでだったらしいよ」

「この犯人はどうなった?」

「えーと、暫くして捕まって当然死刑が宣告されたらしいよ。その後はよく知らないや」

どうやら俺たちが思っていた以上にあの団地には何かあるらしい。

「で、もうそんな建物住みたくないって他の住人も引っ越したらしくてその建物だけは誰も住んでないんだって」

「そうなのか、だったらそんな建物無くした方がいいだろうにな」

「なんか、あの建物壊そうと工事の人が来たらしいんだけど、まるで建物から拒否されているかのように職人達に不幸が重なったんだって」

「なるほど、それで解体工事が無くなり、なくなく放置してるって訳か」

「そういうこと、幸いあの建物に近付かなければ何も起きないらしいし」

田中さんの話を総合すると末代団地が問題というよりはあの五番棟のみ恐れられているといったところか。

「田中さん、ありがとう。すごい参考になったよ」

「いえいえ、どういたしまして。あ、もしかしてあの五番棟に行くつもり?」

「え、あ、うん」

「そしたらさー、私も行っていい?」


なんかよく分からないけど二重の意味で恐怖の探索になりそうだ…。


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