第10話 ゴールデンウィークに向けて

 新学期も二週間が過ぎた。

 最高学年という事もあり、みんな受験ムードだ。

 余裕があるのは・・・僕と桜花くらいのもんだね。

 今は放課後、僕は桜花と話をしながら帰宅準備中。


「ねぇ、ゴールデンウィークどうする?」

「・・・う〜ん・・・どうしようかな・・・」


 桜花の言う、どうする?には2つの意味がある。

 何をするか、そして、どっちで過ごすか、だね。


 向こうで過ごすのも良い息抜きになるかもしれない。

 そうだ!父さんや母さんに、向こうを案内するのもいいかも!


「ねぇ、GW中って、道場休みだったよね?」

「そうね。」

「ならさ、両親を招待しない?観光がてらさ。」

「なるほど。良いわねそれ。ちょっと話して見るわ。」

「うん。僕も聞いてみよっと。」


 そんな風に話している時だった。


「ねぇねぇ!なんの話してるの?」


 葛城さんがやってきた。

 何せここは教室、だから決定的なワードを出して無かったんだよね。


「ああ、葛城さん。実はね、GW中にお互いの両親と一緒に、旅行に行こうかって話してたんだよ。」

「あっ!馬鹿、龍馬!!」


 何故か桜花が焦っている。


「え!?そうなの?受験は大丈夫?」

「うん。多分ね。」

「葛城さんは、受験勉強、頑張らないといけないのよね?だからGW中は勉強漬けよね?」

「う〜ん・・・実は、私も模試でA判定貰ってるから、そこまで追い込まなくても良いんだよね。ところで・・・」

「葛城さん!それでも、追い込んだ方が良いわよ?ライバルはいっぱいだもの!」


 途中で、葛城さんを遮るように、言葉を発する桜花。

 どうしたんだろ?


「そうね・・・ライバルいっぱいだよね。だから、さ、ついてって良い?旅行。」

「いっ!?旅行に?いや・・・父さん達も来るし、桜花のお父さん達も来るから、それはちょっと・・・」

「え〜!?良いじゃん良いじゃん!ね?迷惑かけないからさ!」

「う〜・・・でも・・・」

「葛城さん?流石にそれは認められないわ。」


 きっぱり断る桜花。

 葛城さんは、顔を桜花に向けて、にっこり笑って、


「廻里さん、その旅行には、あの人達も一緒に行くのかしら?」

「っ!!」


 そう言った。

 桜花は、苦虫を噛み潰したような表情をする。

 

「その人達が一緒に行くなら、私も一緒でもいいんじゃないかしら?」

「ぐっ・・・う・・・」


 珍しい・・・桜花がやりこまれてる・・・

 でも・・・流石に、葛城さんを異世界に連れて行くわけには行かないよね。


「葛城さん。」

「何?三上くん。」

「あのね・・・今度の行き先は、ちょっと連れて行くのが難しいんだよ。多分日本から出るから。」

「外国!?そうなの?」

「うん、だからね。また違う機会じゃ駄目かな?」

「・・・お願い一つ聞いてくれたら良いよ。」

「お願い?僕に出来ることなら・・・」


 まあそれくらいなら・・・


「あっ!?龍馬!?・・・」


 桜花は更に焦ってる。

 何をそんなに焦ってるんだろう?


「なら、私の事も名前で呼んでくれる?」

「おやすい御用だよ。瞳さん、で良かったよね。」

「違うよ。」

「え!?」


 あれ!?でも、葛城瞳さんで良かった筈だけど・・・

 桜花が手で顔を覆って、あちゃーってしてる・・・なんで?

 

「私の名前は、葛城瞳、よ。」

「?だから瞳さんって」

「葛城瞳さん、ではないよ。葛城瞳、だよ?」

「もしかして・・・」

「うん!呼・び・捨・て♡」

「いいっ!?そ、それは・・・」

「あれ〜?さっき”なんでも”って言ってたような・・・」

「えっ!?・・・言ったっけ?」

「言ってないわ。出来る事ならって言ったのよ。」


 桜花が加勢してくれた、なら・・・


「そうだね。出来る事、だよね。ねぇ三上くん。私の名前呼べない?普通、仲の良い友達だったら呼べるよね?私達三年間クラス一緒だった仲の良い友達じゃないの?まさかそう思ってたのは、私だけだったの?・・・クスン。」


 悲しそうにする葛城さん。

 

「う・・・う・・・ひ・・・」

「ひ?」

「駄目よ!龍馬!」

「廻里さん。しーっ。」

「もがっ!?」


 なんか、桜花の口を葛城さんが手で抑えてる。

 じゃれてるのかな?


 それより・・・そうだよね・・・三年間一緒のクラスか・・・それにいつも気にかけてくれてたし・・・

 恥ずかしがってちゃ駄目かな・・・

 普通みたいだし。

 頑張って・・・


「ひ・・・と・・・み・・・」

「はい!」

「・・・あ〜あ・・・」


 ぎこちなく名前を呼ぶ僕と、嬉しそうに返事をする葛城・・・瞳さん。

 それと、呆れた顔をする桜花。

 ・・・やっぱり早まったかな。


「それじゃ今度は一緒に連れてってね!龍馬くん!」


 そう言って離れる瞳さん。

 ・・・撤退が早い。

 それにすぐに名前呼び・・・あれがリア充って奴なのかな?

 凄いなぁ・・・


 そして、ここに怒れる鬼が一人。


「・・・どうやら、また折檻されたいみたいね・・・」

「で、でも・・・ほら!仲の良い友達なら普通だって・・・」

「・・・そうね。男女でもそれは普通かもね。でも、彼女の場合そうじゃないのよ・・・」

「えっ!?それはどういう事!?」

「・・・はぁ。まあいいわ。だけど、埋め合わせはして貰うわよ。」

「・・・埋め合わせ、とは?」


 あんまりきついのは無しでお願いします。


「週末、みんなで、金曜日から。」

「!?」

「あなたに拒否権はないわ。」


 ・・・うう・・・結局こうなるのか・・・

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