クレープと神

 なんで彼は僕のことをこんなに気にかけるんだろう。


遠くの高校に来た僕には友達が一人もいなくて、みんな初めましてで、何もわからなくて。でも自己紹介の時上手く話せなかった僕にも声をかけてくれて、そのままずっと気にもかけてくれている彼は、なんで僕にこんなについてくるんだろう。


僕はなるべくつまらなくて、人に嫌われるように生きようとしたつもりだったんだけれど。


初めのうちはもっと冷たくしたり、無視したり、先に帰ってしまったりしていたけど、彼はそれに適応してしまった。答えなきゃいけない質問をしたり、無視しても黙ってそのままそばにいたり、帰り道に先回りされていたり。


何が彼をこんなに努力させるのかわからなかった。けれど聞けなかった。興味を持ってはいけないから。代わりに僕は聞いてみた。変なことを。僕のことを。


「例えばさ、僕が疫病神って言ったら信じる?」





「クレープ美味しい」

「うん美味い。颯はいちご好きなのか?」

「いちご好き。バナナも好き」

「チョコバナナは定番だよな」

「二人ともチョコバナナじゃないけどね」

「俺は敢えてのカスタードパイン」

「超マイナー」

「それだけ通いつめてるということ」

 グダグダ話しながら、クレープを食べ歩く。もう辺りはすっかり暗くなってしまった。

「颯、帰り遅くても大丈夫なのか?こんな時間になっちゃったけど」

「うん。大丈夫」

 素っ気なく答える。

「お母さんとか心配しないか?うちうるさいんだよなー門限守れー!って」

「僕より悠馬君のがやばいんじゃない?もうこんな時間なんでしょう?」

「いや、颯とクレープ食えるなら母さんの叱責の一つや二つくらい怖くないさ。甘んじて受け入れる」

「心配してもらってるんだから、そんな無鉄砲じゃダメだよ」

 思った以上にしょんぼりした悠馬君をみて、言いすぎたかなと反省する。でも心配してくれる人がいるのはいい事なんだ。お母さんに叱られたりされるのいいな。

 少しの間黙って考え込んでいた悠馬君が急に口を開いた。

「ごめん。言葉が身に染みたから、先帰るわ。母さんにも謝ろう」

「わかった。また明日ね」

「うん、また明日」

 クレープを急いで頬張ってリスみたいな顔のまま手を振って、自転車を飛ばす悠馬君の姿にまた笑ってしまいそうになる。

 けれど、彼の背中が曲がり角に消えた途端、憂鬱な気分になる。クレープは前払いだったのかもしれないな。嫌な予感がする。




 僕は彼の心配をしちゃいけない。興味を持ってもいけない。僕を心配する人もいない。大切な人はいらない。大切な人ができたらまた……。そうだよ、わかった?大丈夫だよ。一人でも生きていけるよ。遥。




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