チョコチップマフィンと遥
御崎 遥。
通称、疫病神。
誰もが同じクラスになりたくないと思い、誰も近づこうとしない少年。
「遥君。一緒に帰ろうよ」
「うん!いいよ」
そんな彼にも一人だけ、たった一人だけ友人がいました。
聖根 正俊君。近くのお家に住んでいて、保育園の時から仲が良かったのです。
でも仲がいいから、今まで彼のことを沢山不幸にしてきました。
ある時は彼の大切な玩具がなくなりました。いつもお遊戯会に彼は熱を出しました。運動会では転んで怪我をしました。
そしてある時、彼は交通事故に遭いました。
危機一髪、九死に一生を得た彼は怪我も無事に治り、完治できましたが、彼の両親は遥君を恨みました。もう会ってはならないと強く彼と息子に言い聞かせ、近所の人達に遥君の悪い噂を流してしまいました。
それから遥君はみんなに好奇の目をむけられ、恐怖され、避けられました。学校ではいじめられ、家にも落書きをされ、近づけばみな逃げていきました。
それでも、親には内緒でこっそり会ってくれる正俊君だけが友達で、親友でした。
中学二年生の夏、遥君といつものようにこっそり遊ぼうとした正俊君が行方不明になってしまいました。
正俊君が全然待ち合わせ場所に来なくて、いつまでもいつまでも待っていたら、警察と正俊君のお母さんが来ました。遥君のことを見つけた途端、正俊君のお母さんは大きな声を出しました。
『疫病神め!お前のせいでうちの子は居なくなったんだ!消えろ!どこかに行け!』
遥君は怖くて悲しくて、でも怒られたくなくて、泣きながらお家に帰りました。
お家では優しい優しいお母さんが待っていました。
大丈夫、遥は悪くないよ。怖かったね。辛かったね。正俊君のことみんなが一生懸命探してくれるから大丈夫だよ。待っていようね。
お母さんの胸の中で泣いて泣いて、疲れて寝てしまって。遥君にとって世界で一番安らぐ場所でした。
正俊君がいなくなって一年、中学三年生になった遥君は元々の中学校に居場所がなくなって、転校してきました。
少し離れたところにある中学校の周りにも遥君の噂は広がっていたようで、学校には通うけれどいじめられてばかりでした。
でもお母さんは一生懸命遥君を励ましてくれました。だから遥君はお母さんのためにも学校に頑張って通いました。いじめられても避けられてもお母さんに心配をかけないため学校に通っていました。
それはたくさん雪の降った日でした。
雪のため学校も休みになって、開放感からか遥君は元気でした。
外に出てみると銀世界が綺麗で、お母さんに見せたくて、最近家に篭ったままのお母さんを無理やりお外に出して、雪景色を見せてあげました。お母さんにも喜んで欲しくて。
お母さんはとっても喜んでくれました。
綺麗だねって遥君を撫でて、抱きしめて、沢山笑ってくれました。最近くたびれた顔ばかり目にしていたから遥君はとっても嬉しくて、お家の前で二人で手を取って雪の中を歩いていました。
お母さんが突然手を離すので振り返ってみると、お母さんは血を吐いて倒れてしまっていました。
遥君のお母さんは一人で全てを頑張っていました。
頑張って頑張って遥君を守っていたら、お腹に穴が開いてしまったのです。
沢山沢山血を吐いたお母さんが怖くて、突然の事でどうしたらいいかわからず、たくさんの雪で誰もいない道の真ん中で、真っ白のふかふかの雪が赤く染っていく様をただただ眺めていることしか出来ませんでした。
優しいお母さんが焼いてくれるチョコチップ入りのマフィンが大好きでした。
正俊君と一緒にゲームをしたり、お出かけするのが好きでした。
でももう全部なくなってしまいました。
遥君はいっぱい泣いて、いっぱいいっぱい泣いて、泣いて。
叔父さんにお願いして名前を変えて、もっと遠くの高校に通うことにしたのです。
仲田 颯となって。
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