シュークリームと過去

「最近なんでかわかんないけど悪いこと起きないんだ」

「どうせいつかツケが回ってくるのよ。気をつけておきなさい」

 昼休憩のとき、颯がどこかに消えたから探していたら、屋上の前の踊り場の方から声が響いてきた。どうやら颯とあの女が話してるようだ。

「御崎ちゃんはなんで大丈夫なの?」

「あなたが大切に思ってないからじゃない?それか次は私なのかも」

「怖くないの?お母さんみたいになっちゃうの」

「別に。仕方ないことだと思うようにしてるわよ。あなたを責めたくないの」

「御崎ちゃんは強いんだね」

「それにしてもあなたよくその名前で呼べるわね。元はあなただって御崎じゃない」

「でも下の名前で呼ぶのは恥ずかしいよ」

「あなたって変わってるわよね」

 降りてくる音がしたから、急いで近くの教室に入る。

「おっ、松宮じゃん。どしたん急に」

「いや、なんとなくさ来てみた」

 苦笑いをして誤魔化す。横目に廊下を見ると二人が並んで教室の方へ戻っていくのが見えた。

「マジか、今さ、あいつが人狼しよって言ってたからお前もやってく?」

 すぐ戻ったら怪しまれるかもしれんしな。やってくか。

「おう、そうするわ」




 結局人狼大変すぎて、深く考えられなかった。自転車で家に帰りながら昼の話を思い出す。

 悪いことか。颯が災いとするほどの悪いことが起こるかもしれない。それは颯の大切な人に起こるのか。大切。颯が最初冷たかったのは大切な人を作らないようにしてたのかな。

 胸がぎゅっと締め付けられる。もしかしたら俺は悪いことをしてしまったのかもしれない。

 俺には、疫病神の厄災をどうにかする力も、それを受け入れることも出来ない。正直、今はあの女がかっこよく見える。自分の運命を受けいれ、仕方ないと言ってのけてしまう彼女はとても凄い。もし、今目の前で、颯の厄災で命の危機になったら、俺は颯のせいだと思ってしまうかもしれない。その可能性が、ゼロと言い切ることが出来ない。

 そんな気がした。



「ねぇ、悠馬君」

 珍しく颯から話しかけてくれたが、敢えて無視をした。

「なんで最近悠馬君、僕と一緒に帰らないの?他の人と帰ってるの?」

 ちょこちょこと俺の周りをうろつき、顔を覗き込もうしてくる。

 暫し、返答を待っていたが、突然しょんぼりして、とぼとぼと自分の席に帰っていってしまった。

 くそ、こんなに俺に心を許してくれているのに、俺にはどうすることも出来ない。何か解決方法を見つけてからじゃないと、ダメなんだ。このままじゃ颯を不幸にしてしまう。疫病神に戻してしまう。ダメだ、どうにかしないと。

「松宮〜。お前が勘で行けるって言ってた問題まじでみんなあってたわ。お前強いな」

 幼なじみの峰田が急にやってきて、話しかけてきた。

「おう、そりゃよかったな」

「お?なんかお前今日元気ねぇな。飯行っとくか?」

「いやー大丈夫。元気はない」

「どんな条件なら行く気になるよ?女?」

「いや」「じゃあ金?」「いや」

「あー峰田。そういやあそこの駅にあるシュークリーム屋、期間限定で栗とさつまいもやってるぞ。それで釣れ」

 ふらっとやってきた担任の池田が言う。

「じゃあ、シュークリーム」

「仕方ねぇ行こう」

 釣られてあげた。



「なんで松宮の周りっていい事あるんだろうな」

「え?」

 シュークリームを頬張りながら耳を疑う。めっちゃ美味い。このシュークリーム。

「いやぁさ、俺ら小学生の時からの仲じゃん?それで今までお前の周りの友達のこともよく見てたけどよ、ぜってぇなんかいいことあるんよな」

「ほう?例えば?」

「この前でいえば西田とかよ、あんな高嶺の花の田坂さんをカラオケに誘えるとかあるかよ」

「ちょうど予定が空いてたんだろ」

「その前も、林間学校でぜってぇみれねぇって言ってた滝、マジで見れたやん」

「急に晴れたよな。まじラッキー」

「高校前もさ、お前の仲いい滝瀬とか、志望校落ちたと思ったら、実はミスであとから受かってたってわかったし、修学旅行でも飛行機飛ばないくらい天気悪かったのに急に晴れたし、9月の下旬なのに沖縄にひとつも台風来ない。そんなことあるかよ」

「なんだ全部俺のおかげだって言うのか」

「お前の周りはあまりに運がよすぎるんだよ。異常なほど」

「なんだ、まるで俺が福神様みたいに」

「まさにそんな感じなんだよ!でもよ、一個おかしいんよな」

「なんだ?」

「最近いいこと起こってないんだよな。西田のやつが久々?って感じだし。この前、球技大会の時普通に雨降っただろ」

「やっぱ嘘なんじゃん?」

 んなわけねぇよと笑い飛ばしながら、何かがひっかかる。


 俺がもし周りをラッキーにする性質があったとして、颯がもし不幸になる性質があったとすると。ひょっとして全て噛み合うんじゃないか。俺がそばにいる間、誰も幸せにならないが、あいつも不幸にならない。釣り合いが取れた状態になってるんじゃないか。だから別にお互いに嫌な気持ちにもならず、そばにいれたんじゃないのか。

 そんな気がしてきた。

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