第29話 修学旅行(6)

ヒソヒソ


「あ…三上だ。あいつ今日ビーチで大暴れしたんだってな。」

「そうらしい。なんか6人位のムキムキの外国人を平然とボコボコにしてたらしいぞ。」

「ああ、俺見てた。凄かったぞ。ナイフ持った相手にも勝ってたし。それも無傷で。ビビった様子も声を荒げる事も無く、淡々と処理するって感じだった。あいつ殺し屋かなんかなのか?って思った。」

「普通に骨とか折ってたよな・・・怖っ。」

「なんか調子に乗ってる三上をボコろうとか言ってた奴らが、それを見て計画を止めたらしい。青ざめてたもんなあいつら。」

「ああ、俺も聞いた。なんか、手を出さなくて良かった・・・て震えてたよ。笑える。いつも偉そうにしてるのにな。その後、三上とスレ違った時、全員目を逸らしてるんだぜ?」

「そりゃそうだ。あんなの見た後実行したら、ただの自殺志願者だろ。」

「・・・俺たちも気をつけよう。」


ヒソヒソ


「ねぇ。あれ三上くんじゃない?」

「三上くんって、外人の怖い人達から、先生と同級生を助けたんでしょ?凄いよね。」

「なんか、あのいつも威張ってる体育の先生も居たらしいんだけど、こそこそ隠れてたんだって!だっさぁ!」

「なんか、男子のちょっと怖いグループの人たちも近くにいたらしいんだけど、誰も助けに行かなかったらしいよ?それどころか、少しづつ離れてたんだってさ!」

「そうだよねぇ。いざという時にはこそこそしてるなんて・・・もう誰も怖がらないんじゃないの?先生もあのグループも・・・いつもあんなに偉そうにしてるのにさ。」

「それに引き換え三上くんって凄いよね!全然強そうに見えないのに、メチャクチャ強いじゃん!格好良いよね!!」

「・・・実は私、前に男の人に絡まれた時に、三上くんに助けられた事があったから、強いのは知ってたんだよね。黙っててって言われたから内緒にしてたけど・・・もう、みんなにバレちゃったから良いよね?」

「え!?そうなの!?よく好きにならなかったわねあんた。」

「だって・・・廻里さんがいるじゃない。勝てる気しないもん・・・」

「ああ〜・・・わかるわ〜。」

「もっと人気出そうだよね。もう男子達涙目じゃない?勉強で負けて、強さでも負けて、運動も出来るし優しい。比べられたら勝ち目がないもんね。」

「だよね〜ウケる!」

 


 ・・・なんかチラチラ見られながら、コソコソ何かを話されている。

 もしかして、昼間の件かなぁ・・・怖がられてないと良いけど。

 これ以上の悪い評判は勘弁してほしい。

 そんな事を考えていた時だった。


 なんか先生たちが集まって、一人の生徒を囲んでいる。

 なんだろう?


「もう一度言ってくれ。見間違いじゃないのか!?」

「だからそう言ってんじゃん!外を見回っていた小森先生が、怖い人達に攫われたんだって!!口を塞がれたまま車に乗せられてたんだよ!!ついさっき!!」

「大変だ!!警察を!!」


 ・・・小森先生が?

 まさか昼間の奴らか?

 だとしたら・・・許しておけない。


「龍馬。」


 桜花が後ろから近づいてきた。

 側には、瞳、宏美、梨花もいる。


「行くのね?」

「うん。放っておけない。それに、甘かった僕のせいかもしれないし。」

「あなたのせいじゃ無いわ。私も行こうか?」

「いや、桜花はここを守っておいて。僕一人で行くよ。こそっと行くから、なんとか誤魔化しといて。」

「わかったわ。」

「ね、ねぇ・・・龍馬くん、なんの話してるの?一緒にいようよ。危ないことは警察に任せよう?」

「そうだよ龍馬っち。私達は、部屋にいよう?」

「あの・・・龍馬くん。二人の言う通りだと思う。私達まだ学生だし・・・先生は心配だけど・・・」


 瞳達が引き留めようとしてきた。

 僕を心配しての事だね。

 でも、


「ありがとう心配してくれて。でも、僕は行くよ。桜花、後は頼んだよ。」

「任せて。もうやりすぎるなとは言わないわ。地獄を見せてやりなさい。」

「ああ、わかってる。」


 僕はそう言って走り出す。

 桜花は、声をあげそうになった瞳達を落ち着かせて止めて、部屋に移動するようだ。


 ・・・小森先生に手を出したら、地獄に落ちる以上の目に遭わせてやる!!






