入学式前日 5
数分後、『おりばんだーの杖』から出たアリスは清々しい気持ちでいっぱいであった。
手に入れた杖は斎藤からもらった付属品の杖専用ホルスターに入れてある。
この国の住人は携帯よりも(携帯はまだない)杖を携帯するのが常識らしく常に服や腰のベルトにホルスターに入れて携行しているのだ。
しかしアリスはうずうずしていた。
ゲームのソフトを買ってもらった子供が早くやりたく家に帰りたそうにするように初めて手に入れた自分専用の杖を使いたくてしょうがなかったのだ。
(…とはいえ師匠からも一人の時に魔法は使うなって言われてるし…早く師匠と合流しますか!)
その時だった……。
「あの…やめてください!」
「ん?」
来た道を戻ろうとしたときだ、アリスの耳に微かではあったが悲鳴が聞こえた気がした。
悲鳴が聞こえたと思われる方向は裏路地……アリスは迷うことなく声のしたところへ歩き出す。
(こ…これはラノベ的に…ヒロイン救出のイベント!…でも、今聞こえた声って明らかに同い年というよりはもう少し年が上のような?だが主人公なら……行かずにはいられないよなあ!)
アリスの疑問は裏の路地の角を一つ曲がった時解決した。
悲鳴を上げたのは、一人だが助けを求めていたのは二人だったのだ……正確には親子だが。
ばれないように角からのぞき込む。
母親と娘……だろうか、30代後半の女性と少し童顔ではあるが恐らくアリスと同い年の少女が二人の男性に迫られている。
「あの…私たちに何か御用ですか?お願いします!この子だけは見逃してくれませんか?私になら何をしても構いません!どうか!」
(おいおい…それは逆効果だろい…どう見ても親子一緒に食べられちゃうパターンだよそれ)
「安心しな、用があんのはお母さん、あんたの方だよ」
「え?」
(え?…はああああ!?いやいやいやいや!確かにその人見るからに若そうだけど美人だけど!…でも私と同い年くらいの子供がいるってことは30代後半か40代だよ?もしかしてそっちが趣味か?…まあでも人の趣味にとやかく言うのは失礼だしなあ)
「えっと……私……ですか?」
(うんうん、疑問に思うのは無理ないぜお母さん…)
「ちょっと用があってよう、付いてきてもらうぜ?まあ多分二度と娘に会うことは無いだろうけどな。まあこっちも仕事だ、抵抗するならこっちもそれなりのことはすることを覚悟するんだな」
途端に母親の顔が曇り、静かに娘の方に顔を向ける。
(まあそうなるのも無理はない…か、狙われているのが親なら子供をかばって大人しく身を差し出す可能性はある…か、でもそれよりも…)
アリスは男二人の特徴を分析し始めた。
幸い、四人が居るのは路地裏の行き止まり、つまり確実にアリスの方へ歩いてくる。
であればアリスが動かなければいずれ対峙するのだ今のうちに情報集めたいのだ。
(見た感じ…二人とも170~180といったところ見た目も普通だ、人を誘拐するような身なりに見えない…銃…持ってるわけないよね?旧日本じゃそんな簡単に持てないけど…この世界の日本は分からんしなあ。それとも…杖持ってく可能性もあるしな…人を呼ぶには時間が足らなすぎるし、どうしたもんか)
「よし、じゃあ付いて来い」
(ちょ!早い早い!お母さん!決断早すぎ!もう少し粘ってくれや!)
四人がこちらに歩いてくる。
(…ああもうどうにでもなれ!)
アリスが意を決して四人に対して両手を広げながら塞ぐように対峙する。
そして、杖を抜くと男たちに向ける。
「止まれい!どこに連れていくかは知らんが私が許さんぞ!?さあ二人を開放しなさあい!」
四人の足取りが止まる……男たちは驚いた表情でアリスを見つめる。
(ふっ!決まった!さすがは主人公。代わりに何か失った気はするけど…この際気にしなーい。ていうかなんか空気おかしくない?)
「…っち、見られてたのか。…ていうか見た感じ子供のようだが、お前何歳だ?」
「女性に年齢を聞くのはマナー違反だと親に言われなかったの?」
「あ?」
アリスは15歳、高校生になっていない。
つまり、法律的に魔法を使うには年齢がというより時間が一日分足りなかった。
だが男たちがアリスの年齢……というより所属を知らない以上杖を見せることはある意味威嚇にはなる……逆にそれ以降のことは何一つ考えていなかったのだが。
「どうする?仮にあのガキがステアの学生なら杖の無い俺達には何も出来ない…」
「ばか!黙ってろ!」
(ほほーん、杖は持ってないと…なら部は少しこっちにあるかな)
「しゃあねえ、こんなところで使う気は無かったがやむ無しだ」
そういうと男は懐から旧日本人も見たことは無いだろうが見るだけで十分何かと答えることが出来る者をを取り出した、銃だ。
(わあ、まじかー、マジでここ日本に見えて日本じゃないなあ。ていうかなんだろあの銃…形的にオートマチックじゃない…リボルバーだけど名前が分からない。ん?なんで分かるんだ私…旧日本でミリタリーマニアだったのかな、…今はどうでもいいかな。問題は弾丸は魔法でどう防げと?何か呪文でもいるんか?師匠が私の魔法を防いだ時は何も詠唱しなかったけど)
「どうした?魔法を撃ってこないのか?それとも打てない理由があったりしてな」
相手の男も何故アリスが魔法を打たないのかを思考しているのだろう、カマを掛けてくる。
「あんたらのために魔素を消費するのはもったいないからさ、ここは諦めて立ち去ってくれるとこっちとしてはありがたいんだよねえ」
毅然に振舞ってこそ居るが、アリスの心臓は何時嘘がばれるか分からない状況で心臓がかなり早く鼓動するのが分かるほどだ。
しかし何とか表情に出さないようにする。
「ふーん、まあいい。もしお前がステアの学生だろうが何だろうが撃てば分かることだからな。結界を発動して球を防がなければお前は死ぬんだ、ステアの学生なら結界の張り方ぐらい知ってるだろうしなあ!」
(は?やっぱり詠唱必要なの?やばいそれは確実に死ぬ奴じゃん!結界の張り方なんて知らんわ!あたしゃあこの世界に来てまだ数日だぞ?)
「ふふふ、なるほど。やはりまだステアの学生じゃないな、この程度の嘘で動揺するんだ。顔が引きつってるぜ?」
「…」
表情のコントロールに失敗したんだろう、アリスの動揺が男に伝わり男は笑った。
完全にこの心理戦は相手の勝利に終わった。
(駄目だ、多分だけど魔法使いとしての最低限の情報も無いからカマの掛け合いもできない…終わった。死んだなこれ)
この状況、確実に口封じするために命を奪うだろう。
アリスは覚悟した……が予想に反し、男たちはアリスの横から通り過ぎようとする。
「え?」
「殺すと思ったか?こんなところで撃ったら銃声でもっと人が来るだろう、お前には少しばかしここで静かに佇んでもらうがな、そうしたら大声でもなんでもすればいい。そうすれば誰か通報してくれるんじゃないか?まあそのころにはもう俺たちの姿はないだろうがな!」
「…」
(マジかよ……杖持ってるのに……日本人だからか?法律って言葉で魔法が撃てなかった……最悪。主人公なら法律破ってでも人助けるべきだろ)
「いや?その心配はないな。先ほどの馬鹿の大声で俺が来れたんだ十分役目は果たしたよ」
聞き覚えがある声が後ろから聞こえた。慌てて振り返る…するとそこには何故?といいたいが今の現状、最も安心できる顔だ、龍である。
「し、師匠!?なんでここに?」
「おりばんだーで待っていたのにいつまでたっても出てこない…中に入って話を聞いたらとっくに店を出たというじゃないか、それで外に出たとたんにお前の馬鹿みたいな大声が路地裏から聞こえてくる…行かないわけないだろう?」
「あ?なんだお前?こいつの師匠か何かか?」
「ほう、さすがは統合自治区だな俺のことを知らない人間もいるのか、自己紹介ができることが嬉しいよ。第二日本国、神報者の龍というものだ覚えておきたまえ」
「龍?…ってあの?まずいっすよ!さすがにこの人に逆らうのはちょっと」
「分かってるよ、…っち、まあいいさすがにオブザーバー様の前だ、これ以上の抵抗は無理だな、ここらでお暇するよ」
そういうと男たちは足早に帰ろうとする。
「待て」
「なんだよ、まだ何か?」
「二人とも持ってる銃を地面に置いていけ、この馬鹿に法律で勝ったんだ。ならマギーロは指定職業以外の銃携帯も違反であると知ってるんだろ?なら今ここに置いていけば見逃してやる…統警にも黙っててやるよ」
「通報しない保証がないじゃねーか」
「安心しろ、通報すんのも色々めんどくさいんだよ。いろいろ書類書かされるわ何時間も拘束されるわ今日に限っては時間がないんだ、特別サービスってやつだ。それともなんだ?俺とやりあうか?少なくとも俺はお前たちに一寸の躊躇も無く魔法撃てるぞ?」
「…っち」
男二人は持っていた銃を地面に置くと走って逃げていった。
「大丈夫か?」
「えっと…は」
「お前じゃない」
師匠は親子に歩み寄る。
「あーはい、ですよねー。わかってた分かってた」
「えっと、龍さまですよね?本当にありがとうございました!君もありがとうね!」
「いいえいいえ」
「うーん、様と呼ばないでくれ。いろんな人間に言っているのだがさんで良い…そちらの子は?」
「あ、はい!香織と言います。明日からステアに通うんです。そのために少しはこの街を知った方が良いと思いまして街を散策してたんですけど…」
「あなたは杖を持っていなかったのか?あなたなら輩どもを蹴散らせたと思うが」
「すみません、うっかり今日だけ杖を忘れてしまったんです」
「そうかそれは災難だったな……香織くん」
「……はい?」
「実はこの馬鹿も明日からステアに通う識人なんだ。それもつい先日この世界にやってきたんでね。この世界のことに疎すぎる、同じ一年どうし仲良くしてくれると助かる。神報者としての命令ではなくこいつの師匠…一人の保護者としてのお願いだ」
「…」
人見知りなのか、言葉こそ発しなかったが肯定の意味なのだろう軽くうなずいた。
「ありがとう。さあお母さんもう行くといい、君たちも明日があるんだからいろいろ忙しいはずだ」
「分かりました。本当にありがとうござました」
親子は礼をすると大通りへ出る道を歩いて行った。
「よし、次はお前だな」
龍がアリスを見る。
「えーと」
「……」
「すんませんでした」
「なぜ謝る」
「え?だって魔法を使うなって言ってたじゃん」
「確かに言ったな。だが、お前は魔法を使ったか?」
「いや、杖を出して向けただけ」
「そうだ、それに関しては何も問題はない。それにお前は端から魔法を使わないように相手に嘘をついて最後まで魔法を撃とうとしなかったじゃないか。まああの場面なら例え撃ったとしても俺が正当防衛として何とかするが…まあ今回はよくやった」
この世界に来てまた数日だが初めて褒められら事に対してアリスは少し顔が緩む。
「師匠って褒めてくれるんですね」
「はあ?当たり前だろう?弟子が良い行動や勇気ある行動したら褒める。逆に馬鹿な行動したら叱って何がいけないかを教える…それも師匠の役目だろ?」
先ほどまでの言葉とは違い、何処かで覚えたセリフをただ言っただけに感じたアリス。
「師匠」
「なんだ?」
「それ、友里さんから言われました?」
龍の目線が急に泳ぎ始めた。
「…どうしてそう思う?」
アリスは何も言わずに龍の顔を覗き込む。
「…ああそうだよ!友里に言われたんだよ!そもそも400年前にオブザーバーになってから一度も弟子なんか取った事なかったんだ!育て方なんて知るわけないだろう!?」
「一度は弟子取ろうと考えなかったの?」
「考えたことはあるぞ?だがな不老不死だと分かった時点で呪いがいつ解けるかすら分からん、仮に弟子を作ったとして弟子が先に寿命を迎える……弟子取る意味なくね?」
「……それは……そうすね。師匠の前のオブザーバーとか見本にしないんですか?」
「別に見本にしていいけど、お前1週間も持たないと思うぞ?」
「何故です?」
「いきなり杖だけ持たせて森の中に放置、しかも魔法の一つも知らない状態でだ。それでとりあえず1週間生き延びてこいって言うやつだぞ?やる?」
(スパルタって言う言葉が可愛く見えてくるなおい!)
「遠慮しておきます。ていうか師匠はどうやって生き延びたんですか?」
「一週間ひたすら魔素球だけ使ってた」
(わーお、馬鹿見てえ)
ここでアリスは一つの疑問が浮上した。
「あれ?ていうか師匠、さっきの話だと途中から見てたんですか?ずいぶん状況説明が細かいですけど」
「ああ見てたよ、っていうかお前の声で気づいた?違うな、オリバンダーから出会た後付近の人間にお前に似た少女を見なかったかと聞いたんだそしたら裏路地に行ったと言った人間がいてな、行ってみるとちょうどお前が杖を出して男たちに対峙してるじゃねえかと。まあ即助けに行こうとしたが、お前が杖を出していたからなどうするかと思って観察した。怒るなよ?何かあればすぐに行く準備はしてたんだ。ただ、あの制約された状況でお前が俺無しでどうするかを見てみたかっただけだからな。お前はあの制約下では満点とも言えるよ…だから怒るなよ?」
アリスが拳を作るのを見た龍は何とかなだめようとしてくる。
「これもオブザーバーとして必要な素質だから?」
「…。それを言ったらお前が相手の男としゃべる時点でテストが始まるな、だが今のお前には必要ない、まずお前に必要なのは前提として魔法を覚えて使いこなすこと、そして状況によって魔法を使い分けることだ。交渉術は今のお前にはまだ早い」
「神報者に交渉術が必要だと?」
「過去何度俺が日本と他国が戦争するのを交渉で食い止めたとおもってるんだ。もう三桁行くんじゃないか?それに日本と国境が接する国同士の戦争も穏便に解決したのも俺だぞ?これで交渉術がいらないとでも?」
「それって外交官とか外務省の人たちがやるんじゃないの?」
「元の世界だとそうかもしれんが、この世界だと何故か400年生きてる俺に全部回ってくるんだよ。俺が話せば何とかなると思ってる連中が多すぎる。ていうか俺が行くような場面て大抵が日本の外交官や首相陣が交渉に失敗してるから俺が最終的に何とかしないともれなく戦争なんだよ」
(元の世界もこの世界も日本の政治家っていうのは本当になんだかなあ)
「そろそろ行くぞ、この後も用事があるんだ」
アリスはこの日勝ったものを車に積んで菊生寮に帰る帰路についていた。
「ほれ」
「へ?」
運転中の龍がアリスに何かを渡す。
「なんですこれ?」
「開ければ分かる」
丁寧にパッケージングされた箱は誰か大切な人に贈り物をするもののように整っていた。開けるのがもったいないぐらいに。
それをアリスは丁寧に外すと中身を開けた。
「…!これって…」
「欲しかったろ?とりあえず似てるの探したんだ」
(うっひょう!懐中時計じゃん!しかも超綺麗!師匠とおそろいだ!微妙に違うけど!)
箱に入っていたのは金色に輝く懐中時計だ、龍の持っている物とは少し装飾が違うようだが、アリスはそんなこと気にしない。
「あの時も言ったが、俺のは天皇陛下から頂いた一点ものだ、まったく同じものをくれと言われても無理だからな、何とか似ているのを探したんだこれで良いだろ?…って聞いてるのか?」
アリスは時計をまじまじと見つめていた。
確かに龍の持っている時計とは少しデザインが違うがアリスのとっては重要ではない。
もっと重要なのは神報者である龍が直々に選び弟子に送ったということだ。
「えへ、へへへへ」
「気味が悪いぞアリスさん」
「おえええ」
菊生寮に着いたアリスは車から降りる早々、盛大に吐きだした……胃の中の物を。
「そりゃあお前寮に着くまでずっと時計眺めてたらそうなるわ。はよ寮に入るぞ」
「ちょっと待って今急に動かされたら、うっぷ!おええええええ!」
「まったく、寮の敷地内じゃなくて良かったな。洗うのが面倒だ」
そういうと杖を取り出し、水を出すと側溝を洗っていく。
(わあ杖超便利!なんて言ってる場合じゃねえ、今度は胃液がああああ!)
「アリス手出せ」
「おえ?らんれ?」
「その口の中の状態で寮入る気か?それは俺が許さん、このまま両手に水やるからうがいしろ、ついでに手洗っとけ」
「ならお言葉に甘えて」
アリスは杖の水が出ている部分をそのまま口に持っていく。
「は?ちょっ!アリス?アリスさん?何してんだ!?俺は両手を」
龍が驚愕して話そうとするが、杖を握るアリスに右手がそれを許さない。
そのまま口を洗い両手を洗うと立ち上がる。
「ふう!すっきり!」
「すっきり!じゃねえよ!両手洗えって言ったよな!なのに杖から直にいったなお前!もう少し女性らしくしたらどうだ!?」
確かに龍の言うことは正論だ。
アリスには別の目的……というより一度やってみたかったことがあったのだ。
(だって部活女子がよくやる蛇口から直接飲むってのやってみたかったんだもん!)
