第338話 両親

「ただいま!」


 僕がそう言った後、家の中からドタドタと走って来る音が聞こえる。

 ガチャッとドアが開いて、母さんが飛び出して来た。


「龍馬!」


 母さんは僕に飛びつき、抱きしめて来た。


「龍馬!もう!いったいどこに行っていたのよ!!」


 母さんは、泣きながら強い力で抱きしめて来る。

 こんなに心配させちゃったのか・・・

 少し、やつれてるし・・・


「ごめんね。」


 僕が母さんを抱きしめて謝っていると、足音がもう一つ近づいて来た。

 父さんだ。


「龍馬!このバカ息子!!何やってたんだ!!親を心配させるんじゃない!!」


 強い口調とは裏腹に、父さんも僕を抱きしめる。

 父さんの目にも光るものがあった。

 思えば、父さんの泣いている姿なんか初めて見た気がする。

 やっぱり母さんと同じでやつれているように見えた。

 本当に心配かけちゃったな・・・


 父さんと母さんに抱きしめられるていると、心がとても落ち着くのに気がついた。

 あたたかい・・・

 僕の目からも涙が流れて来た。


 ああ・・・帰って来られたんだ・・・


「父さん、母さん、ごめんね。迷惑をおかけしました。僕・・・無事帰って来られたよ・・・」

「・・・うう・・・龍馬・・・」

「・・・よく無事で帰って来た。本当に・・・本当に良かった・・・」


 僕たちは少しの間、お互いを抱きしめあった。


 どれだけ時間がたったかわからない。

 ふと、お互いに離れると、父さんが切り出した。


「・・・まずは家に入ろう。龍馬、何があったか話してくれるか?」

「うん。全部話すよ。」


 僕たちは家に入って、居間で向かい合う。


「それで、いったいこれまでどうしていたんだ?」

「・・・父さんと母さんは、僕が言う事を信じられる?」

「・・・信じたい、とは思っている。俺達が聞いたのは、桜花ちゃんから聞いた事だけだからな。」

「そうよ!桜花ちゃんもいなくなっちゃったの!龍馬知らない!?」

「それについては大丈夫だよ。桜花も一緒に帰って来たから。今頃、同じ様に桜花の家に帰ってるはずだよ。」

「・・・そう。良かったわ・・・それで、何があったの?」

「うん。まずは、僕の話しを遮らずに聞いて欲しい。荒唐無稽かもしれないけど・・・」


 僕は話した。

 次元穴に飲み込まれた事。

 ジードに出会った事。

 異世界に行った事。

 みんなと出会った事。

 人を殺した事がある事。

 向こうで召喚された桜花に出会った事。

 桜花とみんなで婚約した事。

 悪神を殺して、戻る力を得た事。

 それまでに、一年以上かかった事。


 全てを話した。


 父さんと母さんは、困惑した様子で聞いていた。

 僕が、全てを話し終えた後、父さんは口を開いた。


「正直、信じられない、という思いが強い。あまりにも常識外れな事だからな。だが・・・」

「・・・あなたの様子を見ると、嘘ついているようにも見えないのよ・・・あなた隠し事下手だし・・・でも・・・」


 そりゃそうだよね。

 漫画やラノベなんかの世界のような話だし。


「まあ、その・・・信じられるようにする、というか、証明出来る事はあるんだ。だけど、それには桜花が・・・」


 Prrrrrrrrrrrr


 そのタイミングで母さんの携帯が鳴る。

 おそらく・・・


「はい・・・っ!やっぱりですか!?龍馬も今帰って来たんです!!それで・・・はい・・・ええ、そうなんです。はい、わかりました。そうしましょう。」


 母さんが電話を切る。


「母さんどうした?」

「すみれさんからよ。桜花ちゃん帰って来たって。それで、龍馬と同じ説明をしたようよ。で、今からご両親とこちらに向かうってさ。」

「そうか。・・・龍馬。証明出来ると言ったな?それは、桜花ちゃんのご両親も交えてと言うことか?」


 流石父さん。

 相変わらず頭の回転が早いね。


「うん。どうせなら、その方が説得力があるかなと思ってね。あっ!!母さん、悪いけど、もう一度電話して、こっちから向かうって言ってくれない?道場が使いたいんだ。」

「え、ええ、いいけど・・・もしもしすみれさん?あのね・・・」


 母さんがすみれさんに折返している間に、父さんが話しかけて来た。


「しかし、どうやってそんな証明を・・・?」

「決定的なのは後日になるけど、僕がこの世界の人間を遥かに越える力を持っている事はすぐに出来るよ。桜花との、模擬戦を見て貰えばいいんだから。それに・・・桜花のご両親にも謝らなきゃいけないしね。」

「・・・う〜む。その事も気になってはいたんだが・・・」

「ねぇ、龍馬。あなた本当に、そんな人数の人達と婚約したの?騙されてないの?」

「それは、直接会えばわかるよ。」


 そう言ったら、父さんと母さんは戸惑っていた。


「いや・・・直接って・・・どうやって?」

「そうよ。一緒にこっちに来ているの?」

「違うよ。僕の部屋と、向こうを繋ぐ予定なんだ。父さん達も一緒に行って確認したら、信じるしかないでしょ?」

「まぁ・・・それはそうだが・・・」

「それよりも、桜花の家に行くんでしょ?準備しないと。」

「あっ!そうね!」


 こうして、僕たちは父さんの車で桜花の家に向かったんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る