 僕は姿を消して外に出た。

 既に、警察も来ているようだ。


 飛び上がって建物の屋根に乗る。

 念話で僕の家に遊びに来ていたみんなに相談すると、リディアがこっちに呼べって言った。


 僕は魔力を練った。


「大召喚!リディア!!」


 僕の目の前にリディアが現れる。


「リョウマさん。話は念話で聞いた通りですね?なら、この魔法を使って下さい。」


 リディアは僕に口づけをした。

 それと同時に知識が僕に流れ込む。

 ・・・思念を渡すだけならおでこくつけるだけで良くない?

 何ピオーネのヒロイン?


「ぷはっ!ふふふ・・・役得ですね!その魔法は、サーチの魔法です。人を探すこと限定ですが。この間ホームにジードさん達が遊びに来た時に、マリオンさんと一緒に考えて作りました。これで、どこに居ても探すことができます。ふふふ、どこに居ても、ね。」

「そ、そう?ありがとう助かるよ。」


 ・・・なんか背筋がゾワって来たんだけど。

 というか、なんの為に作った魔法か教えて下さる?


「うふふ・・・内緒です♡」


 ・・・ジード、一緒に強く生きていこうね。

 リディアを送り返し、僕は魔法を発動する。


 すると、移動している反応を見つけた。

 その反応は、すぐに止まった。


 おそらく目的地に着いたんだ。


 僕は、再度姿を消し、そこまで飛んでいった。




side小森早苗


「ん〜!!ん〜!!」

【ボス、連れてきましたぜ。】


 私は、見回中に、複数の男たちに口を押さえられ、無理やり車に引きずり込まれた。

 移動中は、身体をまさぐられる事はあったけど、口にしたくないような事はされなかった。

 でも・・・


【お〜お〜!中々美味うまそうじゃねぇか!身体も良いな!おい!こいつの口をきけるようにしてやれ!】


 奥に居た、身体の大きな外人が私の側に来る。

 怖い・・・今から何をされるのかわかるから、余計に怖い・・・


【お?なんだ、震えてるのか?まぁ、もう少ししたら気持ちよくしてやるさ。あれ持って来い!!】


 男たちの一人が何か薬を持ってくる。

 あれってまさか!?


【これは覚醒剤だ。今からお前に吸わせてやる。そうすれば恐怖も何も無くなるだろうさ!まぁ、正気に戻れるかは知らねぇがな!ギャハハハ!】


 嘘・・・そんな・・・嫌だ!そんなの嫌!


【・・・そんな事をして、警察にバレたら、逮捕される。】

【おお、片言でも英語話せるのか。別にいいさ。警察なんざ怖くねぇ。返り討ちにしてやるだけさ!】

【ボスにはあれがあるからな!超能力がよう!】


 ・・・なんて言ったのかしら・・・超能力と聞こえたような気がしたけど・・・私の拙い英語ではこれが限界だわ・・・それよりも・・・どうしよう・・・


【まずは、着てるもんを脱がせるか。お前ら、剥ぎ取っちまえ。】

【【【【【【おう!!】】】】】】


 きゃああああああ!

 一斉に男が群がってきた!!

 服を破かれる!

 暴れたら手足を押さえつけられた!

 怖くて涙が止まらない!

 怖すぎて叫び越えもあげられない!!

 誰か!

 誰か助けて!!


 三上くん!!!


 ドカンッ!!!!!!!!!!

 

 入り口が吹き飛んだ。

 全員そこを見る。


 すると、そこには・・・三上くんがいた。


「先生!今助けます!!」


 三上くんは私の姿を見て、ホッとしたようだった。

 でも、すぐに表情を変えた。


【先生を泣かせたな…お前ら・・・地獄を見せてやる。】


 その声は、助けて貰う私ですら、背筋が凍るような声だった。

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