「いいですか師匠?私の口はゲロまみれなんですよ?それを両手の水でゆすごうとしたら私の両手も汚れるじゃないですか!あれが一番の得策ですよ!あ!ついでにここで師匠も手洗ったらどうです?保護者がいれば魔法使ってもいいんですよね?なら私も今なら使っていいですよね?」
「はあ、分かったよ。だがちょっと待て車を車庫に入れる」
龍は車に戻ると、車を車庫に入れた。戻ってくると水場のところに行き、両手を差し出す。
「師匠…今気づいたんですけど……ここ水場ですよね?蛇口なくない?」
「杖から水出るし水道代の無駄だから作ってない」
(へー、やっぱ杖あると便利だねえ!)
「ほれ、自分の杖でやってみろ、魔法使いといての第一歩だ」
「言われなくても!」
アリスは杖を取り出す。
そしてその杖をみた龍は驚きの表情になるが直ぐに安心したような表情になる。
「そうか、やはり選ばれたか。良かった、俺の考えは間違ってなかったな」
「何言ってんの?」
「なんでもない、さっさと水を出しな」
「へいへ…、あ」
「なんだ?」
「師匠…呪文知らないわ」
「…ネローイだ」
「オッケー!ネローイ《水よ流れよ》」
呪文を唱えると、杖の先から水が蛇口を開けたかのように流れてくる。
(…うひょおおおお!魔法使ってるよ私!自分の杖で!ちゃんと魔法使えてるよ!ひゃあ!感動ものだー!スマホがあったら写メ取りてえ!)
「おい、アリス」
「なんです?」
「もう洗ったから止めろ」
「ういー、…ん?」
「今度はなんだ?」
「えーと、どうやって止めるんすか?魔素球は一回出したら終わりだけど、この場合の止め方が分かりません」
「杖を軽く振る、杖への魔素を流れないようイメージする、それかシマギローノと唱えろ」
とりあえず杖を振ってみるアリス、するとピタリと止まった。
「おお!すげえ!」
アリスはそのまま寮に入る、すると龍が今日買った荷物を渡してきた。
「取り合えず今日買った教科書はこのかばんに入ってるな。それと中に明日着る入学式用の制服も入ってる、普段学校で着るものはもう学校の寮に届いてるはずだ。明日の入学式は今日買った制服で行くことになるが寸法が少し合わないだろうから、部屋に帰ったら一回着てみるといい、何か問題があれば友里に言え、直してくれる。それと制服の確認が終わったらすぐに食堂に来い。もちろん手ぶらでだ、食堂の場所は覚えてるな?いろいろな書類を書いた場所だ」
「あ、はい」
(いきなり多く言われても分からん!まあとにかく荷物を部屋に置く、制服に袖を通してみる、すぐに食堂に行く…かな?)
アリスは自分の部屋に向かおうとする。
「あ、すまん忘れてた。食堂に入るときはノックするんだ、理由は聞くな」
というと龍は食堂の方に行ってしまった。
「ほう…これはなかなか」
部屋に戻ったアリスは早速、制服に袖を通す。
確かに少し大きいと見て取れるが許容範囲だった。
「さて行きますか」
普段着になったアリスは食堂に向かう。
だがここでアリスはとある気配と違和感を感じた。
誰もいないはずの菊生寮に大勢の人の気配が感じ取れるのだ。
菊生寮は本来転生したばかりの者か未婚の識人ぐらいしか住んでいない。
だがそれ以上の人の気配。
それは食堂の前に着くとたん大きくなる。
(うーん、おかしい。何かおかしい、昨日も今日の朝も感じなかった多くの人の気配を感じる。師匠が先に食堂に行った理由は?それに寮に着いてから一度も師匠ラブの友里さんを見かけていない…もしかして二人とも食堂にいる?なら私を先に部屋に向かわせた理由は?なんかのサプライズ?たった二人で?もういいやこの扉を開ければ謎は解けるな)
私は扉を3回ノックした。
「ん?おう早いな、入っていいぞ」
私はゆっくり扉を開ける…訳はない!思いっきり扉を開けた。
「うりゃあ!」
パーン!パーン!パーン!
次に聞こえたのは旧世界で誰でも耳にしたことある、クラッカーの音だった。
そして、そこにいたのはいろいろな年の人、いろいろな職業の服を着た人たちだった。ざっと数えて50人はいるだろうか。
また、目に入った大きな垂れ幕に書かれていたのは
『ようこそアリス!ようこそセアへ!』
だった。
(あーなるほどそういうことね。こりゃあ一本取られた)
「「「ようこそ第二の地球『セア』へ!ようこそ第二日本国へ」」」
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