パフェと君
颯はすぐ話を逸らす。
前よりは話してくれるようになったけど、自分の話になるとすぐ話を逸らしてしまう。触れてはいけないと言われているようだ。
目を瞑ることもできるけど、その触れてはいけないところをいつか見せてくれるようになったらいいのになって思ってしまう。
「おい松宮。授業中だぞ、黒板を見ろ」
颯のことを考えながら、外を眺めていたら、注意されてしまった。恋する乙女か俺。
渋々前を向いてノートをとる。
うわぁめちゃくちゃ書いてある。いつの間にこんな時間経ったのかよ。もしかしたらいくつか消されてるかもしれないわ。
「ねぇ、松宮くん」
俺にギリギリ聞こえるくらいの小さな声で隣の席の女が話しかけてきた。
見ると机の角をつんつんとされ、手のひらに紙が握られていた。
受け取り、広げてみる。
『さっき消されたとこ書いてないんじゃない?私のノート見る?』
早速『YES』と書き込み、手紙を返す。
隣の席の女は先生の目を盗みサッと俺にノートを受け渡してきた。
直ぐに見れなかった部分を写し、筆箱の付箋をノートに貼り、『さんきゅー』と書いて急いで返す。
その間に書かれた黒板をいそいそと写していると、いつの間にか机の端に先程の付箋が貼られていた。
『お礼に今日の放課後付き合ってよ』
「ふー。ついたー」
その子が指定したのは学校から少し離れたところにあるファミレスだった。
何故か別々に集合してほしいと言われたので、言われた通り、彼女が教室を出てからしばらくして学校を出た。
中に入り、伝えられた時に初めて知った彼女の名前をそのまま伝えると、一番奥にある二人用の席へ案内された。
「遅かったわね。待ちくたびれた」
待ちくたびれたとは思えないほどの量の皿が既に机の上を支配していた。サラダからパスタ、グラタンまで食べた痕跡があるのに、今は熱々のハンバーグを切り分けていた。
「こんなに食べたのに待ちくたびれたのか……」
「そうよ、松宮君のせいで太ってしまったわ」
そんなに表情を変えずにサラッと答える。
「それはご愁傷様です」
「松宮君ってほとんど話したことない子にも簡単に煽れるのね。モテなさそう」
あんま話したことない男の前でそんな態度をとれるそちらの方こそおモテにはならないのでは……。不毛すぎるので言葉を飲み込む。
「余計なお世話です。話って何?」
「本題に切り出すのが早すぎるわよ。もうちょっと前菜を楽しまなきゃダメよ?」
「何も無いなら帰るけど」
置きかけたカバンを持ち上げようとしたら、彼女はナイフとフォークを振り俺を止める。
「ちょっと!わかったわ。話すから。長くなるからなにか頼みなさい。私が奢る」
「いや、女の子に奢られるのはちょっと……」
「何よ急に。モテない男するならもっとしっかりモテない行動をとったら?」
嫌味とメニューを渡しながら、睨みつけてくる彼女を他所に、1番後ろのページを開く。
とりあえず、チョコレートパフェとキャラメルラテを注文し、話を戻す。
「それで話ってなんなの?」
「あなた最近、仲田君と一緒にいること多いでしょ」
「颯がどうした」
「単刀直入に言うと、離れた方が身のためよ」
「パフェ食べといていいぞ」
「待って!拒否されるのはわかっていたわ」
「ほう?というと?」
あげかけた腰をもう一度下ろす。
「どうしても、彼のそばにいたいというのなら彼が自分から教えないであろう彼の過去を知らなきゃいけないわ」
「疫病神だろ?」
その一言で目の前の女は突然目が飛び出るほど見開いて、食べようとしていたハンバーグを取りこぼした。
「……え?知っているの?」
「あぁ。それに別に颯が話したくない過去を知ろうとは思わないよ。聞くなら彼の口からがいい」
はぁ。と深いため息をつきながら頭を抱える女。
「彼も彼で……」
「え?なんて?」
「松宮君はなんでそんなに仲田が好きなの?」
「好きってゆうかなんか、気になるだけだ。よくわかんないけど」
頭の後ろを掻きながら、答える。つい目が泳いでしまう。
「あなたそれ、好奇心はいつか身を滅ぼすって知らないの?」
残っていたハンバーグをさっきより早いペースで食べ終えた彼女は、呆れたようにフォークとナイフを雑に置き、突然スマホを取り出す。
「お父様に連絡しないと」
「チョコレートパフェとキャラメルラテでごさいます」
「あ、ありがとうございます」
受け取り、早速食べ始める。
思ったより豪華だな。美味そう。
「それ、食べ終わったらすぐ帰るのよ。何かあるかもしれないから。後、そんなに甘いものばかり食べていると早死するわよ」
「そちらも食べすぎると太りますよ〜」
ありがたいお説教を早口でまくし立てながら嵐のように去っていく女の後ろ姿を眺めながらパフェを味わう。美味い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます